特集 東京五輪 ~復興五輪の正体~
お待たせしました。
今回は、東京五輪の"復興五輪とは何か"についてお話します。
この記事は、5月12日に広島大学文化サークル連合の、広島大学新歓講演会実行委員会によって開催された、「鵜飼哲さん 講演会 オリンピックと大学」での取材に加え、自らのリサーチを加えました。掲載にあたり、講演の言及を一部分に求める、という条件で、ご本人のご了承を事前にいただきました。
〇なぜ東京で五輪をやるのか
一橋大学名誉教授である、鵜飼先生の講演によると、そもそも東京で五輪を開きたい、というのは、「新宿外苑を再開発したいがゆえに、五輪を招致しようと、森喜朗と石原慎太郎が考えた」のである。調べてみたところ、招致構想そのものが始まったのが2005年(1)。つまり忘れられがちだが、
この五輪はそもそも「復興のための五輪ではなく、東京の再開発のための五輪」
なのだ。そうなると、
震災の復興のために東京でオリンピックをやる、というのは、震災後の人々の感情に訴えて、五輪機運を高めるための宣伝文句だったのである。
まず、復興五輪云々が完全な後付けであることをまず私たちは頭に入れておく必要がある。
〇東日本大震災後に五輪招致が再燃した一因とは
次に、皆さん一度東日本大震災の事を思い出してほしい。私は当時東京都に住んでいたが、この後東京も危ないのでは、と恐怖に感じたのを覚えている。あの福島第一原子力発電所の事故である。当時は、関東でも放射線の影響を受けた。あれから音沙汰が無くなったが、少し古いが、"その後"のデータが在る。
原発事故後関東から避難してきた団体の記事によれば、ジャーナリストの霧島瞬氏の実測値から、五輪の開かれる東京の放射線実測値が、多くの地点で除染が必要な0.23マイクロシーベルト/時を超えている事が分かる(2)。東京スカイツリーや羽田空港など、超えていない時期のある場所もあるが値は超えているデータが多い(2)。五輪開催にあたっては、原発事故の影響を懸念する国もあったが、このデータから見ると合点がいく。
ここで話を脱線させる。東京で心配なのは放射線の影響だけではない。首都直下型地震や富士山の火山灰飛来などの天災のリスクもある。東京一極集中ともいわれるが、災害に見舞われやすい土地に国の政治的・経済的機能が一極集中している。そして、長年経済政治の中心であったことに加え情報社会化や、地価の低下、東京を優遇する政策が取られたこともあってか、東京と他の地域の経済格差は大きくなっている(3)。震災などがあるたびに、首都機能移転の声が度々上がっていて、3.11直後はかなり大きかった。
そこに舞い込んできたのがそんな「東京で五輪を開く」である。第2部以降にも触れるが、オリンピックは、「平和の祭典」とは裏腹に、本質的には政治のアピールの場となる事が多い。最初のセクションで触れたように、「東京五輪」は「東京のためのオリンピック」。東北等の地方で五輪をやる事では、「東京のため」の五輪とはならない。
ここで種明かしをすると、
「東京五輪を開く事」は、再開発だけでなく、「世界的なオリンピックが出来る東京は安全」。という政治的なメッセージを世界に、国内に発信できる最適な考え
なのだ。
鵜飼先生の講演では、実際安倍前首相が「2013年に福島事故の状況が制御され、東京に全く影響が今も昔もない」、という旨の発言をしたことを取り上げられた。先生もそれが根拠がない、と批判をされたが、事故の終息作業が終わらない報道を聞き、こうしたデータを見ると根拠が極めて不十分なのは見て取れるだろう。
〇東京と地方の格差
このように、東京への再中央集権化が進んでいる事もあり、地域格差がは是正されていない。そして何より忘れてはいけないのは、東京に再開発のために資源を回していることで、被災地の復興が遅れていること、そして、「東京の安全」のために、放射線量の高い原発の周辺で、終わりのない廃炉作業を、」自分の身体を壊しながら専念していること、そしてそれが、「東京という大都市に限られた更なる発展」のための五輪のために起きている事だ。鵜飼先生は、こうしたことから、倫理的な意味も込めて、東京五輪に反対の声を上げ続けている。
〇次回
東京オリンピックをIOCがやるメリットは?
https://note.com/kosmo_note/n/ned0d94b568fa
〇参考文献
(1)安田秀一. 日本経済新聞株式会社. "東京五輪のビジョン、当初から変わったのはなぜか". [ 更新 2021-03-24]. https://www.nikkei.com/article/DGXZQODH171MJ0X10C21A3000000/ [参照 2021-06-13]
(2)渡辺悦司. Go West, Come West !!!. "渡辺悦司さん【福島原発事故 東京の放射能汚染は深刻】". 本文及び表1. [更新2017-03-26]. https://www.gowest-comewest.net/2017/03/26/watanabe20170326/ [参照 2021-06-13]
(3)戸所隆. 東京の一極集中問題と首都機能の分散. 地学雑誌 Journal of Geography(Chigaku Zasshi). 2014, 123(4)528—541 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography/123/4/123_123.528/_pdf [参照2021-06-13]