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68歳の男性。労作時息切れを主訴に来院した。1年前から自宅の階段を昇る際に息切れを自覚するようになり、その後も症状が増悪するため受診した。体温36.5℃。脈拍76/分、整。血圧132/76mmHg。呼吸数16/分。SpO296%(roomair)。心音に異常を認めない。左中下肺野で呼吸音は減弱し、同部位で腸雑音を聴取する。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球459万、Hb13.9g/dL、Ht42%、白血球6,800。CRP0.1mg/dL。胸部エックス線写真の正面像(A)と側面像(B)を別に示す。
診断はどれか。
a. 自然気胸
b. 横隔膜損傷
c. 横隔膜下膿瘍
d. 横隔膜弛緩症
e. Bochdalekヘルニア

第118回医師国家試験

正解:d

解説

a. 自然気胸では胸部エックス線写真で肺虚脱像と胸腔内のフリーエアーを認めるが、本症例の画像所見とは異なる。
b. 横隔膜損傷は外傷性に生じることが多く、胸腹部臓器の脱出を伴うことがある。本症例では外傷の既往がなく、典型的な画像所見も認めない。
c. 横隔膜下膿瘍では横隔膜下に液体貯留を認めるが、本症例の画像所見とは異なる。また、発熱や炎症反応上昇などの感染兆候も認めない。
d. 本症例は68歳男性の労作時呼吸困難を主訴とする症例である。胸部聴診で左中下肺野の呼吸音減弱と腸雑音聴取を認める。胸部エックス線写真では左横隔膜の挙上と左下肺野の透過性亢進を認め、腸管ガス像が胸腔内に認められる。これらの所見は横隔膜弛緩症に特徴的であり、本症例の診断として最も適切である。横隔膜弛緩症は横隔膜の脆弱化により生じる病態であり、胸腔内への腹腔臓器の脱出を呈する。
e. Bochdalekヘルニアは先天性横隔膜ヘルニアの一つであり、多くは新生児期に発症する。本症例の年齢や臨床経過からは典型的ではない。

考察

横隔膜弛緩症は横隔膜の脆弱化により胸腔内への腹腔臓器の脱出を呈する病態である。先天性のものと後天性のものがあり、後天性の原因としては外傷、手術、神経筋疾患などが挙げられる。多くは無症状であるが、呼吸困難、胸痛、消化器症状などを呈することがある。診断には胸部エックス線写真や胸部CTが有用であり、横隔膜の挙上と胸腔内への腹腔臓器の脱出を認める。治療は症状の有無や程度により判断するが、無症状の場合は経過観察が可能である。症状が強い場合や、嵌頓、穿孔などの合併症を伴う場合は外科的治療の適応となる。手術アプローチは経腹的アプローチと経胸的アプローチがあり、病変の位置や大きさ、症状の程度などを考慮して選択する。本症例のように高齢発症の場合は、加齢に伴う横隔膜の脆弱化が原因と考えられる。呼吸機能や全身状態を評価した上で、治療方針を検討することが重要である。

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