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小説『天使さまと呼ばないで』 第30話

ミカさん・・新しいネックレスも素敵ですが、私は旦那さんからのプレゼントのあの天使のネックレスも、ミカさんにお似合いで好きでしたよ(^^)
値上げされるのですね💦最近のミカさんは、なんだかちょっと遠い存在になってしまったようで少し寂しいです・・
お金では買えない、普通の幸せはどこにいってしまったのですか?
私は最初の頃の、優しくて少しお茶目で、親しみやすいミカさんが好きでした・・・
こんなこと言ってごめんなさい😣ミカさん、お身体大事にしてくださいね🙏


ユウコからのこのコメントを読んだ瞬間、ミカは頭が真っ白になった。思いもがけない場所から、心臓が槍に突き刺されたような衝撃が走った。

ミカは思わず、こう返信しようとした。


それはどういう意味ですか?私は何も変わってませんけど。値段を上げちゃダメってことですか?


しかし、このような口調は"天使"には相応しくないとハッと気づいて、すぐさま書き直した。


それはどういう意味ですか😅❓豊かになった姿を見て誤解されているかもしれませんが、私は今でも昔と同じように、常に皆様の幸せを願ってますよ💖💖💖値上げに関しては、この活動を長く続けるためにもご理解いただきたく思います🙇‍♀️💦


こう返信をした後、段々と自分に湧き上がった感情の正体が見えてきた・・・それは、"怒り"だった。

まず、一番腹が立ったのは、ユウコが上から目線でコメントしてきたように感じたことだ。

否、実際にはユウコはミカを見下してはおらず、ミカと対等な視点からコメントしただけなのだが・・・ミカのFactbookやブログでは、いつも信者が地べたから這いつくばって見上げるように、崇拝や礼賛のコメントを寄せてくれていた。

それはミカに少しでも気に入られようと、或いは認めてもらおうという意図のもと、発せられた言葉たちだった。

その感覚に慣れていたミカは、自分に対して話しかける時は頭を低くするのが当然で、スタンダードだという感覚になっていただけなのだ。

だから、ユウコがミカに対等な人間としてコメントしたことが、上から目線であるようにミカは錯覚してしまっていた。


次に腹が立ったことは、値上げに対してケチをつけられたことだ。ユウコは何も分かっていない。今までが安過ぎたぐらいなのだ。値上げしたからとただ文句を言うなんて、今まで安い価格でサービスを享受してきたことに対する感謝の心が見えない。まったく、自分の立場をわかっていない言い方だ。


そして、地味にダメージが高かったのは、あのクソダサい安物のネックレスと自分が"お似合い"と言われたことだ。

私が150万円のペリー・ウィルキンソンのネックレスよりも、1万円もしないであろうノーブランドのネックレスの方が似合うということは、すなわち私自身の価値もその程度なのだと言われたような気がした。


ほどなくして、ユウコから返信が来た。

いえ、ちょっとあまりに値段が高くなったので・・・(⌒-⌒; )びっくりしたんです💦
また最近、ミカさんが買ったものの話がよくブログに載ってますけど、それって以前おっしゃってた『普通の幸せ』の話と矛盾しちゃうんじゃないかなって・・・
ちょっと疑問に思ってしまいました。すみません🙇‍♀️💦


ミカはしばし、何とコメントをするか悩んだ。本当はユウコのことを罵倒したい気持ちでいっぱいだったが、そんなことをすると天使のイメージが損なわれてしまう。


そうして逡巡しているうちに、他の信者たちが続々とユウコにコメントを寄せた。

そんな風に文句をつけるんだったら、見なければいいんじゃないですか?

ミカさんは自分の身を犠牲にしてまで、私たちのために働いてくださってたんですよ・・・
値上げされるのは当然じゃありませんか?

あなたは心が貧しいから、値上げのことを不満に思うんでしょうね。そして愛を知らないから、ミカさんのことを疑ってしまうんです。
ミカさんの深い愛をちゃんと信じたほうがいいと思います。

そして、ミカにもコメントがきた。

ミカさん、気にしないでください😣💦
ミカさんが、私たちのためにあえて値上げに踏み切ったことはわかってます💖

値上げに否定的なコメントしてるひとって、視野がめっちゃ狭いか、きっとミカさんに嫉妬してるんでしょうね〜〜🤣爆笑!

ミカさんが幸福とはどんなものかを身をもって証明してくれてるのに、そのありがたみに気づけないなんて、可哀想な人だと思います🙏


ミカの信者たちは、水を差されたくなかったのだ。

自分が崇拝している女性が、金にがめつく自慢好きで論理が破綻しているただの"人間"だと、気が付きたくなかった。

ミカには、清らかで愛に溢れた天使でいてほしかった。


だから、彼女たちの目を覚まさせるような発言は徹底的に糾弾し、排除するしかなかった。

それが、彼らがまた、ミカを信じる自分たちこそが正しくて、幸福になるのに相応しい存在である・・という夢を見続ける方法だったのだ。


こうして、ミカが新たにコメントをする間もなく、ユウコはミカの信者たちからコテンパンに口撃されてしまった。


ユウコはこんなコメントを残した。

なんだか私のコメントでみなさんを不快な気持ちにさせてしまったようで、申し訳ありません。
該当のコメントは削除させていただきます。このアカウントも消します。ごめんなさい。


そして、先程のコメントが消えたかと思うと・・ユウコのFactbookのアイコンは初期設定の無機質なグレーの画像に変わり、名前欄には『退会されたユーザーです』と表示された。


こうして、ミカが直接手を下すことなく、あのコメントも、Factbook上のユウコの存在も、すぐに闇に葬られた。

ミカには妙な万能感が湧いて出た。

(私が何もしなくても、みんなが私のことを守ってくれるんだ・・・)


信者が守ろうとしたものは、本当はミカではなく、信者たちの幻想であることを、ミカはわかっていなかった。


信者たちはなお、Factbookにコメントを寄せた。

アカウント消すとかwやっぱりイチャモンつける人って雑魚ですねw🤣きっとリアルでも不満ばっかり言ってるんだろうな〜w

私たちはいつでもミカさんの味方ですよ(^^)v♪

ユウコさん、お茶会でお会いした時は良い人に見えてましたけど、ミカさんの意図がわからないってことは、結局は悪魔側の人だったんでしょうね〜〜💦でも、距離を取ることができてよかったです☺️💓


信者たちには、ミカの元にいる自分たちこそが幸福を掴む存在であるという自信があった。


そうして、ミカの元から去ってしまったユウコを、『不幸に堕ちていくであろう裏切り者』として、嘲笑の目で見送ったのだった。


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第31話につづく


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