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118B41、118B42

次の文により41、42の問いに答えよ。
65 歳の女性。異常行動のため救急車で搬入された。
現病歴 : 1 週間前から便秘があった。数日前に買い物から帰宅した際、買ったものをゴミ箱に捨てたりお金をばらまくなどの行動があった。今朝からぼんやりとして呼びかけに反応が鈍いため夫が救急車を要請した。
既往歴 : 2 型糖尿病と脂肪肝のため自宅近くの診療所に通院し、DPP-4 阻害薬を内服している。
家族歴 : 特記すべきことはない。
生活歴 : 喫煙歴と飲酒歴はない。
現 症 : うとうとしているが呼びかけで目を開け会話ができる。身長 154 cm、体重 72 kg。BMI 30.4。体温 36.4℃。心拍数 80/分、整。血圧 104/64 mmHg。呼吸数 16/分。SpO2 98%(room air)。眼球結膜に黄染を認める。甲状腺腫と頸部リンパ節とを触知しない。前胸部にくも状血管拡張と手掌紅斑とを認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝を触知しない。脾臓を左肋骨弓下に 1 cm 触知する。下腿に浮腫を認めない。
検査所見 : 血液所見:赤血球 396 万、Hb 12.1 g/dL、白血球 3,800、血小板 10 万、PT-INR 1.0(基準 0.9~1.1)。血液生化学所見:総蛋白 7.0 g/dL、アルブミン 3.4 g/dL、総ビリルビン 3.7 mg/dL、AST 74 U/L、ALT 52 U/L、γ-GT 63 U/L(基準 9~32)、コリンエステラーゼ 150 U/L(基準 201~421)、アンモニア 180μg/dL(基準 18~48)、尿素窒素 12 mg/dL、クレアチニン 0.6 mg/dL、血糖 148 mg/dL、HbA1c 7.6%(基準 4.9~6.0)、Na 142 mEq/L、K 3.8 mEq/L、Ca 8.8 mg/dL。頭部単純 CT で異常を認めない。

第118回医師国家試験

118B41

この患者にみられる神経所見はどれか。
a  筋強剛
b  企図振戦
c  項部硬直
d  Barré 徴候
e  固定姿勢保持困難〈asterixis〉

第118回医師国家試験

正解:e

解説

この患者は、肝性脳症の症状を呈しています。肝性脳症では、アンモニアなどの神経毒性物質が蓄積することで、意識障害や異常行動などの神経症状が出現します。神経所見としては、固定姿勢保持困難(asterixis)が特徴的です。

以下、他の選択肢についての解説です。

a  筋強剛:パーキンソン病などでみられる筋緊張の亢進状態ですが、この患者の症状とは異なります。
b  企図振戦:小脳障害などでみられる運動時の振戦ですが、この患者の症状とは異なります。
c  項部硬直:髄膜炎などでみられる症状ですが、この患者の症状とは異なります。
d  Barré 徴候:上肢の麻痺の程度を評価する徴候ですが、この患者の症状とは異なります。

考察

この患者は、肝機能障害による肝性脳症を呈していると考えられます。血液検査では、総ビリルビン、AST、ALT、アンモニアの上昇がみられ、肝機能障害を示唆しています。また、脂肪肝の既往や肥満(BMI 30.4)なども、肝機能障害のリスク因子として挙げられます。肝性脳症の診断には、神経所見としての固定姿勢保持困難(asterixis)の確認が重要です。

118B42

治療で適切なのはどれか。
a  新鮮凍結血漿の輸血
b  50%ブドウ糖の静注
c  生理食塩水の点滴静注
d  アルブミン製剤の点滴静注
e  分岐鎖アミノ酸製剤の点滴静注

第118回医師国家試験

正解:e

解説

肝性脳症の治療では、アンモニアなどの神経毒性物質を減らすことが重要です。分岐鎖アミノ酸製剤は、肝性脳症の治療に用いられる薬剤で、アンモニアの代謝を促進し、血中アンモニア濃度を下げる作用があります。

以下、他の選択肢についての解説です。

a  新鮮凍結血漿の輸血:凝固因子の補充を目的とした治療ですが、この患者の主な問題は肝性脳症であり、適切ではありません。
b  50%ブドウ糖の静注:低血糖の補正を目的とした治療ですが、この患者は高血糖を呈しており、適切ではありません。
c  生理食塩水の点滴静注:脱水の補正を目的とした治療ですが、この患者に脱水の所見はなく、適切ではありません。
d  アルブミン製剤の点滴静注:低アルブミン血症の改善を目的とした治療ですが、この患者のアルブミン値は正常範囲内であり、適切ではありません。

考察

肝性脳症の治療では、原因となる肝機能障害の改善とともに、アンモニアなどの神経毒性物質を減らすことが重要です。分岐鎖アミノ酸製剤は、肝性脳症の治療に広く用いられている薬剤であり、この患者に対しても適切な治療選択肢と考えられます。また、便秘に対する治療や、低カリウム血症に対する補正なども、併せて行う必要があります。

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