原発について考える東北旅行
10日間の東北旅行では3つぐらいテーマを作っていた。そのうちの一つが原発に対する考えを深めること。
サステナビリティを考える上でエネルギーは欠かせないテーマで、周囲の”エコな人々”の間では再生可能エネルギー一択みたいに語られているけど、一方で太陽光パネルは結局森林破壊を促進してるとか、水力発電は水質や生態系を変えてしまって地元漁業にも悪影響だとか、風力発電は鳥を跳ねてしまうなど否定的な意見もあるし、原子力発電の方がCO2の排出を抑制できるという点では脱酸素社会の路線と一致する。
では両手を挙げて原発再稼働に賛成すべきなのか。PCの前で考えてもなんとなく表面的な理解に過ぎない気がして、福島で東京電力廃炉資料館と震災遺構 になっている浪江町の立請戸小学校、それに加えて青森にある原子燃料のリサイクル施設を見学することにした。
福島第一原発の事故は人災だった
周辺は真新しい家や建物ばかりで、それは復興を喜ぶよりも先に人々の営みを奪ってしまったことを思い起こさせる風景だった。
廃炉資料館の見学は1時間ごとのツアーになっていて事前予約が必要だったけど、当日の10分前に電話したらすんなり予約できた。
ツアーが始まると最初に案内されるのが事故当時の再現VTRを含む検証とお詫びの動画。企業としての責任は重く、安全性に慢心していたことを謝罪する内容に続き、事故の経緯や爆発した原子炉と爆発に至らなかった原子炉の違いが解説される。津波が来て非常用電源を含む電気系統がダメになって炉内を冷やすための注水ができなかったことが爆発の原因とされている。しかし後で調べて知ったが、この危機管理についての見直しの機会や指摘は幾度もあったんだよね。それを実行していれば、あそこまでの事故にはならなかった可能性があると。
よく「日本は災害が多いから原発は危ない」っていう人がいるけど、今回の旅を経て、私はそんなふうには思えなかった。福島第一原発の事故は地震や津波が原因というより、「安全性を最優先にしなかった企業による人災」だと感じた。
そもそも原子力発電関連は天災の多寡に関わらず世界中で事故が起こってる。でもレベル7相当の事故は過去にチェルノブイリと福島第一のみ。チェルノブイリも管理や設計の甘さが原因だと指摘されている。災害の多い国だからリスクが上がるわけではなく、その国や立地にあった対策を講じていれば諸外国と同様に利用できるんじゃないか。そんなふうに感じました。
原発は安価なんかじゃない
原子力は安全性を最優先とした設計と対策の積み重ねをすることで初めてその利益享受をすべき。ただし、その安全性の確保や追求はすんごいコストがかかる(だから東電も津波対策を見送っていた)し、その社会的コストを含めた発電コストは、事故前の試算 の5.9円/kWhとされていた発電 コストは、2021年には標準的ケースで11.7円/kWh以上と2倍に上がったという。
廃炉にも300億円/基、福島第一原発の事故機に関しては措置完了までに8兆円かかるとも言われている。正直、これまで原子力発電が安いと言われていた背景にはこうした費用を企業がコストに上乗せする(ないしは国が補填する)ことを考えても、資源採取―原料生産―製品生産―流通・消費―廃棄・リサイクル)までのライフサイクル評価としては全く安くなさそう。
でも、原発の燃料は再利用できるから準国産のエネルギーとして日本のエネルギー自給率の上昇に寄与してるって?
そう思って再処理工場の建設地である六ヶ所村にも行ってみました。
外観を見ての通り、結構古い建物だなと思ったら1991年に開館してからすでに30年以上経ってました。
展示自体は原子力発電の原理から世界の動向や、再利用するまでの工程をデモ機を使って小学生高学年くらいの子どもでもわかるように説明していてとても良い施設。ただ、再処理事業の進捗や日本の現状については全然触れられておらず、恥ずかしながら私は見学するまで全ての再処理過程が六ヶ所村で完結しているのかと思い込んでた。
でも色んな展示をよくよく見ると、燃料サイクルに欠かせない六ヶ所村のMOX工場は2024年上期竣工だと書いてて見学しながらズッコケた。
確かにネットで調べたら全然稼働してなかった。それどころか再処理工場は竣工時期を既に26回も延期している(!)備蓄だとか準自給エネルギーといっても現状は日本で完結する仕組みはない。
あと、ライフサイクルを考えるとき、高レベル放射性廃棄物(いわゆる核のゴミ)の最終処分場を決める必要があるのだけど、日本はまだそれも決まっていない。おそらく数十年前に作られた展示パネルには平成40年(2028年)には処分を開始と書いてたけど、日本では2020年に北海道寿都町と神恵内村において文献調査が開始されたところで最短でも20年は建設が始まることはない。
核のゴミ問題は世界的にまだ完全に実施しているところはないが、始める時にそのライフサイクルを考えられないどころか、次世代の子どもたちが大人になる頃に、自分たちが使ってもいない高レベル放射能廃棄というリスクの高い処理を残して現代の人間は去っていくだけなんて正しい世界だとは思えない。おそらく今までの発電コストの試算がそうだったように、実際に処理する頃になったらその費用は試算の何倍にもなっていると思う。そんなツケを次世代に押し付けるようなことをしていいのか、いささか疑問が残ってしまう。
まとめ
日本だけでなく、世界はこれからもますます電力を必要とする。電気自動車も今よりもっと普及するだろうし、まだ電気が通っていない地域に暮らす人が世界には20億人。
そんなわけで、2つの施設(と被災地の今)を見てきて考えた私の原子力発電に関する意見としては、「経済合理性よりも安全を最優先させれば再稼働はありかも」と思う一方で、高すぎる社会的コスト、進まない開発とライフサイクルを見据えていない現状に、主力電力にするには他と同じかそれ以上に問題のある発電なんだと理解し、これ以上推進する意義も正義も見出せないなと思ったです。サステナビリティを考える時、脱炭素も安定供給ももちろん大切だけど、それよりも先にまずは「未来の負債を作らない」ことなんじゃないだろうか。
福島も青森も四国に住んでるとなかなか行きづらい場所だけど、日本人として自分の国が抱える問題を知るとても良い場所なので、ぜひ色んな人にいってほしい。
考えをまとめながら事実確認をしてアウトプットするのってめっちゃ大変。だけど、感じたことや考えたことが少しでも伝われば嬉しいです。最後まで読んでくださってありがとうございます。
参考HP
下記の原発利用状況とその将来的な意向は面白かったので載せときます。