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若くても若くなくても
何十年ぶりにビリヤードをした。
倉敷での演奏会に出るにあたり、前日のリハーサルを済ませて遅い時間に四国へ帰って朝早くまた瀬戸大橋を渡るのもしんどいな、ということで泊まることになったホテルにビリヤード台があった。息子がやってみたいというので夕食もそこそこに「いっちょ教えてやるか」と軽い気持ちで始めたのだった。
ビリヤードといえば苦い思い出がある。
昔、友人たちとバーでテキーラを飲みながらビリヤードをやった。このメンバーはお酒が好きなのか、ゲームが好きなのか分からないがどちらも強い人たちばかりでよく誘ってもらった。この日は負けたら全員に1ショットおごることになっていた(大体はビールだった)。結構な回数やったのでみんなものすごく酔っ払っていたが勝負はかなり白熱していた。不思議なもので自分の番が来るとみんなシャキッとするのである。
さあ帰ろうと店を出たのが遅い時間だった。すると一台のパトカーが近づき、身分証明書を見せろ、と言う。みんな酔っ払っていたので違法薬物でもやっているように見えたのかな、と思ったが私以外の人には何も言わない。アメリカだったので一人だけ白人じゃないからか、と思ったのだがそうではなかった。未成年に見えたらしいのだ。確認できた後は「飲みすぎないでね」と警官は優しく立ち去った。
「飲酒していた未成年だと思われたんだってね」「また警察に未成年の夜間外出だと思われたんだって」と月曜日は1日中職場の人の笑い話のネタになった。未成年と間違われて警察から身分証明の提示を求められるのはそれまでもよくあったし、その後も何度もあった。
27歳の私としては嬉しくもなんともなかった。どこへいっても若く見られるのでクラブへ行くにもビールを買うのにも毎回「ほんとに大人なんでしょうね」と疑いの目を向けられていた。学校の遠足の引率をしても先生だと思ってもらえることはほとんどなかった。英語がたどたどしいことも若く見られる原因だよ、と言われたので、同僚にお願いして週に何度か個人レッスンしてもらったこともあったが、急に喋り方が変わることもなく若見えのまま帰国した。
アジア人は若く見られるとよく言うがさすがに10歳も下に見られると自分には年相応の威厳というか大人らしさがないんだとあの頃は落ち込んだ。今も年齢より若く見られることがあまり好きではない。
しかし、いまは白髪混じりのおばさんである。こんなおばさんがビリヤードをやってうまかったらかっこいいだろうな、と思って夫と息子と私の3人で勝負することにした。
結局かっこよかったのは夫だけだった。あれは多分若い時ものすごくやってるに違いない。音が違う。その上、初挑戦の息子を教えるのが本当にうまい。そこもカッコよいポイントだった。
しかし、夫も私も息子に花を持たせてやったりはしなかった。結局のところ負けず嫌いなのである。大人気ないことだ。しかし、若くても若くなくても勝つのが好きだし、負けると嫌なものだ。
近いうちにまた勝負を挑みたい。お父さんを倒そう、と息子に持ちかけようか。
息子が補導されると困るので行くなら昼間だな。
では、また。ごきげんよう。