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ポイント オブ ノーリターンと1920年代の話

8月25日 晴れ

本日のBGM The Point Of No Return - オペラ座の怪人


ポイント オブ ノーリターンという言葉がありまして、帰還不能点とかって訳されるんですけど、飛行機の帰りの燃料がなくなって、主発した地点に戻ることができなくなる限界点のことを指すのですが、今では一般化して もう後戻りのできない状態を表す時に使われます。

使用例としては「彼らの夫婦関係の悪化はポイント オブ ノーリターンまで来てしまった」とか「今から非を認めて素直に謝ることはできない。ビコーズもうポイントオブノーリターンを過ぎちゃったから!」などと とても汎用性の高い言葉なので是非皆さん使っていただけたらいいなと思います。「君の頭皮が回復するには既にポインあわわわわ


思いついた使用例を見ても あんまりいい意味では使われなさそうな言葉でもありますよね。もう戻ることができない っていうのは多分人間にとってあまり心地よいものではないんだと思います。

ただこの帰還不能点を見極めることができれば たぶん人生というのは かなり充実するのだと思います。例えば来年の8月26日に自分が死んでしまうとしたら 今日をどう生きるのか ということですね。

でもそれは人生の逆算であって、可能性を排除することでもありますから、帰還不能点を正確に知るのは人間にとってすごく不快なことなんだと思います。


なんでこんな言葉を言いはじめたのかというと、私はいつもBSNHKで午後1時から放送される映画で良さげなものを録画して、それをたまに祖母と15分ずつくらい見てるんですけど、今日放送されていたのがミッドナイト イン パリという映画でして、私はとても好きな映画なんですけど、

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今日起きたのが12時半くらいで、寝たのが8時くらいなんですけど、色々と雑用をしていて映画があると気づいたのは13時15分くらいでして、BSNHKの映画も そんないつも見たいものばかり放送してるわけじゃないから こまめにチェックなんてしませんで、

起きた時間が既に1時を過ぎていたら まだ諦めもつきますが、別のことをやっていたというのが自分の行動選択による失態を強く感じさせて、うひー この感じ久々だぜえ!ポイントオブノーリタァーン!!と叫んだ  というわけなんですけど、

リンドバーグが大西洋を飛んだ1920年代にはパリでも多くの革新が起こっていまして、ミッドナイト イン パリは1920年代のパリに憧れる主人公が、なんか夜になるといつの間にかタイムスリップしちゃって、ヘミングウェイとかフィッツジェラルドとかピカソとかダリとかに会う話なんですけど、

1914年から4年間続いた第一次世界大戦というのは凄惨で、意味のない疲弊のようなひどい戦争だったのですが、その戦争は多くの人間に 今までの価値観を崩壊させる強烈な衝撃を与えて、その結果 第一次世界大戦中に10代だった若者たちが、1920年代に既存の価値観を覆す芸術作品を数多く作ることになりました。


1920年代を生きた彼らは、毎日街の風景が変わり、新しいものが生まれていて、それと同時に戦争による死のイメージから 毎日を帰還不能点のように感じ、自分が今 何かを為すこと の意義がとても強かったのだと思います。

何かを為すためには人生を逆算して、それに不必要な時間を少しでも少なくするというのが合理的で理想なスタイルではありますが、それをやることは人間本来の心地よさとは相反して、普通はなかなかできないし、もっと言うなら やらなくて済んでいるんだと思います。

人生全部を使って何かを為し遂げる場合というのは、何かに取り憑かれていることであって、先天的な場合もあるし、トラウマによってそうなってしまう場合もあり、それは凄いことなのですが、その人個人の幸福度で考えるとどうでしょうか。


なんて帰還不能点について考えつつ、でもどうせネットフリックスとかでミッドナイト イン パリあるんだろうなーと思ったらやっぱりあって、これにて私の後悔の念は霧消されると同時に、このようにして保存されたシステムがあると、帰還不能点に鈍感になって、その瞬間ごとの感受性というのは確実に下がるだろうなーと思いました。



高鶴裕太 コウヅルユウタ
陶芸家
1991年生まれ
2013年横浜国立大学経済学部卒業
上野焼窯元 庚申窯3代目




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