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萬鉄五郎の絵

萬鉄五郎(1885〜1927)という画家を知ったのは、自らのデッサン力不足、同僚のような「線」が表現できず行き詰まりを感じている時期だった。

郷里への帰省途中、駅で企画展のポスターを見た瞬間、電気が全身を走る思いがした。

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地味な半裸のおじさんの素描なんだけれども、とんでもないデッサン力。難しいアオリのアングルでありながら骨格、筋肉、皮膚の質感まで、どうしたらこんな絵が描けるようになるの!?

一体この人はどういう人物なんだろう?

他にどんな絵を描いているんだろう?

すっかりこの画家に魅せられ、ネットや図書館で資料をあたった。

現在の花巻市出身で、上京した後、当時私の住んでいた市に住んでいた事もあるそう。花巻、盛岡の他、地元の美術館にもいくつか作品が展示されているらしい。

初期の、デッサン力の高さが窺える人物画も良いし、キュービズムに傾倒した頃の、一見崩れているようでいて、確かな画力が無ければ引けない線で、ササッと描かれたかのような絵も、物凄い説得力。

萬鉄五郎の絵を家に飾って、いつでも眺めていたい。本物を手に入れるのは無理かもしれない。模写でも良い。そんな思いでオークションサイトを眺めたりしていたけれど、なかなか目当てのものには会えず数年が経った。

現在に至り、フリマアプリでふと思い立ち検索してみると、一点だけ、気にかかる絵の出品があった。

大正3年 萬鉄五郎の裏書き。真偽不明だけれど年表と照らし合わせると、故郷土沢(花巻)に戻っていた頃。モチーフも画風も、その頃描かれた作品群と一致する。

もしかして本物かも?

ロマンを感じてワクワクした。購入して届いた絵を見て、ますます本物であるという思いが高まる。

額装をお願いする際も、いくつか合いそうな額を合わせせてもらうと、重厚感のある額から、現代風のポップな額まで、どれを合わせても不思議としっくり合う。あれこれ合わせて決めて行く作業が、私も、恐らく額装士の方も楽しかったのではなかろうか。

そうして今、萬鉄五郎の作品(かもしれない)絵は、私の部屋に飾ってある。

大正のモダンな絵は、令和の明るい雰囲気の額に収まって、一般家屋にとても馴染んでいる。多分、こういった部屋に馴染むよう想定して描かれたんじゃないだろうか。

長年の夢が1つ叶い、そして真偽不明というロマンも手伝って、私は豊かな気持ちで絵を眺めている。

いいじゃないか。信じているのは私1人だけど、これは憧れの萬鉄五郎さんの絵。大切にしていこうと思う。

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