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シークレットレター 2話

その日の昼休み、一人で黙々と弁当を食べていると、咲月が横から現れた。

咲:ちょっと、何思い詰めた顔してんの。なんか困ったことでもあるわけ?

◯:……別に。

咲月の勘は鋭い。

だが、この手紙のことを咲月に話すべきかどうか迷った。

咲月に言えば、どうせまた茶化されるか、強引に手紙の差出人を突き止めようとするに違いない。

咲:まあいいけどさ、あ、卵焼きもーらいっ!

◯:ちょ、ちょっと待てって!それ俺の弁当だろ!

咲月はすでに箸を伸ばし、卵焼きをひょいっと掴んで口へ放り込む。

咲:んー!やっぱりおいしい!あんたの卵焼き、マジで最高だよね!

◯:お前、せめて聞いてから取れよ…

少しムッとした顔を見せるが、咲月は全く気にしていない様子でニヤニヤとこちらを見ている。

咲:なんか元気ないみたいだったし、私が食べて元気を分けてあげたんだから感謝しなよ!

◯:どんな理屈だよ…

咲:で、本当に何もないの?私、こう見えて結構頼りになるんだからさ。

その瞳には茶化すような色はない。でも、今この手紙のことを話すべきだろうか?

考え込んでいると、咲月は急に笑顔を浮かべた。

咲:まあいいや。言いたくなったら聞いてあげるからさ!でもその時は、卵焼きもう一個追加ね!あ、あと今日は私部活あるけど、明日は一緒に帰るからね!

そう言って立ち上がり、軽やかな足取りで自分の席へ戻っていった。

明日は委員会があるんだけどな、そう思いながら俺は残りの弁当を口に運んだ。


弁当を食べ終わり、まだ昼休みの時間が残っていた。なんとなく教室に居続ける気にはなれなかったため、屋上へ向かった。

普段は立ち入り禁止の屋上だが、この静かな場所には時折誰かが入り込んでいるという噂を聞いたことがある。

ダメもとで扉を押してみると、何ともあっけなく扉は開いた。

◯:……開いてるのかよ

少し驚きつつも、軽く錆びた扉を押し広げ、屋上へと足を踏み入れる。

風が頬を撫で、視界が一気に開ける。誰もいない空間に広がる静けさが心地いい。思った以上に、ここは人気がなさそうだ。そう思って俺は大の字になって寝転んだ。


??:ここ、立ち入り禁止だよ?

◯:……!

突然聞こえた声に、慌てて上半身を起こすと、一人の少女がこちらを見つめていた。

◯:えっと、誰ですか?

??:誰かって……まあ、名乗るほどの者じゃないけど。

少女は微笑みながら近づいてくる。風に髪が揺れ、その背丈と制服から同じ学年の生徒だとわかる。

◯:いや、普通に知らない人だから聞いてるんだけど。

俺が問い返すと、少女はくすっと笑い、軽く首を傾けた。

??:ここって、静かでいい場所でしょ?

◯:まあ、そうだけど……

??:私は、この場所が好きなんだよね。風が気持ちいいし、人も来ないし。

◯:あのさ、一応ここって立ち入り禁止って知ってるよね?

??:もちろん。だけど、こうして扉が開いてるってことは、誰かが「入っていいよ」って言ってるようなものじゃない?

◯:いや、そういうもんじゃないと思うけど。

俺が呆れたように返すと、彼女はくすくすと笑った。

??:じゃあ、君も同罪だね。だって、ここにいるってことは私と同じでしょ?

◯:……まあ、そうだけど。

彼女の言い分に反論できない自分が少し情けない。でも、不思議と嫌な気分にはならなかった。

??:あ、そうだ。名前、答えてなかったよね。

彼女はふっと立ち上がり、こちらを振り返る。

??:私の名前は、中西アルノ。君は?

◯:俺?俺は、小川〇〇。

中:ふーん。良い名前だね。

彼女はそう言いながら少し微笑む。と、ちょうどその時、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。

中:あ、もう時間だ。じゃあまたね。

そう言い残し、中西さんは軽やかな足取りで去っていった。

◯:中西さん、か……。

名前を呟いてみると、不思議と耳に心地よく響いた。




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その日の放課後、俺は一人で自習するために図書室に来ていた。放課後の図書室はいい意味で閑散としていて落ち着くのだ。

??:あれ、珍しいじゃん。〇〇がここに来るなんて。

声の主を確認すると、そこには本を抱えた和が立っていた。

◯:あー、和か。まあ中間テストも近いしな。

和:ふーん、真面目じゃん。でも、なんか浮かない顔してんね~。何?さっちゃんと何かあった?

和は咲月と仲が良く、俺とは1年生の頃から顔見知りだ。

◯:いや、何もないよ。

和:まあ、ならいいけど。

和はそう言いながら、俺の隣の席にドカッと座った。

◯:いや、図書委員なんだから座ってないで片付けしろよ。

和:やだよ~、片付けなんて後回し。ちょっとサボるくらい許してよ。

◯:お前な……そのうち怒られるぞ。

和:それはその時考えるってことで!

