〔小説〕朝起きたらアザラシになっていた その6
※この話はフィクションです。実在する人物・団体名とは何ら関係ございません。100%作者の脳内妄想のみで構成されています。
ATMから金を下ろせなくなったので固定費以外の小金欲しさに内職を始めた。
俺がPと呼ぶ男へ久しぶりに金の無心をするため、太宰治の文章をまねして「貸してくれないと死にます」な文面でメッセンジャーアプリから送信。
数時間後、スマートフォンに着信通知がきた。覗き込むと
「太宰も死ぬ前に牛鍋食って麦酒飲んでたじゃないか」
Pが言葉巧みに誘いだし、俺は焼肉食いながら二つ返事で原稿用紙20枚分の原案を書くこととなった。
その名も
「パニック・オブ・蟹光線~北海道危機一髪!」
焼肉食べて麦酒を飲みながら俺が適当に思いついた小林多喜二の『蟹工船』パロディとして適当にしゃべったものを原案として書かされる羽目になった。
話のあらすじは1930年代。2・26事件で処刑されたことになった青年将校たちが漁民として蟹工船に乗り、オホーツク海を偵察したとき人権ガン無視のロシアが海に垂れ流した有毒廃液で巨大化したズワイガニが襲い掛かる。
ソ連空軍の航空機が次々と出撃するも蟹光線で次々と撃墜されるなか主人公たちはズワイガニと本土防衛決戦をするのだった…
そんなB級特撮映画があったらいいな、など麦酒飲みながら適当に語っていたら好きな映画とアニメが『ゴジラ』と『紅の豚』であるPの心のゴングを打ち鳴らしたらしく3000円やるから20枚書けと熱く説得されたのだった。
原稿用紙1枚で400文字。20枚で8000文字だ。それだけ書いて3000円しか貰えない。
奴隷労働でしかない。
そのうえ
「早朝の渋谷スクランブル交差点にて」
の1行から先がまったく進まない。
俺はもう諦めて内職を放り出し、廃人ゲームのシヴィライゼーションをプレイする。
廃人量産ゲームとして名高いシヴィライゼーションをプレイして何週間たったのだろう?今日もゲームをプレイしていると背後に気配を感じるので振り向くとPがいた!
「なんでいるんだよ!」
「500円で合鍵を複製してもらった」
鬼!悪魔!俺はPをののしりながら財布とスマートフォンをパジャマのポケットに突っ込んでベランダから裸足で逃げる。
途中で便所サンダルを拾って靴の代わりに夜の新宿へ踏み入れる。
(・ω・っ)З(アザラシ)なのでサンダルを拾う意味がなかった。
安く泊まれる場所といえば漫画喫茶が思い浮かんだのでナイトパックで泊まり込む。
(・ω・っ)Зなのでフラットシートにしといてよかった。
Gメールを見たら
「漫画喫茶で油売ってないで早く書け」
と何通も届いているが3000円のためにこれ以上内職をする義理はないので動画サイトでホラー映画を見ていたらやたら視線を感じる。
悪い予感がするので振り向くとパーテーションの隙間からPが笑顔で
「進捗はどう?どこまでできた?」
俺に問いかけてくるが、なんでお前がここにいるんだよ!と悲鳴を上げてしまい俺とPは店員に怒られた。
翌日、火事場のバカ力でなんとか20枚書き上げた俺は今年一番の悪夢にうなされて寝た。
つづく。