「実は」で始まる自分史 その1

身近な人たちに、「実は」で始まる自己紹介をするとき、10回に1回出すネタ。私の性格や印象からは程遠いので、自分と付き合いが長い人ほど「え!」と軽く驚いてもらえる。

20代の時。多分、23歳の時。あるミュージカル団体に所属していたことがある。所属したといっても、たった半年ぐらい。

入った理由も、その団体を選んだ理由も、何で辞めたのかも、その団体名すら、もはや覚えていないけれど、その団体に所属していた記憶は、人生の中でちょっとした刺激だったらしく、随分経った今でもふと思い出す。

本気で俳優を志す人が3分の1、過去にやっていたとか、演劇に興味があるとか、歌が好きとかという趣味の類が3分の2。私のような全くの素人であり、やるのは何でもよかったというような人間は私のほかにもう一人いたかどうかぐらい。

そこそこミュージカルに縁のある人たちの集まりで、場違いだなと思いながら、それでも仕事終わり、その稽古にそこそこまじめに通っていた。

ちょっとした刺激だったといっても、覚えているのは3つ。

1つ目が、自分の最初で最後の初舞台。不思議の国のアリスのミュージカルで、ハートのエースの兵士役で出て一言セリフを言ったこと。たった一言のセリフにも関わらず、自分でもわかるものすごい素人感満載の演技に、あの演出家、よく自分を出したなと今でも思う。

思い出作りに理解があったのか、人が本当に足りなかったのか、まずは舞台を経験させて自己効力感を高めさせたかったのか、今となっては真意はわからないけれど、なかなかスリリングな舞台だったんじゃないかと思う。

2つ目が、本気の人たちの本気の演技が本気ですごかったこと。プロって別格なんだと初めて知った。演技の上手さというのはテレビの画面越しや観客としてだと、そこまであまり違いがわからないが、自分も演者の立場で、しかも間近で見ると、その格の違いがはっきりとわかる。

別の舞台稽古で、主役のAさん(女性)とBさん(男性)が恋人役で熱烈なラブシーンがあったとき、二人とも完全に恋人同士だった。そのAさんには同じ団体にCさん(男性)というパートナーがいて、演技と私生活は別なんて皆プロだなーと感心していたけれど、いやいや、そんなわけはない。普通に私生活にも影響出るよね。絶対。一時とはいえ、役柄とはいえ、恋に落ちた相手がいて(本気で恋に落ちれること自体はプロだが)、そんな簡単に舞台だけの話だと切り替わらないよね。

今となっては、当時のAさんBさんCさんの三角関係になったのではないかという裏事情がかなり気になるところ。

3つ目は、当時団体の拠点だった駅が代々木上原だったこと。その時初めて代々木上原という駅に降り、夜だったからか、駅周りの店が閉まっており、かなり閑散とした印象だった。暗い一本道をとぼとぼと7-8分ほど稽古場まで歩いた。もしかしたら、もしかすると、その暗い感じが何となく嫌で辞めたのかもしれない。

今でも「代々木上原」と聞くと何となく「お?」と反応する。そしてオシャレな街とか、高級なというキーワードに同時に違和感を持つ。特に嫌な記憶なわけではないのだけれど、妙にその時の暗い夜道が記憶に残っている。

なぜかたまに思い出す、そんな不思議な夜の日の記憶。

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