小説『天使さまと呼ばないで』 第23話
ミカが"精神的豊かさ"を語り始めて2ヶ月経った頃、とあることに気がついた。
(ブログのアクセス数が、ちょっとずつ減ってる気がする・・・)
それまで多少のバラツキはあったものの、一日に平均3000近くあったアクセス数が、1ヶ月前には2800、そして今月は2500となっていた。
(どうしてかしら・・・)
そしてもう一つ、気がついたことがあった。
毎回必ずお茶会に参加していたカヨコから、次回のお茶会の予約が来ていないのだ。それに最近Factbookを更新しても、カヨコからの『いいね』がつかなくなった。
(カヨコさん・・・少し前までは毎回必ず、『いいね』とコメントをくれてたのに・・・どうしてかしら・・・)
ミカはFactbookのカヨコのページを覗いてみた。
すると・・・
(あっ・・・私のこと、フォローから外してる!!!)
そう、カヨコはミカをフォローから外していたのだ。
その上、カヨコのページの先頭には、勾玉型のチャームのついたブレスレットの写真と共にこんな投稿があった。
(阿弥陀如来と聖母マリアと安倍晴明・・・!?)
いやいや、いくらなんでも詰め込みすぎでしょ・・・そう思いながら、件の『サクラ 阿弥陀如来』で検索してみると、その"サクラ先生"とやらのブログにたどり着いた。
ブログのトップページには、レースのベールを纏い、慈母の微笑みを浮かべた美しい女性の写真が載っている。
(うわぁ、綺麗な人だな・・・)
続いてブログ記事を読んでみる。
そこには、シースルーの白のエンパイアドレスを着た厚化粧のおばさんが、ド派手なブランドバッグを自慢げに持っている写真が載っていた。
(え・・・なんかこの人、トップページの写真と全然違うくない・・!?)
トップページの写真を撮ってから、老けた上に少し太ったのだろうか。顔を上げて誤魔化そうとしているが、首回りにはしっかりと肉が付いて二重顎になっている。
ミカはブログの文章をよく読んでみた。
(なんて胡散臭い人なの・・・)
それに敬語を間違えている。学がないのだろう。
だいたいこの人は一体何をしてるのか、そしてこのブログを読んでも、豊かさのためには徳を積むのが大切なのか祈りを捧げることが大切なのかさっぱりわからない。
値段を調べてみると、セミナーの参加費は一回3万円らしい。
(いやぁ・・・この人と比べると、私のカウンセリングなんて本当に良心的よね・・・)
それに、この間のお茶会では、ユカが結婚の報告までしてくれた。自分のカウンセリングを受けた人は、実際に幸福になっているのだ。
(どうしてカヨコさんは、こんな胡散臭いおばさんの方に行ってしまったのかしら・・・)
スピリチュアルに興味のない人間からしてみれば、ミカだって十分"胡散臭い"のだが、ミカはもうだいぶ前から、自分がやっていることを客観的に見る能力が低下していた。
サクラのここ最近のブログに目を通して分かったことだが、サクラはことあるごとにブランド品や、自分がいかにお金持ちかを自慢している。そして、誇大かつ断定的な文章が多い。
(カヨコさんって、品がないし、金にがめつそうだもんね・・・だからこんなあからさまなペテン師に惹かれちゃったのね)
カヨコを少しけなすことで、心の平穏を保つ。
そう、ミカが説く『普通の幸せ』だとか『精神的な豊かさ』だとか『直径10mの幸せ』だなんて、カヨコには何の魅力もなかったのだ。
カヨコだけならまだいい。しかし、カヨコのみならず500ものブログのアクセスが減っていることを考えると、カヨコのようにミカの理論に魅力を感じなくなった人間はもっとたくさんいるのだろう。
ミカは、あるひとつの結論に行き着いた。
("普通の幸せ"じゃあウケないんだ・・・)
それもそうだ。"普通の幸せ"なんてそこらへんのエッセイだとかテレビドラマで十分学べる題材に、わざわざセミナーやカウンセリングで何千円何万円もはたく人など、少なくて当たり前なのだ。
ミカの心はもやもやした。
(このまま"精神的豊かさ"を説いていても、だんだんと人が減っていくだけなのかもしれない・・・)
しかし、サクラのようなペテン師に成り下がってもいいのか。
だが、サクラのブログにミカよりもたくさんの『いいね』やコメントがついているのを見ると、ミカも"物質的豊かさ"を訴える路線に切り替えた方が良い気がしてきた。
(そうだ!)
ミカは思いついた。
(私が正しく人を導くことで、こんなペテン師にひっかかる人が減るのなら、それはいいことなんじゃないかしら?)
(だって、私はもうカウンセリングで色んな人を救ってきたし、実際に就職が決まったり、夫婦仲が改善したり、恋人ができた人がいる)
ミカの頭の中には、ミカに対して感謝の言葉を述べていたエリやユカたちの顔が浮かんでいた。
(私は、本当に善意でこの活動を始めたし、私の方が絶対にこのサクラとかいうおばさんよりも善い人間なんだから、たとえ高価なブランド品を買ったり、多少話を盛ったりしても、それはより多くの人々を導くために必要なことだから、仕方のないことなんじゃないかしら)
ミカは、銀行の残高を確認する。2ヶ月間パートとカウンセリングを頑張り、お茶代以外の出費はできるだけ控えたので、残高は100万円近くになっていた。
(とりあえず、80万円はコウタに返すために置いておいて、この余りの20万円でブランド品を買おう)
(これはあくまで、広告費みたいなものだし、必要経費だから、別に良いわよね)
明日はちょうどカウンセリングで街に出る。カウンセリングの帰りに、デパートに寄ろうとミカは決めた。
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第24話につづく