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52 歳の男性。両足底の痛みを主訴に来院した。5 年前に 2 型糖尿病と診断されたがそのままにしていた。3 か月前から自宅近くの診療所でスルホニル尿素薬を内服している。1 か月前から足底に針で刺すような痛みを入眠時に自覚し、睡眠が十分とれなくなっている。職業は会社員。喫煙歴はなく、飲酒は機会飲酒。化学物質の曝露歴はない。意識は清明。身長 176 cm、体重 56 kg。体温 36.3℃。脈拍 82/分、整。血圧 128/78 mmHg。呼吸数 18/分。SpO2 96%(room air)。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。尿所見:蛋白(-)、糖 1+、ケトン体(-)。血液生化学所見:総蛋白 7.5 g/dL、アルブミン 3.9 g/dL、尿素窒素 12 mg/dL、クレアチニン 0.6 mg/dL、空腹時血糖 162 mg/dL、HbA1c 7.8%(基準 4.9~6.0)。
この患者に認められる可能性の高い所見はどれか。2 つ選べ。
a  両側握力低下
b  両側腓腹筋萎縮
c  両側下肢振動覚低下
d  両側アキレス腱反射消失
e  両側上腕二頭筋腱反射消失

第118回医師国家試験

正解:c,d

解説

a. 両側握力低下:糖尿病性ニューロパチーでは、通常、遠位優位の感覚障害が先行し、運動障害は後期に出現します。本症例では握力低下を示唆する所見は認められません。

b. 両側腓腹筋萎縮:糖尿病性ニューロパチーでは、下肢遠位部の筋萎縮がみられることがありますが、初期症状としては典型的ではありません。本症例では足底の疼痛が主訴であり、筋萎縮を示唆する所見は記載されていません。

c. 両側下肢振動覚低下:糖尿病性ニューロパチーでは、下肢遠位部の振動覚や位置覚の低下が早期からみられます。本症例でも、両側下肢の振動覚低下が認められる可能性が高いと考えられます。

d. 両側アキレス腱反射消失:糖尿病性ニューロパチーでは、下肢遠位部の腱反射が早期から低下・消失します。本症例でも、両側アキレス腱反射の消失が認められる可能性が高いと考えられます。

e. 両側上腕二頭筋腱反射消失:糖尿病性ニューロパチーは、通常、下肢遠位部から始まり、徐々に上行性に進展します。上肢の腱反射が消失するのは後期の症状であり、本症例のような初期症状としては非典型的です。

以上より、本症例ではc.両側下肢振動覚低下とd.両側アキレス腱反射消失が認められる可能性が高いと考えられます。

考察

本症例は、52歳男性で5年前に2型糖尿病と診断されたが放置していた方が、1か月前から両側足底の疼痛を自覚し、睡眠障害をきたしている症例です。糖尿病の罹病期間が長く、HbA1cも7.8%と高値であることから、糖尿病性ニューロパチーの可能性が高いと考えられます。

糖尿病性ニューロパチーは、糖尿病の三大合併症の一つであり、病理学的には軸索変性を主体とする末梢神経障害です。最も多いのは遠位対称性多発ニューロパチー(DSPN)であり、下肢遠位部の感覚障害や疼痛で発症することが多いとされています。初期症状としては、足底のしびれやジンジン感、灼熱感、刺すような痛みなどが挙げられ、特に夜間や安静時に増悪することが特徴的です。また、アキレス腱反射の消失や振動覚の低下も早期からみられます。

鑑別診断としては、脊髄疾患や末梢神経の絞扼、ビタミン欠乏症、薬剤性ニューロパチーなどが挙げられますが、本症例では糖尿病の罹病期間が長く、典型的な症状を呈していることから、糖尿病性ニューロパチーが最も考えられます。

治療としては、血糖コントロールが基本ですが、本症例のような神経障害性疼痛に対しては、プレガバリンやデュロキセチンなどの薬物療法も考慮されます。また、足底の感覚低下に伴う潰瘍形成や骨・関節感染のリスクもあるため、フットケアや定期的な足の観察が重要です。

本症例のような糖尿病患者では、自覚症状がなくても定期的な神経学的検査を行い、早期にニューロパチーを発見し、適切な治療を行うことが重要であると考えられます。

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