異境備忘録 意訳1
「異境備忘録」は明治二十年に宮地水位先生が三十七歳の時に編集された、水位先生ご自身の数十年にわたる神仙界への出入秘録です
少し前までは神仙道の道士にしか見ることの出来ない秘書であり、御神体のような扱いをされていましたが、今では複数の出版社から公刊され、またインターネット上でも国会図書館デジタルライブラリーや複数のサイトで閲覧できてしまう、ある意味では恐ろしい時代になりました
異境備忘録は触れるだけで神仙界に繋がる気線が生じる神書ですので、よくわからなくても親しむだけでも意味があります
ただし、元々が水位先生の備忘録つまりメモ書きであり、体系立てて書いているわけではなく、また神仙界のことは基本的に書き残すことは難しいので断片的な記述が多いので、意訳にしてある程度の意味が通じるように言葉を足したり引いたりしております
以前より翻刻つまり文字起こしは終わっており、自家薬籠中のものとして秘蔵していましたが、今回思うところがあり、この大司命節中から原文の翻刻と意訳を少しずつ紹介していくことにしました
底本は御影舎伝来の写本です
ちなみに神=神仙であり、神と神仙とは同じ存在であり、神と神仙という別の存在があるわけではなく、神道=神仙道です
原文の翻刻は太字で、意訳は普通の字で書いていきます
牛歩の如く、ゆっくりと進めていくつもりです
古川陽明
異境備忘録 水位 宮地中和謹述
没後門人 古川陽明意訳
一、鳥の嘴と足の赤きは仙界の鳥と心得べし
鳥のクチバシと足が赤いものは仙界の鳥と心得ること
一、兎また雉は幽界にて使はれ人間に神使となりて出る事あり
兎や雉は幽界つまりあの世で使役され、神様からの使いとなって人間世界に現れることもある
一、仙界の宮殿は屋根及び柱は黒塗にて座敷は多くは赤色なり
神仙の住む世界の宮殿の屋根や柱は黒塗りであり、座敷は赤色が多い
一、宮殿の状にして塔を構へて五色に彩れるは仏仙界なり
宮殿に塔を構えて五色に彩っているのは仏教系の世界である
一、夜寝る時天井は見えず大空の星の見ゆるは妄想にて眼を閉じても見ゆるものなり
夜に眠る時に天井を通り越して大空の星が見えるのは妄想であり、それは目を閉じても見えるものである
一、親戚の人の病死せむとする時に雪隠に入りて瞑目してハニヂノ大神生死を告げ給へと唱ふる時、水色にて 如此物眼前に幻に見ゆる時は其病人必ず其夜に死す
親戚の人が病気で危篤になった時に、トイレに入り目を閉じて「ハニヂノ大神生死を告げ給へ」と唱えると、水色にて(図は秘す)このように目の前に幻が見える時はその病人は必ずその夜に死ぬ
一、七八歳の女、月水あるまでは天狗に伴ひ行きて召使はるることあり。又天狗界には僧侶の入りたるが最多し。鷲、鷹、鳶の類も年経たるがありて、人を背負ひて飛行するなり。又団扇を以て飛行する時は先を団扇の柄に付きたる眼鏡にて見定め、左右に打振り向ひて忽ち突き出して僧正の先鋒をするなり。此眼鏡にて大空より見る時は幾千仞の海底の物も見ゆるなり
七、八歳の少女が初潮があるまでは天狗に伴われて天狗界に行き天狗の召使になることがある。また、天狗界には僧侶が転生して入ることが最も多い。鷲、鷹、鳶の類いも年を経たものが人を背負って飛行することがある。また天狗の持つ団扇を使用して飛行する時は行き先を団扇の柄に付いている眼鏡にて見定めて、団扇を左右に打ち振り、行き先に向かって団扇を突き出して僧正の先鋒を飛行する。この眼鏡で大空から地上などを見る時は、何万メートルの海底の様子も見えるものだ
一、杉山僧正、大山僧正、火衣僧正などの飛行する時は小鷹、大鷹、飛行の三印を結びて後、団扇を以て先を指し飛行するなり
杉山僧正、大山僧正、火衣僧正などの高位の天狗が飛行する時は、まず小鷹印、大鷹印、飛行印の三つの秘印を結び、それから団扇を持って行く先を示してから飛行する
一、清浄利仙君、川丹先生、部令君、広原大霊寿真人、氷川上霊寿真童等の肉転人は神仙界より人界へ事を告げ、或は人間より得道する者を神界へ取次する役目なり
清浄利仙君、川丹先生、部令君、広原大霊寿真人、氷川上霊寿真童等の人間から神仙になられた方々は、神仙界より人間の世界へ神示を告げる、あるいは人間から修行して神仙になる者を神界へと導き取り次ぐお役目である
一、円頭にて赤衣を着け、長さ四尺許りの折烏帽子を冠とし、青袴にて黒の覆輪を取りて白足袋をはき、黒塗の木履を穿ち、太刀を佩きたるは大山僧正なり
剃髪をして赤い衣を着て、長さ1.2メートルほどの折烏帽子を冠とし、青い袴に黒の縁取りで、白足袋をはき、黒塗りの木履をはいて、太刀を帯刀しているのは大山僧正である
一、頭は白髪にして赤衣を着し、袴は大口に似て白色なるをはき、左右に二人烏帽子を着し青衣を着け白袴をはき、黄なる足袋をはき麻串を持ち、其傍に古鷲の背に山形の金色のつきて、背の左右に立上りたる毛ありて坐せるは杉山僧正と其従者なり。
白髪で赤い衣を着て、袴は白色の大口袴のような袴をはき、左右には二人の烏帽子を着けて青い衣を着て白袴をはいて、黄色の足袋をはいて、麻串を持つ者がいて、そのかたわらに古鷲で背に山形の金色の左右に立ち上がる毛があって坐しているのは、杉山僧正とその二人の従者である
一、少彦那大神は変化無比の神にして伊邪那岐尊の代理として大司命左定官にして常には御髪は垂れて腰に至り、十二、三歳許りの御容貌にて背に太刀を佩き団扇を持ち、青色の衣を着け給ひ、御腰の左右に幅六寸許り、長さ五尺許りの平緒の黒白を六筋づつ左右に着け給ふ。又神界にて司命の簿籙を毎年十月九日より改定し給ふ時は御頭に金色なる簫に似たるものを二つ合せたるが如き冠を召し、其中より孔雀の尾三尾を出したまへり。左の御手に長さ三尺許りの丸き木に白玉三十二貫きたる緒の総の付きたるを持ちたまひて霊鏡台に向ひて坐したまへり。
少彦那大神は神威が並ぶもののない無上の神であり伊邪那岐命の代理神として大司命左定官という人間の世界では左大臣つまり神仙の世界の最高仙官として君臨なさっていて、普段は髪を腰まで垂らして、十二、三歳ばかりの少年のような御姿で、背中に太刀を背負い、団扇を持ち、青色の衣を着ておられ、腰の左右に幅18cmばかり長さ1.5メートルくらいの黒白の平緒を左右に六筋づつ着けておられる。また、神界にて運命を司る司命の簿簶を毎年十月九日より十一月八日までの間(大司命節)に改定なさる時は、頭に金色の蕭(尺八の元になった楽器)に似たものを二つ合わせたような冠をお召しになり、その中から孔雀の尾を三尾出されている。左の手には長さ1メートルほどの丸い木に白玉32個が貫いた緒の房の付いたものをお持ちになり、その人の行動を映し出す霊鏡台に向かって坐しておられる