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〜ちひさきものは みなうつくし〜【読書感想】大村しげ『京暮らし』

 料理家で随筆家でもある大村しげ氏が京都の四季折々の日常を描いたエッセイ集。

 大村氏が祇園出身のためエピソードは全編、京ことばで記されています。あまりにも生き生きとした書きぶり(話ぶり?)で大村氏が、その場で話して聞かせてくれてると錯覚するくらい。

 70年代に『暮しの手帖』で連載していたものが元になっており、食べ物や日常の暮らしぶりのエピソードがメインです。京都の旬の食材を使った料理のレシピとして読めるものが多いですが、個人的には遊び心溢れる暮らしの知恵的な話も好きです。駒を箸置きにしてみた、お重を菓子箱として使ってみた、とか読んでいて自然と微笑んでしまうような話も。また現代では無くなってしまった生活風景の描写も一周回って新鮮に映ります。「洗濯」は洗ったら糊をつけて、専用の板に貼り付けて乾かしていたとか。知らなかった…

 どのエピソードも長くて数ページ程度。本当に短い小話なのに、一つ一つの話に「京都」を縁とする人々の哲学、美学が濃密に凝縮されています。何気ない日常を繊細に描いたエッセイは可愛らしく、懐かしく、心が暖かくなる。一つ一つが「小さな宇宙」と呼べるような作品がたくさん詰まった本。なんだか小さくて綺麗な小石を並べて眺めて、無邪気に遊んでいる子供のような気分になれました。

 枕草子に「ちひさきものは みなうつくし」という一節があります。小さなものは可愛らしくて好ましい。1000年以上前に同じ京都で活躍した作家の美学にも通じているようなエッセイ集。
 京都の文化だけでなく、日本人の伝統的な価値観が昔から今も連綿と続いていることも実感させてくれる、そんな本でもあります。

日本人は、「大きく、力強いもの」よりも、「小さく、愛らしいもの」や、「縮小されたもの(小さくまとまったもの)」に対して「美」を感じてきた。こうした感性(美意識)により、盆栽や箱庭、弁当等の「縮小した世界観」が生まれ、国内において文化として根付いただけでなく、現在、広く世界に知られるようになっている。

国土交通白書 2019


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