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50歳の女性。動悸を主訴に救急車で搬入された。数か月前から週に1回程度の動悸を自覚していたが、すぐに治まるので気にしていなかった。午後8時、会食中に突然、動悸と呼吸困難が出現したため家族が救急車を要請した。既往歴と家族歴に特記すべきことはない。意識は清明。身長160cm、体重54kg。体温36.6℃。心拍数136/分、整。血圧126/90mmHg。呼吸数36/分。SpO2 98%(room air)。頸部に雑音を聴取せず、頸静脈の怒張を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。12誘導心電図を別に示す。心電図モニターをつけ、左前腕に静脈路を確保した。息こらえを30秒行ったが、頻脈は改善しない。気管支喘息の既往がないことを再確認しアデノシン三リン酸を投与することとした。投与後に一過性の胸内苦悶が起こることを患者に説明した。
投与方法で適切なのはどれか。
a. 舌下投与
b. 皮下注射
c. 筋肉注射
d. 急速静注
e. 持続静注

第118回医師国家試験

正解: d

解説

本症例は50歳女性の発作性上室性頻拍(PSVT)である。会食中に突然の動悸と呼吸困難が出現し、心電図で心拍数136/分の規則的な頻脈を認めている。息こらえ試験で頻拍が停止しないことから、PSVTと診断される。PSVTの急性期治療としてアデノシン三リン酸の急速静注が選択された。
アデノシン三リン酸は、房室結節の伝導を一過性に抑制することで、リエントリー性頻拍を停止させる薬剤である。
a. 舌下投与: アデノシンの舌下投与は効果が不確実であり、PSVTの治療としては適切でない。
b. 皮下注射: アデノシンの皮下注射は効果発現が遅く、PSVTの急性期治療には適さない。
c. 筋肉注射: アデノシンの筋肉注射は効果発現が遅く、PSVTの急性期治療には適さない。
d. 急速静注: アデノシンは半減期が極めて短いため、急速静注により速やかに高濃度に到達させる必要がある。PSVTの急性期治療として最も適切な投与経路である。
e. 持続静注: アデノシンは持続静注しても効果が乏しく、PSVTの治療としては適切でない。
以上より、本症例においてアデノシン三リン酸の投与方法として適切なのは、急速静注である。

考察

PSVTは日常診療でしばしば遭遇する不整脈である。若年者では発作性であることが多いが、基礎心疾患を有する高齢者では持続性となることもある。動悸、呼吸困難、胸痛などを主訴とし、心電図で規則的な頻拍を認める。
PSVTの多くは、房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)または房室リエントリー性頻拍(AVRT)である。AVNRTは房室結節の二重伝導路を介したリエントリーであり、AVRTは副伝導路を介したリエントリーである。いずれも、房室結節の伝導を抑制することで頻拍を停止させることができる。
PSVTの急性期治療では、迷走神経刺激と薬物療法が用いられる。迷走神経刺激には、息こらえ試験、頸動脈洞マッサージ、顔面浸水などがある。薬物療法では、アデノシンの急速静注が第一選択となる。アデノシンは半減期が極めて短いため、頻拍が再発することも多い。その場合は、ベラパミルやジルチアゼムなどの房室結節伝導抑制薬の静注を考慮する。
PSVTの慢性期管理では、カテーテルアブレーションが根治療法となる。薬物療法としては、ベラパミル、ジルチアゼム、β遮断薬などが用いられる。基礎心疾患や合併症、患者の年齢や活動性なども考慮して、治療方針を決定する必要がある。
PSVTは、適切な診断と迅速な治療介入により、良好な予後が期待できる疾患である。救急医療の現場では、心電図による正確な診断と、アデノシンの適切な使用法の理解が重要である。また、慢性期管理においては、不整脈専門医との連携が肝要と考えられる。

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