【創作】ヒマワリに願いを(シロクマ文芸部)
空に向かって真っすぐに咲く庭先の向日葵の前でタックンはそう願いを掛けました。
タックンは願い事がある時、いつもこの向日葵に願っていました。
自分の背丈よりも随分と高いこの向日葵がなんとなく見守ってくれているような気がしていました。
明日晴れて欲しい時、ケンカしたヒロちゃんと仲直りしたい時、おもちゃを買って欲しい時など向日葵の前に立って目を瞑り心の中で願い事を祈っていました。
そして今回もまたタックンは向日葵の前で願いを掛けたのです。
タックンはいつもママにガミガミと怒られていました。
「早く起きなさい!」「手を洗いなさい!」「宿題をしなさい!」「お風呂に入りなさい!」「ゲームはもうやめなさい!」「早く寝なさい!」・・・
毎日、毎日口うるさく言われていました。
「ママはきっとボクのことがキライなんだ」
タックンはそんな風に思っていました。
でもタックンはそれで良いと思ってました。
なぜならタックンもガミガミと怒るママが大キライだったからです。
そしてそんなママがいなくなればいいと思っていました。
🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻
そんなある日のことです。
ママの体調が悪くなり少しの間入院することになりました。
パパと一緒にママを病院へ送った後、タックンは喜びました。
ガミガミと怒るママがいないと思うと嬉しくて仕方ありませんでした。
ママが入院した次の日の朝、目を覚ましたタックンは時計を見て驚きました。いつも起きる時間をとっくに過ぎていました。
「うわ!遅刻しちゃう!何でママは起してくれないの!」
慌ててリビングへ行くと、そこには急いで着替えているパパがいました。
「タックンゴメーン!パパ寝坊しちゃったよ。悪いけど今日は朝ごはんは我慢してね。
あ!もう行かなきゃ!そこに鍵があるからちゃんと戸締りしていくんだぞ!」
そう言うとドタバタと出ていきました。
タックンは着替えながらママがいないことを思い出しました。
ガミガミと怒るママがいないと思うとワクワクしてきました。
家を出る時に庭先の向日葵の前に立ちました。
そうお礼を言ってタックンは小走りで学校へ向かいました。
🌻🌻🌻🌻🌻🌻🌻
学校から帰ったタックンは、うがいや手洗いもせずにすぐに遊びに行きました。もちろん宿題もしていません。
そんなことはお構いなしにタックンは友達と遊びました。
夜にはパパが買ってきたコンビニ弁当を食べながらTVを見て大笑いしました。
ご飯を食べると、お風呂にも入らずに大好きなTVゲームをたくさんやりました。
こんな日がずっと続けばいいな、そんなことを思いながら眠りにつきました。
次の日、朝起きてタックンがリビングに行くとそこにはもう誰もいませんでした。
テーブルの上には手紙と一緒に1000円と菓子パンが2個置いてありました。
「タックンへ
パパはもう会社へ行きます。朝はパンを食べてください。
今日はちょっとおそくなるので、このお金ですきなモノを買って食べてください。ちゃんとカギをしめて行くんだぞ。
パパより」
手紙を読むとタックンは菓子パンを一つ手に取り食べ始めました。
ガランと静まり返るリビングを眺めて、何だか少し寂しくなりました。
庭先の向日葵の前に立ち止まりましたが、願いを言う事はなく学校へと向かいました。
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その日もタックンは学校から帰るとすぐに遊びに行きました。
でも昨日よりもあまり楽しくありません。
お家に帰り一人でお弁当を食べながらTVを見ていましたが、やっぱり昨日よりも楽しくありません。
大好きなTVゲームをやっていても楽しくありませんでした。
モヤモヤとした気持ちのままゲームを止めて眠りにつきました。
その次の日には何をやっても全然楽しくありませんでした。
それどころか大キライなママのことばかり考えてしまいます。
その日の夜、タックンはパパに聞きました。
「ママはいつ帰ってくるの?」
「そうだなぁ。明日の手術が終われば1週間くらいで帰ってくると思うよ」
タックンはまだ手術の意味がよく分かりませんでした。
でもママがあと1週間で帰ってくると聞いて嬉しくなりました。
タックンはずっと前から思っていたことをパパに聞きました。
「ママは僕のことが嫌いなの?」
パパは驚きましたが、優しく微笑むとタックンに伝えました。
「ママがいつもタックンにガミガミ言うのはタックンのことを大切に思っているからなんだよ。
朝起すのは、タックンが遅刻しないように。
手を洗いなさいと言うのは、タックンが病気にならないように。
宿題をしなさいと言うのは、タックンが先生に怒られないように。
ママはいつだってタックンのことを考えているんだよ。
ママはタックンのことが大好きなんだよ」
タックンはパパの言葉を聞いて安心しました。
胸の辺りがじんわりと温かく感じました。
その日の夜、タックンはママのことを思いながら眠りました。
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次の日、タックンは学校でヒロちゃんにママの手術のことを話しました。
それを聞いたヒロちゃんは驚きながら言いました。
「タックンのママは死んじゃうの?しゅじゅつすると死んじゃうんだぜ。
オレのおじいちゃんはしゅじゅつして死んじゃったもん。」
タックンはヒロちゃんの言葉にひどく動揺しました。
ママが死んでしまうんじゃないか、ママともう会えないんじゃないか、そんな風に思うと不安でいっぱいになりました。
その日学校から帰ったタックンは庭先の向日葵の前に立つと目を瞑って一生懸命に願いました。
溢れる涙を拭おうともせずタックンは向日葵にずっと願いを祈り続けました。
「タックン、こんなところで何やってるの?」
気が付くとパパが後ろに立っていました。
顔をくしゃくしゃにして泣いているタックンを見たパパはタックンの手を掴みました。
「ママに会いに行こう」
そう言ってパパはタックンの手を引いて歩き始めました。
病院へ着くとタックンとパパはすぐにママの病室に行きました。
病室には手術を無事に終えたママがベッドで本を読んでいました。
タックンに気付いたママはとても驚いた顔をしていました。
タックンはママの顔を見ると止まっていた涙がまた溢れてきました。
「ママ、死なないで。死んだらいやだよぉ」
そう言ってタックンはワンワンと泣きました。
そんなタックンにママは目に涙を浮かべながら笑って言いました。
「バカねぇ。ママは死なないわよ」
「ホントに?」
「本当よ!こんなに元気なママが死ぬわけないじゃない!」
そう言ってママは袖をまくり上げると心配そうに見つめるタックンに力こぶを見せました。
タックンは安心したのか涙を拭って笑いました。
「こっちにおいで」
近づいたタックンをママはそっと抱き寄せました。
病室で抱きしめ合う二人をパパは優しい眼差して見ていました。
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それから5日後、ママは元気な姿でお家に帰ってきました。
ママは前と同じように毎日タックンにガミガミと怒っていました。
でもタックンはそれで良いと思ってました。
なぜなら、タックンはガミガミと怒るママも大スキだからです。
そしてタックンは毎日庭先の向日葵に願い事を伝えていました。
おしまい
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