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82 歳の女性。物忘れを心配した息子に伴われて来院した。5 年前から何度も同じことを尋ねるようになった。1 年前から道に迷うようになり買い物と料理が 1 人でできなくなった。鏡に映った自分の姿に怒る様子がみられた。診察時、不安そうに何度も息子の方を振り返り日付を質問すると間違えた。改訂長谷川式簡易認知機能評価スケールは 11 点(30 点満点)である。神経診察で異常を認めない。血液生化学検査と脳波検査に異常を認めない。頭部単純 MRI の FLAIR 水平断像(A)と T1 強調冠状断像(B)を別に示す。
この患者に投与する薬剤はどれか。
a  ジアゼパム
b  ドネペジル
c  パロキセチン
d  ハロペリドール
e  レボドパ〈L-dopa〉

第118回医師国家試験

正解:b

解説

本症例は、高齢女性に発症した緩徐進行性の認知機能低下である。記憶障害、見当識障害、道順障害、ADL低下などの症状を呈している。改訂長谷川式簡易認知機能評価スケールの低下を認めており、認知症の診断が妥当である。頭部MRIでは、海馬の萎縮と側頭葉内側の萎縮を認めている。これらの臨床像と画像所見から、アルツハイマー型認知症が最も考えられる。アルツハイマー型認知症の治療では、コリンエステラーゼ阻害薬が第一選択となる。
a. ジアゼパムは、ベンゾジアゼピン系抗不安薬であり、不安障害やてんかんの治療に用いられる。本症例の認知症に対する効果は期待できない。
b. ドネペジルは、コリンエステラーゼ阻害薬の一つであり、アルツハイマー型認知症の治療に用いられる。コリン作動性神経伝達を高めることで、認知機能の改善が期待できる。本症例では、ドネペジルの投与が適切である。
c. パロキセチンは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の一つであり、うつ病や不安障害の治療に用いられる。本症例の認知症に対する効果は期待できない。
d. ハロペリドールは、定型抗精神病薬の一つであり、統合失調症やせん妄の治療に用いられる。本症例では、幻覚妄想などの精神病症状は認めておらず、ハロペリドールの投与は適切ではない。
e. レボドパは、パーキンソン病の治療薬であり、ドパミン前駆体としてドパミン作動性神経伝達を高める。本症例では、パーキンソン症状は認めておらず、レボドパの投与は適切ではない。

考察

アルツハイマー型認知症は、高齢者に発症する認知症の中で最も頻度が高い疾患である。記憶障害、見当識障害、実行機能障害、視空間認知障害などの症状を呈し、緩徐に進行する。病理学的には、大脳皮質にアミロイドβ蛋白の沈着と神経原線維変化を認める。臨床的には、記憶障害で発症することが多く、日常生活動作(ADL)の低下を伴う。画像検査では、MRIで海馬と側頭葉内側の萎縮を認めることが多い。SPECTでは、後部帯状回や頭頂側頭葉の血流低下を認める。診断には、臨床症状と検査所見から総合的に判断する。治療では、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)や、NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)が用いられる。これらの薬剤により、認知機能の改善や進行抑制が期待できる。行動・心理症状(BPSD)に対しては、非薬物療法を基本とし、薬物療法は慎重に検討する。抗精神病薬は、死亡リスクの増加が報告されているため、安易な使用は避けるべきである。アルツハイマー型認知症は、根本的な治療法は確立していないものの、早期診断と適切な治療により、患者のQOL維持が可能である。認知症の診療においては、身体合併症の管理や、介護者への支援も重要である。多職種によるチームアプローチが求められる疾患である。

118D45

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