
118B45,118B46
次の文により45、46の問いに答えよ。
77 歳の女性。突然の胸背部痛と疲労感を主訴に救急車で搬入された。
現病歴 : 本日未明に突然の胸背部痛で目覚めて 30 分ほどベッドに横になっていたが、身の置き所のない疲労感が増悪するため救急車を要請した。
既往歴 : 糖尿病、高血圧症で内服加療中。
生活歴 : 80 歳の夫と 2 人暮らし。問題なく家事をこなしていた。喫煙歴はない。飲酒は機会飲酒。
家族歴 : 特記すべきことはない。
現 症 : 意識は清明。身長 150 cm、体重 51 kg。体温 36.1℃。心拍数 96/分、整。上肢血圧 102/70 mmHg、下肢血圧 114/60 mmHg。呼吸数 15/分。SpO2 98%(room air)。呼吸音に異常を認めない。胸骨左縁第 3 肋間を最強点とする Levine 2/6 の拡張期雑音を聴取する。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。頸部に痛みはない。両肩の痛みを訴えるが、圧痛と可動域制限を認めない。
検査所見 : 血液所見:赤血球 391 万、Hb 11.9 g/dL、Ht 37%、白血球 8,600、血小板 16 万。血液生化学所見:総蛋白 6.4 g/dL、アルブミン 3.0 g /dL、総ビリルビン 1.7 mg/dL、AST 98 U/L、ALT 134 U/L、LD 263 U/L(基準 124~222)、CK 74 U/L(基準 41~153)、尿素窒素 24 mg/dL、クレアチニン 0.6 mg/dL、Na 139 mEq/L、K 4.8 mEq/L、Cl 105 mEq/L。CRP 6.8 mg/dL。
心電図(A)、胸椎エックス線写真(B)及び胸部単純 CT(C)を別に示す。
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最も疑われる疾患はどれか。
a 緊張性気胸
b 急性心筋梗塞
c 胸椎圧迫骨折
d 急性大動脈解離
e 急性僧帽弁閉鎖不全症
正解:d
解説
この患者は、突然の胸背部痛と疲労感を主訴に救急搬送されています。身体所見では、上下肢血圧の差(上肢血圧 102/70 mmHg、下肢血圧 114/60 mmHg)と拡張期雑音(胸骨左縁第3肋間)が認められます。これらの所見は、急性大動脈解離を強く示唆します。急性大動脈解離は、大動脈内膜が裂け、中膜の層が断裂することで、大動脈壁内に血液が流入する病態です。突然の胸背部痛や上下肢血圧の差、大動脈弁閉鎖不全症による拡張期雑音などが特徴的な所見です。
他の選択肢について:
a 緊張性気胸:呼吸音に異常がなく、気胸を示唆する所見はありません。
b 急性心筋梗塞:心電図にST上昇や異常Q波などの所見がなく、典型的な心筋梗塞の所見とは異なります。
c 胸椎圧迫骨折:胸背部痛はありますが、上下肢血圧の差や拡張期雑音は説明できません。
e 急性僧帽弁閉鎖不全症:拡張期雑音は大動脈弁閉鎖不全症を示唆しており、僧帽弁閉鎖不全症とは異なります。
考察
急性大動脈解離は、致死的な疾患であり、早期の診断と治療が重要です。臨床所見や画像検査(CT、経食道心エコーなど)により診断し、Stanford分類に基づいて治療方針を決定します。Stanford A型(上行大動脈に解離が及ぶもの)は、緊急手術の適応となります。Stanford B型(上行大動脈に解離が及ばないもの)は、内科的治療(降圧療法など)を行い、合併症がある場合に外科的治療を考慮します。この患者では、胸部CTによる解離の範囲の評価と、速やかな治療方針の決定が必要です。
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諸検査の後、痛みはやや改善したが疲労感は続いている。胸部単純 CT 終了後、心拍数 108/分、整。血圧 92/62 mmHg。SpO2 98%(room air)。
次に行うべき対応で適切なのはどれか。
a 経過観察
b 緊急手術
c 胸腔ドレナージ
d 心臓カテーテル検査
e 大動脈内バルーンパンピング〈IABP〉挿入
正解:b
解説
この患者は、急性大動脈解離(Stanford A型)と診断されています。Stanford A型大動脈解離は、上行大動脈に解離が及ぶタイプで、致死的な合併症(大動脈破裂、心タンポナーデ、冠動脈閉塞など)のリスクが高いため、緊急手術の適応となります。手術では、人工血管置換術により、解離した大動脈の修復を行います。
検査後、痛みは改善したものの、疲労感は持続しており、心拍数の増加(108/分)と血圧の低下(92/62 mmHg)が認められます。これは、大動脈解離の進行や合併症の発生を示唆する所見であり、速やかな外科的介入が必要です。
他の選択肢について:
a 経過観察:Stanford A型大動脈解離は、緊急手術の適応であり、経過観察は適切ではありません。
c 胸腔ドレナージ:大動脈解離では、血胸や胸水貯留を合併することがありますが、この患者では胸腔ドレナージの適応となる所見は明らかではありません。
d 心臓カテーテル検査:急性期の大動脈解離では、カテーテル操作により解離の進行や大動脈破裂のリスクがあるため、適応となりません。
e 大動脈内バルーンパンピング〈IABP〉挿入:大動脈解離では、IABPによる大動脈の損傷や解離の進行のリスクがあるため、禁忌です。
考察
Stanford A型大動脈解離は、死亡率の高い疾患であり、診断後は速やかな外科的治療が必要です。手術までの間は、厳重な血圧管理(収縮期血圧を100~120 mmHg程度に維持)と、合併症の監視を行います。また、疼痛管理や臓器保護のための治療も重要です。
手術では、人工心肺を用いて体外循環を確立し、大動脈を切開して解離腔を確認します。解離した内膜フラップを切除し、人工血管を用いて大動脈を置換します。必要に応じて、大動脈弁置換術や冠動脈バイパス術を併施します。
術後は、集中治療室で厳重な循環管理と合併症の監視を行います。血圧管理、疼痛管理、臓器保護、リハビリテーションなどを行い、患者の回復を支援します。
Stanford A型大動脈解離は、早期診断と迅速な外科的治療が予後を大きく左右する疾患です。臨床所見や画像検査から速やかに診断し、適切な治療方針を決定することが重要です。また、多職種によるチーム医療を行い、患者の生命予後と生活の質の向上を目指す必要があります。
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