ぐるぐるキャンディー3時間
ぐるぐるキャンディーを見下すすべての人に。
サークルの同期だったある女の子は、私の21歳の誕生日にぐるぐるキャンディーをプレゼントしてくれました。直径10センチくらいはありそうな大きさ。黄緑とオレンジと白色のストライプの飴がぐるぐるとハート型になっていて、とにかくかわいい。
「キャー、なにこれかわいい!!」とひとしきりはしゃいだ後で、
(でも、これ、いつ食べるんだろう?)
とひそかに思う程度には冷めているわけです、21歳ですから。
まあ、食べることがなかったとしても観賞用として十分に役割を果たすであろう、と部屋に飾っていました。
そして思いもよらなかったその日は訪れます。
誕生日から1ヶ月も経っていない9月のある日。
とにかく気分が落ち込んでいたことは覚えています。
何で悩んでいたのかは思い出せませんが、とにかくしんどくて、何もしたくなくて、ひたすらに憂鬱でした。
夕闇の中、おそらくはうつろだったであろう私の目に、部屋の中でそこだけパーティーの真っただ中みたいな、ぐるぐるキャンディーが映りました。
そうか、今かもしれない。
まるで終わりがないかのような憂鬱さのさなか、何もしたくない私にかろうじてできそうだったのは、無意味な自己嫌悪の思考の反芻と、ぐるぐるキャンディーを舐めることだけでした。
私は、ぐるぐるキャンディーを開封し、ぺろっと舐めます。
……うん、甘い。
それから、口に入りきらないほど大きなぐるぐるキャンディーを私は舐め続けます。
電気を点ける元気すらなく、ひたすらに暗くさみしいことを考え続ける私でしたが、その間中口の中だけは甘く、甘く、あり続けます。
1時間ほど経ったころ、少し気分がマシになってきたのですが、ぐるぐるキャンディーの大きさは3分の1ほどしか減っていません。
キャンディー、強い。
と半笑いで思い始めたあたりから、憂鬱と甘さの勝負では、甘さに軍配が上がり始めていました。
2時間かけてやっと、口の中に入るくらいの大きさになりました。
そこからさらに1時間。合計3時間もキャンディーは私の口の中を甘くし続けました。
3時間後、私はキャンディーを舐めながらTwitterを物色する普通の女子大生になっていました。
私の憂鬱は3時間のぐるぐるキャンディーに負ける。
それくらいには、かわいさも甘さも、強さでした。
私は、プレゼントにもらった瞬間のぐるぐるキャンディーを冷めた目で見る気持ちを恥じ、『ぐるぐるキャンディーはとても実用的である』と自分の辞書を書き換えました。
これからの人生であと何度か大きなぐるぐるキャンディーを舐めるかもしれません。