見出し画像

28歳の女性(2妊1産)。妊娠32週に胎児発育不全を指摘され紹介受診した。妊娠10週に行った妊婦初期検査では血液型O型RhD(+)、間接Coombs試験陰性、HBs抗原陰性、HCV抗体陰性、風疹HI抗体価128倍、RPR1倍未満、TPHA陰性、HIV抗原・抗体陰性であった。妊娠15週に感冒様症状が数日続いたが、自然に軽快したためそのままにしていた。来院時の胎児超音波検査で大横径〈BPD〉73mm(-2SD)、腹囲〈AC〉23cm、大腿骨長〈FL〉24mm、推定胎児体重〈EFW〉1,368g(-2SD)、胎児に腹水を認める。
考えられる母子感染症はどれか。
a. 水 痘
b. 梅 毒
c. 風 疹
d. B型肝炎
e. サイトメガロウイルス感染症

第118回医師国家試験

正解:e

解説

a. 水痘は妊娠初期の感染で先天性水痘症候群を引き起こすが、本症例では妊娠15週の感染であり、胎児発育不全の原因としては考えにくい。
b. 梅毒は妊婦検診で RPR、TPHA ともに陰性であり、否定的である。
c. 風疹は妊婦検診で風疹 HI 抗体価が128倍と高値であり、既感染を示唆する。急性感染は否定的である。
d. B型肝炎は妊婦検診で HBs 抗原陰性であり、否定的である。
e. サイトメガロウイルス感染症は妊娠中の初感染や再活性化により、胎児発育不全、腹水、石灰化などを引き起こす。本症例では妊娠15週の感冒様症状がサイトメガロウイルス感染を示唆しており、胎児所見と合わせて先天性サイトメガロウイルス感染症が最も考えられる。

考察

妊娠中の感染症は、母体への影響だけでなく、胎児への垂直感染により先天異常や発育障害を引き起こす可能性があるため、注意が必要である。特に風疹、サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、梅毒などは先天感染の原因として重要である。
サイトメガロウイルスは妊娠中の初感染率が高く、先天感染を引き起こす最も頻度の高いウイルスである。多くは不顕性感染であるが、重症例では胎児発育不全、腹水、脳室拡大、石灰化などを認める。出生後は難聴、発達遅滞、視力障害などの後遺症を残すことがある。
妊娠中のサイトメガロウイルス感染が疑われる場合は、母体血清中のウイルス抗体価測定や PCR 法によるウイルス DNA 検出などで診断を確定する。胎児感染が疑われる場合は、羊水検査や脳室周囲石灰化の有無などを評価する。
現時点では、サイトメガロウイルス感染に対する予防法や治療法は確立されていない。ワクチンの開発が進められているが、実用化には至っていない。妊娠中は、手洗いの励行や濃厚接触の回避など、感染予防に努めることが重要である。
先天性サイトメガロウイルス感染症は、早期発見・早期介入により、聴力障害などの後遺症を最小限に抑えることが可能である。新生児聴覚スクリーニングなどを活用し、慎重なフォローアップを行うことが肝要と考えられる。

=============================
【質問や感想、ご相談の募集について】
このブログを読んで感じたこと、質問したいこと、相談したいことなど、どんなことでも歓迎します。
特に期限は設けていませんので、過去の記事に関するものでも大丈夫です。
他の読者の方にも参考になりそうな内容を優先的に取り上げさせていただきますが、できるだけたくさんの方のお声にお応えできるよう努めます。
ご相談いただいた内容は、プライバシーに十分配慮した上で、このブログ等で紹介させていただくことがあります。
なお、ご自身の体調に関する事や医療相談はご遠慮ください。
体調に不安のある方は、医療機関の受診をおすすめします。

ご相談・ご質問はこちらのアドレスまでお寄せください。
dr.kousei.taro@gmail.com

みなさまからのメッセージをお待ちしております!

作者:厚生太郎
Twitter : https://twitter.com/kosei_taro
質問受付: dr.kousei.taro@gmail.com

=============================
【免責事項】
本ブログの情報に基づいて被ったいかなる損害についても、著者及び関係者本ブログは医療行為の勧誘や医療助言を目的としたものではありません。
本ブログの情報を利用して行った医療行為等により損失が生じても、著者及び関係者は一切の責任を負いません。=============================

#医師
#医学部
#国試
#医師国家試験
#医師国家試験対策
#医師国家試験解説
#第118回医師国家試験