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ベランダの自然 鳩編「その3」

 私は以前、「カラスは黄色と黒の縞模様が嫌いだ」という事をネットの記事で読んだことがあった。その時は、「では阪神タイガースのユニフォームは嫌いなんだな」と思った。

 但し、そのネットの記事を読んだのはかなり昔の事だ。カラスが生ゴミをあさって困るとか、カラスの数が増え過ぎて怖いとか、住民からの苦情を受けて自治体が様々な対策を取った。最終的に自治体が一部のカラスを駆除したのだが、駆除に至るまでの対策の段階で「カラスは黄色と黒の縞模様が嫌いだ」という内容が書いてあったように私は記憶している。

 「黄色と黒の縞模様」の対策が効果を上げたのかダメだったのか、細かなことは忘れてしまったが、私は隠れタイガースファンなので、カラス対策とタイガースのユニフォームがリンクして脳の海馬に記録されていたのだ。

 カラスは頭のいい鳥である。二羽居た鳩の雛の一羽が襲われたのだから、そのうち残りの一羽も襲われるに違いない。時間の猶予は無い。私は自宅にある黄色と黒の物で縞模様を作ってカラスが近づかないようにしようと考えた。

 玄関の収納を捜すと、梱包等に使う布製のテープで黒のテープがあった。黄色のPP結束バンドもあった。このPP結束バンドはネットでまとまった量の商品を買ったときの段ボール箱を結束していたバンドで、捨てずに残していた再利用品だ。取り敢えず、これで手すりを覆う事にした。

 まず、手すりに付着した血痕らしきものをぬぐって犠牲になった雛の冥福を祈った。外から見えるように、黒の布テープを手すりに貼り付け、その上から黄色のPP結束バンドを巻いていった。再利用品だから短く切れている。バンドを繋ぎ合わせながら巻いていった。等間隔に巻くのが難しく、透明のテープで上から貼り付けた。

 ベランダの壁の一部が金属製の柵になっていて、親鳩は主に、この柵の間から出入りしている。カラスも出入りできそうな隙間があるので、この柵も対策が必要だと考えた。しかし、手すりの対策をした段階で黒の布テープが無くなった。仕方がないので、急遽、ホームセンターでカラーの布テープを買ってくることにした。上の写真は対策を終えた後のものだ。

 実は作業中に、雛を守るために何かの囲いを作った方が良くないかとも考えた。しかし、親鳩が出入り出来てカラスが出入り出来ない囲いとはどういう物か。囲いの出入り口は、親鳩が通る事が出来てカラスだと体がつかえてしまう大きさでないと親鳩は雛に餌を運べない。都合の良い穴をどのように作ればいいのか良いアイデアが浮かばなかった。囲いその物も、何で作れば良いのか分からなかった。また、突然雛を囲いに入れると親鳩がどのような反応を示すのかも分からなかった。結局、今すぐに出来る、カラスを追い払えそうな対策で様子を見る事にした。一義的に雛の命を守るのは親鳥の役目なのだから。

 もしも、カラスが襲ってきて、ベランダの中で親鳩とカラスのバトルが始まったら、そのとき助けに入ろうと思った。但し、そのとき私が部屋に居たらの話である。

 夕方、親鳩が飛んできた。私がベランダに居ないときも、きっと何度も飛んで来ているはずだ。雛はまだ無事だった。

 夜になり窓を閉めてカーテンを引いた。確認はしなかったが、ベランダでは親鳩が雛と一緒に居るのだろうと思った。寝床でいろんなことを考えた。
「もしも明け方、カラスが飛んできてバトルが始まったらどうしようか。カラスを捕まえられるか。捕まえるのが難しければ殺すか」
 手に持って振り回すのに手頃な大きさの、木工用の角材が近くにあった。
「しかし、カラスも生き物だから殺すのは良くない。鳩の命とカラスの命はどちらも大切な命だ」
 動物愛護法ではどうなっているのだろうか。鳩の害で困っているからと言って、ベランダで鳩が巣を作った場合、雛を駆除するのはもちろん、卵を捨てても罪になると職場の同僚から聞いた。

 もし、カラスを捕まえる事が出来たとして、どうやって懲らしめたらいいのか。カラスにしてみれば、鳩の卵や雛を襲うのは生きるための餌を得る行動だろう。カラスも子育てをしているのかもしれない。鳩を飼っている訳でもないのに、カラスに危害を加えるのは私の偏見ではないのか。

 いろんな事を考えて、私はよく眠れない夜を過ごした。     (続く)               


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