報道の委縮とフェイクニュース(2)

※この記事は、広島大学の講義レポートとして作成したものを、一部を加筆・修正して載せております。講義の担当教員には許可をいただいております。

〇フェイクニュースの定義とその事例



 総務省に掲載された、令和元年度情報通信白書は、フェイクニュースを色んな機関における定義を参照している。それらをまとめると、

「偽の情報、あるいは真の情報に加工や変更を加えたりして、センセーショナル性を持ってインターネットなどで不特定多数に広がり、その結果社会の混乱や広告収入、特定の人物や企業の信用失墜を目的とした報道」

と考えられる(1)。

 また、群馬大学社会情報学部における研究では、

①「出来事を捏造、また出来事を証拠隠滅」

②「焦点をずらし、言葉の言いかえによる事実のねじ曲げ」

③「全体像を取り上げず、事実を一部だけ報道する、無根拠に自己の見解を正当と主張する」

④「出来事に関する上で理解をするのに欠かせない本質的事実を報道しない」

の4つの位相(2)を挙げている。

 日本で起きたフェイクニュースは、前回の記事で書いたNHKの五輪ドキュメンタリーにおけるデモの反対派への映像、読売新聞の前川報道である。

 前川報道とは、2017年5月22日の読売新聞の記事で、文部科学省に在職していた時期に、出会い系のバーへ通っていたとされている。記事の切り抜きを実際に読む機会があった。

 記事では、通っていたとされるお店は、男性客が数千円の料金を払って、店員に店の女性を紹介してもらう。女性らは折り合いがつけば、割り切り」と称して、売春や援助交際を男性客に持ち掛け、さらに交渉が上手くいくと、ホテルなど店の外に男性客と出かけ。こうした事案には店は関与されないという。そのお店に、前川が文部科学審議官だった頃、スーツ姿で平日の夜9時頃に頻繁に店に来ていて、女性と料金を含めた交渉をしていて、連れて外出することもあった、という店に出入りする女性や店の関係者が証言した、という内容であった。

この報道では、公務員である前川が、売春を定期的にしていたともとれる記事である。同日の「週刊文春」の報道で、そこで働く女性の相談に乗り金銭的な支援をしておりだけで、買春がなかったことが報じられた(3)。


ここで、これがどのようなフェイクニュースになるかつけておきたい。(2)の文献をもとに照らすと、②「言葉の言いかえによる事実のねじ曲げ」③「全体像を取り上げず、事実を一部だけ報道した」ということが推察される。彼が実のところ、お店との関係がどうなっているのかわからないが、直接関係のあったとされる人物が読売新聞では見当たらない。(3)の文献によると、「週刊文春」の記事では、より近い関係者の名前を挙げ、その情報を乗せた(3)ことから、信ぴょう性がより高いと考えられる。そのため、出来事を、違う言葉で言い換える、あるいは部分的に読売新聞が取り上げられたとも推察できる。
 

 背景として、報道される日の大分後だが、衆議院の会議で前川が参考人として出席する機会があり(4)、当時の安倍政権に不利な発言をするとみられていた。その発言による政権への効果を抑えるために、プロバガンダを行ったともみれる。

 もしそれが本当なら、読売新聞は、権力を監視するメディアとしての役割を放棄して、政権の情報伝達機関となってしまっているのではないかと考察できる。また、前川も、自身が不利になる報道の出る日と同時に、彼に関する違う報道を公開したことは、事前に当人たちで情報のやり取りがあっても不思議ではない。テレビメディアの政治報道のチェックと現状を調べる必要があると考えた。


〇引用文献

1. “フェイクニュースを巡る動向”. 令和元年版 情報通信白書. 総務省.
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd114400.html
[参照 2022-06-01]


2. 黒須 俊夫. 群馬大学名誉教授. 群馬大学社会情報科学部研究論集 第25巻 P1-20 “我が国のメディアの現状と課題 ~メディア本来の目的とは何か~”.6.2. メディアのほんとうの課題とは.
2018. chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://gair.media.gunma-u.ac.jp/dspace/bitstream/10087/11807/4/25-R1%E9%BB%92%E9%A0%88.pdf
[参照2022-06-01]


3. 郷原 信朗. 朝日新聞社. “前川氏報道で批判を浴びる読売新聞”. ‘論座’. [更新2017-06-28].
https://webronza.asahi.com/politics/articles/2017062600006.html?returl=https://webronza.asahi.com/politics/articles/2017062600006.html?returl=https://webronza.asahi.com/politics/articles/2017062600006.html?returl=https://webronza.asahi.com/politics/articles/2017062600006.html&code=101WRA [参照2022-06-01].

4. 衆議院. 第193回国会 文部科学委員会内閣委員会連合審査会 第1号(平成29年7月10日(月曜日)). https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/029119320170710001.htm [参照2022-09-11].

〇前回; 報道の委縮とフェイクニュース(1)

〇次回; 報道の委縮とフェイクニュース(3)

https://note.com/kosmo_note/n/nd5dc695e1e7b

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