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【小説】ささやかな逃避行(結衣と旦那さんとの出会い)
結衣と彼女の夫である健一の出会いは、大学のキャンパスが彩る青春の一ページから始まった。
結衣が大学生の頃、彼女はある男子グループと親しくしていた。
そのグループには、いつも笑顔を絶やさない年上の彼、健一がいた。
健一はそのグループの中でも一際目立つ存在で、誰に対しても優しく、気さくな性格で周囲を和ませる天性の才を持っていた。
初めてグループに加わったときの結衣の緊張は、健一が自然と彼女に話しかけたことでほぐれていった。
彼の温かい人柄に触れるうちに、結衣は健一に安心感を覚え、次第に彼を特別な存在と感じるようになっていた。
彼女は当時、流行りに敏感になり、皆と同じようなファッションをすることに必死だったが、健一はそんな彼女の努力を見ているようで、「自分らしくいることが一番だよ」と優しいアドバイスをくれた。
それは結衣にとって、他の誰もが言わなかった、心に染み入る言葉だった。
彼との関係は自然と深まり、大学のライブハウスでのジャズナイト、図書館での共同学習、ひと時のカフェでの会話など、ささやかながら共有する時間が増えていった。
健一の存在は、結衣の大学生活における安定した光となり、彼女の内面的な成長に大きな影響を与えた。
やがて、卒業を間近に控えた春のある日、健一は結衣を小さな公園に誘い、そこで彼女にプロポーズをした。
彼の真摯な言葉と、確かな愛が込められた指輪は、結衣の心を完全に捉えた。
彼女は涙を浮かべながら「はい」と答え、二人の新しい生活が始まった。
しかし、結婚後、育児と日々の家事に追われる中で、結衣は自分を失いつつあると感じるようになっていた。
かつて健一に言われた「自分らしさ」を求めていた彼女にとって、大輔との出会いは、忘れかけていた自分自身と向き合う機会を与えてくれたのだった。
それぞれの生活に疲れた心が、ほんの少しの逃避を見つけることで、何かを取り戻そうとしていた。