
118D64
52 歳の男性。2 週間前から続く 38℃台の発熱と咳嗽を主訴に来院した。気管支鏡検査を施行後に入院した。職場で咳が出るが、自宅で咳は出ない。既往歴に特記すべきことはない。喫煙歴は 40 本/日を 20 歳~48 歳。自宅は築 30 年の一軒家。職業歴は 5 年前まで会社員、5 年前からキノコの屋内栽培に従事している。意識は清明。身長 163 cm、体重 61 kg。体温 37.3℃。脈拍 84/分、整。血圧 132/80 mmHg。呼吸数 20/分。SpO2 94%(room air)。心音と呼吸音とに異常を認めない。血液所見:赤血球 440 万、Hb 13.6 g/dL、白血球 4,200、血小板 21 万。血液生化学所見:KL-61,300 U/mL(基準 500 未満)。免疫血清学所見:CRP 3.1 mg/dL、抗核抗体陰性。胸部エックス線写真にて両側肺野に粒状影と淡い浸潤影を認めた。胸部 CT で粒状影とすりガラス影を認めた。入院後、発熱と咳嗽は速やかに自然寛解した。入院 7 日目、SpO2 は 98%(room air)であり帰宅試験を行ったが、症状は再燃しないため入院 10 日目に退院した。
この疾患で特徴的な所見はどれか。
a 喀痰:抗酸菌塗抹陽性
b 生化学検査:血清 IgA 高値
c 呼吸機能検査 FEV1%:60%以下
d 気管支肺胞洗浄〈BAL〉:リンパ球分画増加
e 経気管支肺生検病理組織:びまん性肺胞障害〈DAD〉
解説
a. 本症例の経過から、結核は考えにくく、抗酸菌塗抹陽性は典型的な所見ではない。
b. 過敏性肺臓炎では、血清IgGの上昇を認めることがあるが、IgAの上昇は特徴的ではない。
c. 過敏性肺臓炎では、拘束性換気障害を呈することが多く、閉塞性換気障害(FEV1%低下)は非典型的である。
d. 過敏性肺臓炎では、BAL液でリンパ球分画の増加を認め、CD8陽性Tリンパ球優位であることが多い。本症例でも、BALリンパ球分画増加が示唆される。
e. 過敏性肺臓炎の病理組織では、細気管支周囲の肉芽腫性炎症や閉塞性細気管支炎の所見を認める。DADは、特発性間質性肺炎(IIPs)の一型である急性間質性肺炎(AIP)などで見られる所見である。
考察
本症例は、職業性曝露歴を有する成人男性に発症した間質性肺炎である。臨床経過、画像所見、BAL所見から、過敏性肺臓炎が最も考えられる。
過敏性肺臓炎は、有機抗原の反復吸入により生じる免疫学的な肺臓炎であり、III型およびIV型アレルギー反応が関与する。原因抗原には、鳥関連抗原、カビ、細菌、化学物質などがある。
本症例では、キノコ栽培従事者であることから、キノコ胞子や栽培に使用する有機物質が原因抗原として疑われる。職場での曝露歴と症状の関連性が示唆される点も診断に寄与する。
臨床症状は、咳嗽、呼吸困難、発熱などであり、曝露から数時間後に出現する。聴診上は fine cracklesを聴取することが多い。曝露から遠ざかることで症状は改善する。
胸部画像所見は、急性期には両側肺野の斑状すりガラス影を呈し、慢性期には網状影や蜂巣肺を認める。斑状影や mosaic attenuation もしばしば見られる。
診断には、BAL が有用であり、リンパ球分画の増加(40~80%)と、CD4/CD8比の低下(<1.0)が特徴的である。経気管支肺生検では、細気管支周囲の肉芽腫性炎症や閉塞性細気管支炎の所見を認める。
治療の基本は、原因抗原の回避である。ステロイド薬は、急性増悪時や重症例で使用される。予後は一般的に良好であるが、慢性型では線維化の進行により予後不良となることがある。
本症例では、職業性曝露の中止により速やかに軽快しており、急性過敏性肺臓炎と考えられる。曝露の中止が最も重要な治療であり、ステロイド薬は不要と判断される。
過敏性肺臓炎は、職業性肺疾患として重要な疾患の一つである。職業歴や環境曝露歴の詳細な聴取と、画像・BAL所見の評価が診断に寄与する。原因抗原の同定と回避が、治療と予防に不可欠である。
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