118E43、118E44
118E43
正解:e
解説
この患者は、6か月前からの抑うつ気分に加えて、1か月前からは気分の高揚、多弁、活動性の増加などの症状を呈しています。これらの症状は、双極性障害(躁うつ病)の躁状態を示唆するものです。
躁状態では、以下のような症状がみられます。
気分の高揚または易刺激性
活動性の増加
多弁
睡眠欲求の減少
思考の加速
注意の転導性
自尊心の肥大
行動の無謀さ
選択肢の中では、睡眠欲求の減少(選択肢e)が、この患者にみられる躁状態の症状として最も適切です。
他の選択肢については以下のように考えられます。
a. 幻視:躁状態では通常みられません。統合失調症や精神病性うつ病などでみられることがあります。
b. 離人症:自己や周囲が非現実的に感じられる症状ですが、躁状態では典型的ではありません。
c. 聴覚過敏:躁状態では、感覚の鋭敏化が生じることがありますが、聴覚過敏は必ずしも典型的ではありません。
d. 抑うつ気分:この患者は、6か月前には抑うつ気分を呈していましたが、現在は躁状態にあり、抑うつ気分はみられません。
以上より、精神科受診時にこの患者にみられる症状は、睡眠欲求の減少(選択肢e)と考えられます。
考察
双極性障害は、躁状態とうつ状態を繰り返す気分障害です。病相期には、社会生活や対人関係に大きな支障をきたします。
この患者の場合、当初はうつ状態で発症し、抗うつ薬が処方されていました。しかし、その後に躁状態に転じたと考えられます。双極性障害では、抗うつ薬の投与によって躁転(うつ状態から躁状態への移行)を来すことがあり、注意が必要です。
躁状態では、睡眠欲求の減少により、日中の活動性が高まります。睡眠時間が減少しても疲れを感じにくく、仕事や交友関係など、様々な場面で活動的になります。しかし、その一方で、無計画な行動や衝動的な行動が増え、対人トラブルなどを引き起こすことがあります。
躁状態の治療には、気分安定薬(リチウム、バルプロ酸など)や非定型抗精神病薬が用いられます。また、躁状態の行動を抑制し、睡眠を確保するための環境調整も重要です。
双極性障害は、適切な治療により、病相期の症状をコントロールし、社会生活を維持することが可能です。しかし、治療の中断や不規則な生活により、再発することも少なくありません。
したがって、双極性障害の患者に対しては、薬物療法とともに、規則正しい生活リズムの維持や、ストレス対処法の習得など、心理社会的なサポートが重要となります。
また、家族に対する支援も欠かせません。双極性障害は、家族の負担が大きい疾患です。家族に病気の理解を深めてもらい、患者を支える役割を担ってもらうことが重要です。
医療者は、双極性障害の症状と経過を理解し、適切な診断と治療を行うことが求められます。また、患者と家族に対して、病気の説明と生活指導を丁寧に行い、治療への主体的な参加を促すことが大切です。
双極性障害は、適切な治療とサポートにより、多くの患者がよりよい社会生活を送ることができる疾患です。医療者は、患者の尊厳を尊重し、希望を与え続けることが重要です。そして、患者と家族に寄り添い、共に歩む姿勢を持つことが、診療の基本であると言えるでしょう。
118E44
正解:b
解説
この患者は、双極性障害の躁状態にあると考えられます。現在の症状は、抗うつ薬の投与による躁転の可能性が高いです。したがって、この患者に対しては、抗うつ薬の中止と、気分安定薬や非定型抗精神病薬への変更が必要と考えられます。
選択肢bの「薬を変える必要があると思います」が、この患者への適切な説明と言えます。
他の選択肢については以下のように考えられます。
a. 「転職を考えてみましょう」:躁状態では、衝動的な行動や判断力の低下がみられることがあります。現時点で転職を勧めるのは適切ではありません。まずは、躁状態の改善が優先されるべきです。
c. 「精神疾患とは考えないでよいでしょう」:この患者の症状は、双極性障害の典型的な症状であり、精神疾患として診断し、治療することが必要です。精神疾患ではないと説明するのは適切ではありません。
d. 「このまましばらく様子をみてみましょう」:抗うつ薬による躁転が疑われる状況で、そのまま様子を見るのは適切ではありません。早期に薬物療法の変更を行い、躁状態のコントロールを図ることが重要です。
e. 「元気なうちにやり残した仕事をしてしまいましょう」:躁状態では、活動性が高まり、仕事などに熱中することがあります。しかし、それを医療者が助長するような発言は適切ではありません。躁状態の行動を抑制し、安定化を図ることが優先されるべきです。
以上より、この患者への説明で正しいのは、「薬を変える必要があると思います」(選択肢b)です。
考察
双極性障害の治療において、薬物療法は中心的な役割を果たします。特に、躁状態の治療には、気分安定薬や非定型抗精神病薬が有効です。
この患者の場合、抗うつ薬の投与によって躁転をきたしたと考えられます。抗うつ薬は、双極性障害のうつ状態には有効ですが、躁状態を誘発することがあるため、慎重な使用が必要です。
抗うつ薬による躁転が疑われる場合は、速やかに抗うつ薬を中止し、気分安定薬や非定型抗精神病薬に切り替えることが重要です。これにより、躁状態の改善と再発防止を図ることができます。
また、薬物療法と並行して、心理社会的なアプローチも重要です。患者に対して、病気の理解を深めてもらい、治療への主体的な参加を促すことが大切です。
具体的には、以下のような点について、患者と話し合うことが望まれます。
双極性障害の特徴と経過
薬物療法の必要性と副作用
規則正しい生活習慣の重要性
ストレス対処法の習得
家族や周囲の人々との関係調整
医療者は、これらの点について、患者の理解度や受容度に合わせて、丁寧に説明していく必要があります。患者の疑問や不安に耳を傾け、共感的な態度で接することが大切です。
また、家族に対する支援も欠かせません。家族に病気の理解を深めてもらい、患者を支える役割を担ってもらうことが重要です。家族の協力は、患者の治療adherenceの向上や再発防止に大きく寄与します。
双極性障害は、慢性の経過をたどる疾患であり、長期的な治療とサポートが必要です。医療者は、患者と家族との信頼関係を構築し、継続的な支援を提供することが求められます。
患者の尊厳を尊重し、希望を与え続けること。そして、患者と家族に寄り添い、共に歩む姿勢を持つこと。それが、双極性障害の診療において、医療者に求められる基本的な態度なのだと思います。
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