和は俺を見つめてニヤリと笑った。

和:それにしてもさー、〇〇がこんなに真面目に勉強するなんて珍しいよね。

和は机に肘をつきながら、俺の顔をのぞき込んでくる。じっと俺を見つめてくるその視線に、思わず動揺してしまう。

和:あれ、〇〇、顔真っ赤だよ?

その言葉に、恥ずかしさが増して、俺は目をそらす。

◯:おい、そんなにじろじろ見るなって

和は俺の言葉などお構いなしに、肘をついて顔を近づけてきた。

和:だって〇〇ってさ、思った以上に反応が素直だから面白いんだよね。

そう言われ、ますます照れくさくなる自分がいた。どうして和はこうもあっさりと俺をからかってくるのか。

◯:うるさいな…そんな可愛い顔で見られたら仕方ないだろ。

和:え……

ふと視線を移すと、和の頬が赤らんでいた。和くらいの美少女であれば言われ慣れているだろうと思っていたからこそ、この反応は予想外だった。

和:ちょ、ちょっと…!何言ってんの、急に。

和の思いがけない反応に、俺は思わずふふっと笑ってしまう。

◯:いや、だって和がからかってきたからさ。ちょっと反撃しただけだろ。

和:もう、変なこと言わないでよ!

和は少しムッとしたように口を尖らせた。


◯:じゃあ、俺は勉強するから。和もさっさと片付けろよ。

和はぶつぶつと文句を言いながらも席を立って片付けを始めた。その後ろ姿を見ながら、俺は本を広げて勉強を再開する。

途中で何度もちらちらとこちらを見てきたが、気にせず勉強を続けていると、しばらくして和が言った。

和:ねえ、〇〇。

◯:ん? 何だよ。

和:たまにはちゃんと休憩したほうがいいよ。勉強ばっかりしてると疲れちゃうでしょ?

俺は少し考えてから、目線を上げて答えた。

◯:ああ、まあ、そうだな。でも、今は少しだけ集中したいんだよ。

和はちょっとふてくされた顔をしたが、すぐに笑顔になってこう言った。

和:じゃあ、あと10分だけ勉強して、私とお話しよう! 休憩タイムだよ!

◯:お前、ほんと休憩ばっかだな…。

和:だって、休憩しないと続かないじゃん!心のリフレッシュって大事だよ?

◯:まあ、確かにな…。でも、もう少しだけ集中するから、10分後な。

和:よし、じゃあその間にいい話を考えておくから、楽しみにしててね!

俺はちょっと笑いながらも、また勉強に戻る。

ほどなくして、

和:はい、10分経ったよ!何話すか、考えといたからね。じゃあ、〇〇って海と山だったらどっちが好き?

◯:とても10分かけて考えた話題とは思えないな。

和:いいから答えて?

◯:うーん、どっちかっていうと山かなー

和:じゃあ山と私はどっちが好き?♡

◯:…お前これがしたかっただけだろ。

和:バレたか。

和は満足げな表情を浮かべながら、わざとらしい口調で

和:あーあ、〇〇なら私を選んでくれると思ったのになぁ。

と残念がっている。

◯:そうやってすぐからかうなって

和:あはは、ごめんごめん。それはそうと、〇〇って海より山派なんだ。ちょっと意外かも。

◯:んー、ていうか海に行ったことない気がする。

和:…え、本当に!?

和が目を見開く。

和:あ、もしかして友達いなくて海に遊びに行けなかったかわいそうな子だった?

◯:うるさいな、そんなことないわ。別に友達がいなかったわけじゃないし、ここら辺からだと結構遠いだろ?単に行く機会がなかっただけだよ。

和:ふーん、なるほどね。じゃあ、今度一緒に海行こうよ!さっちゃんとかも誘ってさ!私がしっかり案内してあげるから!

◯:なんでお前が案内するんだよ…。

和:だって、私海大好きだから!大丈夫、大船に乗ったつもりでいなさい!

◯:泥船の間違いだろ…

和:そんなに心配しなくても大丈夫だって!じゃあちょっと先になるかもしれないけど絶対行くからね?


そんなことを話しつつ、ふと外を眺めると辺りはもう暗くなりはじめていた。

和:やば、もうこんな時間じゃん。じゃあまたね!

そう言って席を立つ和を横目に、俺も帰り支度を始めた。


帰宅して自室に戻り荷物を片付けていると、ふと今朝の手紙のことを思い出す。

◯:そういえば、この手紙は一体何だったんだ…?「寄せては返す想い」、それに「秘密」ってどういうことだよ…

結局ただのいたずらだったのだろうか、そう思いながら俺は手紙を引き出しに閉まった。



第2話「二人の美少女」fin


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