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22歳の女性。頭痛と浮腫を主訴に来院した。2週間前から発熱と咽頭痛があり、自宅近くの診療所で扁桃炎と診断された。一昨日から頭痛および下肢の浮腫が出現し、次第に増悪したため受診した。これまでに学校と職場の健診で異常を指摘されたことはない。身長156cm、体重45kg。脈拍84/分、整。血圧156/76mmHg。顔面に皮疹はない。心音と呼吸音とに異常を認めない。両下腿に浮腫を認める。神経診察に異常を認めない。尿所見:蛋白2+、潜血3+。
この患者で認められる可能性が高いのはどれか。
a. C3低下
b. IgE高値
c. M蛋白陽性
d. 抗核抗体陽性
e. 抗リン脂質抗体陽性

第118回医師国家試験

正解:a

解説

本症例は22歳女性の扁桃炎後に発症した急性糸球体腎炎である。頭痛、浮腫、高血圧、蛋白尿、血尿などの所見は、急性糸球体腎炎の典型的な臨床像である。若年者の急性糸球体腎炎の原因として最も多いのは、溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)である。PSAGNでは、溶連菌の抗原に対する免疫複合体が糸球体に沈着することで、補体が活性化され、C3の消費性低下をきたす。したがって、本症例で認められる可能性が高い検査所見は、C3低下である。
b. IgE高値:アレルギー性疾患で上昇するが、急性糸球体腎炎とは関連が乏しい。
c. M蛋白陽性:形質細胞疾患(多発性骨髄腫など)で認められるが、急性糸球体腎炎とは関連が乏しい。
d. 抗核抗体陽性:全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患で陽性となるが、急性糸球体腎炎との関連は乏しい。ただし、SLEによるループス腎炎では急性糸球体腎炎類似の症状を呈することがある。
e. 抗リン脂質抗体陽性:抗リン脂質抗体症候群で陽性となるが、急性糸球体腎炎とは関連が乏しい。
以上より、本症例で認められる可能性が高い検査所見は、C3低下である。

考察

急性糸球体腎炎は、何らかの原因により糸球体に免疫複合体が沈着し、炎症反応が惹起される疾患である。小児では溶連菌感染後が最も多く、成人ではIgA腎症が最も多い。臨床症状として、急性発症の血尿、蛋白尿、浮腫、高血圧などを呈する。
急性糸球体腎炎の診断には、臨床症状に加えて、血液検査、尿検査、腎生検などが用いられる。血液検査では、腎機能障害、低補体血症、溶連菌感染の証拠(ASO価、抗DNase B抗体価の上昇)などを評価する。尿検査では、血尿、蛋白尿、円柱などを評価する。腎生検は、確定診断と予後評価に有用である。
治療の基本は、安静、食事療法、利尿薬などの対症療法である。高度の腎機能障害や高血圧を伴う場合は、ステロイド薬や免疫抑制薬の使用を考慮する。多くは数週間から数ヶ月で自然寛解するが、まれに慢性腎炎へ移行することがある。
PSAGNは、適切な抗菌薬治療により溶連菌感染を制御することで予防可能である。咽頭炎や皮膚感染症の症状があれば、速やかな診断と治療が重要である。また、溶連菌感染の流行地域では、積極的な検診と治療介入が有効である。
急性糸球体腎炎は、日常診療でしばしば遭遇する疾患である。典型的な症状を呈する場合は比較的診断は容易であるが、非典型的な症状の場合は見逃されやすい。急性発症の血尿、蛋白尿、浮腫などを認めた場合は、本疾患を鑑別診断の一つとして考慮することが肝要である。早期診断・早期治療介入により、予後の改善が期待できる。

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