見出し画像

88 歳の女性。腰痛を主訴に救急車で搬入された。今朝、自宅で転倒してから腰痛のため歩けなくなったため救急車を要請した。高血圧症と認知症で治療中である。改訂長谷川式簡易知能評価スケールで 7 点(30 点満点)。要介護度は要介護 1 である。腰椎エックス線写真で第 3 腰椎の圧迫骨折を認め、疼痛管理とリハビリテーションを目的に入院となった。入院 1 か月後に状態が安定したので、退院後の方針について夫と話し合いとなった。
夫への説明で適切なのはどれか。
a 「話し合いの内容は文書では残しません」
b 「配偶者は代理意思決定者にはなれません」
c 「本人は認知症があるので参加は不要です」
d 「話し合いで決まったことでも後で変更できます」
e 「ケアマネジャーに話し合いの内容を伝える必要はありません」

第118回医師国家試験

正解:d

解説

この問題は、認知症患者の退院後の方針決定における、家族との話し合いの在り方について問うものです。各選択肢の適切性について考察します。
a. 話し合いの内容は、文書で残すことが望ましいです。文書化することで、決定事項を明確にし、後日の確認や共有が容易になります。
b. 配偶者は、重要な意思決定者の一人です。患者本人の意思が不明な場合、配偶者の意見は尊重されるべきです。
c. 認知症があっても、本人の意思を尊重することが大切です。本人の判断能力に応じて、可能な限り本人を話し合いに参加させることが望ましいです。
d. 話し合いで決まったことでも、状況の変化に応じて見直しが必要な場合があります。柔軟な対応が求められます。
e. ケアマネジャーは、退院後のケア計画を立案し、サービスを調整する重要な役割を担います。話し合いの内容を共有することが、適切なケア提供につながります。
以上より、夫への説明で適切なのは、「話し合いで決まったことでも後で変更できます」(選択肢d)です。

考察

認知症患者の意思決定支援は、倫理的にも法的にも重要な課題です。認知症があっても、患者の意思を尊重し、QOLを最大限に維持することが求められます。
意思決定能力が低下した患者の場合、家族など身近な人が代理意思決定者となることがあります。その際、患者の推定意思(事前の意思表示や価値観から推測される意思)を尊重することが大切です。
家族との話し合いでは、患者本人の参加を促すことが重要です。認知症の程度に応じて、可能な限り本人の意見を聞き、意思決定に関与してもらうことが望ましいです。
話し合いの内容は、文書で残しておくことが推奨されます。文書化することで、決定事項を明確にし、関係者間での共有が容易になります。また、後日の確認や見直しの際にも役立ちます。
ただし、話し合いで決まったことも、絶対的なものではありません。患者の状態や価値観、家族の事情などは変化し得るものです。状況の変化に応じて、柔軟に方針を見直すことが必要です。
退院後のケアにおいては、多職種の連携が欠かせません。ケアマネジャーは、ケアプランの立案とサービスの調整において中心的な役割を担います。話し合いの内容をケアマネジャーと共有することで、患者のニーズに合ったサービスを提供することができます。
また、話し合いの場には、医療者だけでなく、ケアマネジャーや福祉関係者など、退院後のケアに関わる多職種が参加することが望ましいです。多角的な視点からの意見を集約することで、より良い意思決定が可能になります。
意思決定支援では、患者と家族の心理的サポートも重要な要素です。認知症の診断は、患者と家族にとって大きな衝撃となります。医療者は、共感的な態度で接し、不安や悩みに耳を傾けることが大切です。
また、意思決定プロセスにおいては、患者と家族の意向が対立することもあります。医療者は、中立的な立場から、両者の意見を調整し、合意形成を促すことが求められます。
認知症患者の意思決定支援は、医療・ケア・倫理・法律など、多様な側面を持つ複合的な課題です。画一的なルールではなく、個々の患者の状況に応じた柔軟な対応が必要とされます。
医療者は、認知症患者の意思決定支援に関する知識と技術を身につけ、チーム医療の一員として、患者と家族に最善のサポートを提供することが求められます。
そのためには、医療者自身が、認知症に関する偏見や先入観を払拭し、患者の尊厳を守る姿勢を持つことが大切です。患者の残存能力を最大限に引き出し、QOLの維持・向上を目指すことが、医療者の使命といえるでしょう。
認知症患者の意思決定支援は、医療・ケアの質を問う試金石です。一人一人の患者に寄り添い、最善の支援を提供することが、認知症ケアの向上につながります。そして、そのような取り組みの積み重ねが、認知症になっても尊厳を持って生きられる社会の実現に近づくのです。
医療者一人一人が、認知症患者の意思決定支援の重要性を認識し、自らの役割を果たしていくことが求められています。多職種連携と患者・家族支援を軸に、認知症ケアの質の向上を目指すことが、これからの医療に課せられた使命といえるでしょう。

=============================
【質問や感想、ご相談の募集について】
このブログを読んで感じたこと、質問したいこと、相談したいことなど、どんなことでも歓迎します。
特に期限は設けていませんので、過去の記事に関するものでも大丈夫です。
他の読者の方にも参考になりそうな内容を優先的に取り上げさせていただきますが、できるだけたくさんの方のお声にお応えできるよう努めます。
ご相談いただいた内容は、プライバシーに十分配慮した上で、このブログ等で紹介させていただくことがあります。
なお、ご自身の体調に関する事や医療相談はご遠慮ください。
体調に不安のある方は、医療機関の受診をおすすめします。

ご相談・ご質問はこちらのアドレスまでお寄せください。
dr.kousei.taro@gmail.com

みなさまからのメッセージをお待ちしております!

作者:厚生太郎
Twitter : https://twitter.com/kosei_taro
質問受付: dr.kousei.taro@gmail.com

=============================
【免責事項】
本ブログの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、著者及び関係者本ブログは医療行為の勧誘や医療助言を目的としたものではありません。
本ブログの情報を利用して行った医療行為等により損失が生じても、著者及び関係者は一切の責任を負いません。=============================

#医師
#医学部
#国試
#医師国家試験
#医師国家試験対策
#医師国家試験解説
#第118回医師国家試験