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5年間負け続けた男が優勝した話
皆さんこんにちは。モンストチームAMiiiiDA所属のプロゲーマー、Koshi(コウシ)と申します。試合に出ること以外の発信活動をほとんどしておらず、知らない方も多いと思いますので軽く自己紹介をします。
モンストグランプリ2024ジャパンチャンピオンシップの優勝チームAMiiiiDAのSecond、東京都在住の24歳です。趣味は麻雀、仕事は自営業のようなものをしております。ADHD(過集中)症状がひどいです。
「なんでこのタイミングでnoteなんか書いてんねん」「大会から何ヶ月経ってると思ってるんだ」などのご指摘は受け入れますが、チームメイトに触発され人生で初めて書くnoteですので、温かい目で読んでくださると大変助かります。
早速、タイトルにある通り「負け続けた男」の話をします。決勝大会のインタビューでも話しましたが、私は18歳(当時のグランプリの出場制限年齢)の頃から毎年出場しており、2024で通算5度目、6年目の大会になります。
これまでの戦績としては
・モンストグランプリ2019 予選落ち
・モンストグランプリ2020 ※コロナで未開催
・モンストグランプリ2021 予選落ち
・モンストグランプリ2022 予選落ち
・モンストグランプリ2023 予選落ち
と、誰が見てもわかる敗北ばかりです。バトルラウンドに上がって爪痕を残した!とか常勝チームに一矢報いた!とかも一切ない、完膚なき敗北です。
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モンストグランプリに毎年出ている方ならわかると思いますが、ここまでの負け方も逆に珍しいのではとすら思います。なぜならモンストグランプリでの勝負は運の要素も関わっており、誤解を恐れずに言うと「思い出を作ろう!」という方針のチームでも毎年出ていれば(数打てば)予選を突破することは往々にしてあるからです。
実際、「自分より努力していない」と思うチームが自分たちより良い成果を残していたりも沢山目の当たりにし、悔しいという言葉では表せないほどの感情に苛まれたこともあります。(努力の量など他人にはわからないし、努力が必ず報われるわけも無いので、本当に醜い感情だったなと反省しています…)
まぁ嘗めた苦汁の話はこれまでにして、私がどのようにして優勝に至ったのかを自叙伝的に記していきたいと思います。万人の参考になるかは謎ですが、一部の方の後押しにでもなればという思いで筆を進めていきます。
<大会映像はこちら↑>
1.過去試合の分析
今でこそ謙虚?な私ですが、1年目の頃はMTTの吉村武琉選手(元Catsるんるん選手)のごとく自信(しかも吉村選手と違って根拠のないやつ)に満ち溢れており、全チーム自分たちより弱いと本気で思っていました。
しかしグランプリ2019の予選で早々に出鼻を挫かれ、3ヶ月の努力が数時間で消し飛んだことをひとしきり悲しんだ後、来年度への対策を練ることを始めます。反省点を書き出したこのノートは、「来年勝つためのノート」と名付けました。
このときはこのノートを5年間も書き続けるとは思いませんでした。
幸い「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉を知っていた私は、まずはモンストグランプリの歴史を見ようということで大会映像の見直しを始めました。もともとグランプリオタクではあったので「〇〇チームとXXチームが戦ってどっちが勝った」などの知識はあったのですが、勝つためには表面的なものではなく選手心理やプレイを細かく観察する必要があると考えました。具体的には
勝った/負けたチームにどのような共通点があるか
どのショットが勝敗を分けたか
選手の表情/指示/声掛け
編成の意図
などをスロー再生や音声を拾ってなんとか収集し始めました。当時は予選の様子も放送されていたので、タイムアタックの模様から全てのチームの情報を収集しました。例えば、「僅差で勝負が決しそうな場合、早撃ちしたことで勝ったチームと早撃ちしたことで焦って負けたチームどちらが多いか」なども集計しました。これは今の自分の打ち出し速度につながっています。
(あとは結果を残している方たちに積極的に話しかけるなどして、強くなるメソッドを少しでも聞き出そうと必死でした…)
2.自分たちはなぜ負けたか
毎年負けては分析を重ねていく上で、自分がなぜ負けるかが少しずつわかってきました。まぁ細かく挙げだすとキリがないのですが、大きく分類すると「考察/編成」「ボーダー読み」「練習の仕方/量」「本番の意思疎通」です。
例えば、本番leadの人がミスってしまって予選に落ちたとして、表面的な情報では「leadが悪い」で終わりなのですが、それでは来年勝つことはできません。
なぜleadがミスしたのか
他の3人との負担の差はあったか
十分な練習時間を確保できていたか
重要なショットを任せる適任であったか
仲間はメンタルを整える言葉をかけられていたか
など考慮できる要素は無限にあります。
3.活動限界を知る
私が続けてきた分析の1つに「活動限界を知る」ことも挙げられます。具体的に言えば①自分/仲間は何時間このゲームに捧げられるか、②同じクエストに何時間ハマったらストレスでうまく思考できなくなるか、を知ることです。
自分は幸い?過集中という症状のお陰で、何も予定がない日は1日18時間程度は集中して練習できるということがわかりました。また、同じクエストを5時間以上やると明確に成果が減ることもわかり、自分自身の取説を読みながら対策していました。
自身が活動限界までやったからこそ他のメンバーの熱量/活動量にフラストレーションを抱えてしまったことも多々あり、衝突や別れも沢山ありました。人間ですからどうしても練習時間や成果の差は生じてしまうもので、チームをマネジメントするのは本当に難しいことなんだと実感しました。
