
超ディスクアッパー選手権2024その2
(人の少ない所へ。とにかく人の少ない所へ)
行き着いたのは人気のない三階のトイレ個室。放心状態でただ座っていた。ただただ座っていた。
15分程の時間、便座に乗った置物のように過ごし、少しずつ頭が働きだす。
敗北を受け入れる事より勝利を受け入れる事のほうが時間がかかると知る。勝つにも覚悟が必要と知る。
思い返して、今までの人生で勝利した時にこんなシリアスな気持ちにはなった事はない。超ディスクだけだ。
とても辛い。この辛さを明るく楽しそうに誤魔化すつもりはなかった。勝利が敗者を生み出す、その事実を受け止めて闘う事が挑戦なのだと、悟る。
他のプレイヤー達もこんな気持ちになるのだろうか。それとも俺だけの感覚なのだろうか。それは知る由もなく、挑戦が続いているという事だけは確かだった。
さらに15分程の時間を費やし、今度は朝に灯した闘志が再燃し始める感覚を得る。
(勝ちてぇ。優勝しかない。屍を越えてしまったからにはそれしかない)
決意が固まり始めた頃にSammyさんから電話がかかってきた。控室への案内だ。
この電話を皮切りに、急速な気持ちの仕上がりを体感した。完全に吹っ切れたビーストモードへ移行。
たった一度の勝利が兎を獅子に変えると言ったのは範馬勇次郎だったろうか。トイレに入る前と出てきた後での変貌ぶりを見ている方がいたとしたら、俺は逮捕されていたかもしれない。何かアブナイクスリでもやってたのかと思われるくらいの変化があっただろう。
心を休め、高め、確かな足取りで歩を進める。
控室へ向かう道中、予選の列でUモンキーさんからしのぶっぷさんと普通っぽいおじさんを紹介された事を思い出していた。あの時は余裕が無さすぎてめちゃ塩対応してたのを思い出してまた辛くなった。すみません。これは俺の性分みたいです。
指定された場所へ行くも、控室が分からない。そこにひやまっちさんが現れた。どこに行けば良いか分からないと相談すると「俺が聞いてくるよ」と優しく対応してくださった。このまっちさんの対応もそうだが、Sammyの方々や壇上での嵐さん道井さんが常にプレイヤーファーストで動いてくれていたのに大きな感動がありました。
丁寧に案内をされると控室前でなおさんときゃろさん(シンディカップ大阪代表。全大会覇者)あやころさん(シンディカップ東京代表)が祝福をしてくれた。込み上げてくる。ファイナリストとして実感が。
中に入ると中村さん(団体戦大阪代表)が激し目にタックルをしてくる。
「おめでとう!!!」
俺より嬉しそうやん中村兄さん。

ふるふるさん、おばちやんさんとハイタッチをしながら荷物を置く。お二人もとても喜んでくれてて、さらにバイブスが上がる。自分達だって団体戦が控えているのに、優しい方達だよね。
ぱんな屋台のライバル「団体戦があると聞いて」チームのひろしさんみおさんコクリコさんともハイタッチ。今は敵味方関係ない。同志である。3人とも笑顔で祝福してくれた。


さて、俺もやるか。と腰を上げ練習台に座る。が、プレイできない。
※特殊な設定になっており専用の操作が必要だった
まごまごしてるとくまくまさん(大阪予選2位)がニコッと操作方法を教えてくれた。くまさんのこういうフェアプレー精神は皆に知ってほしい。
しばらくして運営の方からスケジュールの案内をされる。準々決勝はサブステージで4人ずつプレイすると説明を受けた。初戦の相手はくまくまさんだ。
大阪予選の直前、くまさんからLINEがきた。今大会に置いて練習方法の共有をしたのはくまくまさんとだけだった。お互い予選頑張ろうね、とか、大阪予選の決勝であたりたいね、とか。お互いがお互いをリスペクトしている関係性であると同時に大人になってからできた友人。
もう一度書く。初戦の相手はくまくまさんだ。
戦えばどちらかが屍となる。それでも俺達は闘う。


壇上に呼ばれ、スポンジさん、ディーヴァさん、椅子、くまくまさんの並び。
俺は闘争心が圧縮された燃え方をしていた。バーナーから噴き出す青い炎のように。
誇張なく緊張はしていなかった。燃えているのに勝ち負けの概念は思考にない。ただ競技機に俺の今までをぶつける事だけに集中していた。
壇上からは声援や仲間達の笑顔が見える。
この瞬間、初めて楽しいという感情が芽生る。
もっと欲しい。その笑顔。
仲間達の笑顔が力をくれる。安っぽいし嘘っぽく聞こえるかもしれないが、マジで力になってました。
「天井からダブルV」をやったの仲間達は気付いてくれたかな?
始まった。



終わった。勝ち上がったのはスポンジさんと椅子。


勝者と敗者の表情が逆である。これはくまさんが敗れた事より俺の勝ちを喜んでくれていたからだと思う。そして逆の結果になっていた場合、表情も逆になっていただろう。くまさんがストイックに取り組んでいるのを知っているから。
俺はまた一つ屍を越える。友人の屍を。
お互いが勝つ為に全力を尽くした。その結果はどんなものであれ尊いと俺は思う。
そして準決勝であたる相手がスポンジさんになる。
準決勝までの時間、俺はまたトイレに篭った。
今回はネガティヴな感情からじゃない。
独りになり気持ちを再確認するためにだ。
(ダチを倒してでも目指しているものはなんだ?)
明白だった。
少しスポンジさんの事を書こうと思う。
Pスポーツプレイヤーで知らない方はいないだろう。精度、スキル、戦術の多さ、判断力、勇気、あらゆるパラメータがトップクラスのプレイヤー。それがスポンジさんだ。人当たりも良いし、強さを鼻にかけない謙虚さがある。太ももとお尻の境界線(またはお尻と太ももの境界線)が好物。

3年程前だろうか。超ディスク(初代)のスコアに行き詰まっていた頃、スポンジさんからある物を頂く。

どれだけ時間をかけてきたのだろう。それを出し惜しみなく提供してくれる。この度量の深さも真似できない。
※このシートのおかげで7万点越えられました。
間違いなく最強のプレイヤー。
だが負ける気はない。
意識的に「尊敬」とか「憧れ」とか「勝てるわけない」とか「心折られた」というワードを避けてきた。それこそ何年も。いつか今日みたいな日が来た時の為に。スポンジさんに対して、腹を見せて降伏した事は一度たりともない。
これは実力云々の話ではない。心構えの話だ。
準決勝直前
舞台袖で待機中、追いかけてきた背中が目の前にあった。
続く
写真、動画提供のわたるさん、シンディ老婆さんへ。
ありがとうございます。老婆さん提供は最終部で使用します。
あとスポンジさんに🧽被せてるのは準決勝まで「いつもの奴」装備し忘れていたので念のため隠してます。