4.環境を整える
この場合の環境を整えるとは、限られた時間の中で練習を最大効率で行える状態にすることを指します。私の場合だと「グランプリに出るために3~7月を空けたい→そのために単位を先取りしておく、融通の効く仕事をやる」などです。
年々目に見えてレベルアップするグランプリで勝つために、仕事や学問と完璧に両立することが(自分には)不可能なことであると悟っていました。
グランプリ期間ではない時期に課題や単位を可能な限り先取りしたり、その期間の活動資金をある程度貯めることで、大会期間により打ち込める環境づくりを心がけていました。
また、プレイ環境の整備も必須で、大会端末、PCやヘッドフォンを購入したりなど、機材への投資も惜しみませんでした。
5.本番へのイメージトレーニング
これは昔から続けてきたことなのですが、本番に極力近い環境で練習する、いわゆる「イメージトレーニング」というやつです。
私の場合は、ゲーミングチェアに座りデスクにスマホを置き、PCにヘッドホンを繋ぎ、決勝大会の配信を爆音で流すことで、擬似的に自分が決勝大会に進出したかのような環境下で練習をしていました。配信の音声からは当然歓声や実況も聞こえてくるので、ベッドでゴロゴロしながらやる練習とは緊張感が段違いです。当然はじめは手が震えたり失敗することも多いのですが、次第に慣れていきました。
そのおかげか、今年度初めてのバトル→決勝大会への進出にも関わらず、ほとんど緊張せずプレイできました。
グランプリに限らず全てのことにおいて「当日の想定外を事前に減らしておく」作業は大変効果的だと実感しています。
6.本番で意識したこと
これも詳細に出せばそれだけのnoteを書けるくらい多いのですが、直接的に勝利に結びついた要素は「本番の声掛け」に尽きると思います。
実況や解説の方が選手の声掛けを褒めることがしばしば見受けられますが、個人的には「何を言うかより何を言わないか」も重要だと考えています。
というのも決勝大会以外はヘッドセットを通さない地声でコミュニケーションを取るしかなく、そのクエストやショットに対する理解が最も秀でた人間のみが話すべきだったり、逆に何も話さず集中した方が良い局面が往々にしてあるからです。
あと私個人が意識していたことは、
相手画面を確認するタイミング→自身のショットに影響があるタイミングで画面から視線を外してはいけないので、SS演出やマップ移動の時間に相手画面を見て差を確認し、その後の打ち出し速度を微調整していく。(ステージによっては確認しないことも)
勝利が確定するまで油断しない→勝負は最後までわからない。実際に尚早に勝利を確信し敗北したケースもあり。何より敵はまだ諦めていない。
常に自分の前の手番がミスった場合の対策を考えておく→実際昨年はleadフィニッシュの局面が多かったため、もしミリ残しした場合の次の手は常に考えていた。
手を冷やさない→意外と会場は寒い。
などです。
7.今後の展望
優勝した直後、記者の方に「連覇は目指しますか?」と質問を受け、うまく返せなかったことを思い出します。自分の人生の大きな目標が達成されてしまい、翌年同じまたはそれ以上の熱量で出来る自信がなかったからです。
そんな中、M-1グランプリを見ていたら、なんと令和ロマンが史上初の連覇していて、ちょっとだけ刺激されました(笑)
というのも、髙比良くるまさんがインタビューで「去年の倍嬉しい」って言ったんですよね。
自分的に「人生でこれを超える景色はないだろうな」と感じたあの景色の倍か…と思ったらワクワクしてきてしまいました。
ということで、今年は(開催されるかわからないけど)グランプリ史上初の連覇を目指したいと考えています。
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8.おまけ
このnoteはこれで終わりなのですが、最後に自分がなぜグランプリ優勝を目指したか、ここまで負けまくったにもかかわらず続けてこれたかの話をしたいと思います。
2016年、当時高校生だった私は、クラスで大流行していたモンストをやりながらニコニコ生配信を見ていました。すると「モンストグランプリ」という初めて見る単語を目にします。配信を見ると、どうやら超絶イザナミのクリアタイムで対戦していることがわかり、モンストしながら流し見することにしました。
すると決勝戦、画面右のチームがとんでもない速度でイザナミを倒していきます。『今池壁ドンズ』でした。そして編成をよく見ると、見慣れないキャラ「リコル」が。ギミックにも対応しておらず一見邪道とも言えるこのキャラが意味わからないくらい強くて、対戦相手の『(笑)獣神亭一門』に大差をつけて勝利します。
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湧き上がる歓声とフリップやタオルを持って壁ドンズを応援するサポーター、それは紛れもなくスポーツに見えました。eスポーツという言葉が今ほど浸透してない当時の自分は、気づけばおもちゃ屋を覗く子どものような目で配信画面を見ていました。そしてすぐさま学校のモンスト仲間に連絡したところから、僕のグランプリ人生が始まりました。
2019年の会場でタイムアタック予選9位(8位までが予選突破ボーダーだったのでギリギリ予選落ち)になり、完全に心が折れ泣き喚いていたとき、今池壁ドンズ(現MTT)のなんとかキララELさんと4sleepers(現クルセイダーズ)のくまさんが優しく声をかけてくれました。「そんなんで泣いてたら俺ら何回泣いても足りないよ〜!笑」と沢山笑わせてくれました。
あのときの言葉がなかったら絶対に6年間も続けてこれなかったです。
この場を借りて感謝します。
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