正義の味方

 あのロッドには魔法がかかっていた。

 あれを持つだけでぼくは“正義の味方”になれた。
 この世にはびこる悪と悲しみの全てを、ぼくの手で何とかしなきゃいけないと思った。


「何か釣れるの?」
 橋の上から、私は声をかけた。ただの釣り人ならこんなことは絶対にしない。
 その子は上から下まで真っ黒な服で、シャツなんか長袖で、よりによって革靴を履いて釣りをしていた。夜明け前の暗闇の中で、その姿は幽霊のように、街灯の明かりにぼんやりと浮かび上がっていた。
 振り向いた子は、中学生なのか小学校高学年なのか。あどけないのに、人形みたいに綺麗な顔をしている。切り揃えられた真っ黒な髪も、まるで作り物のよう。
 ――私もこんな顔をしていれば、こんなことにはならなかったのかなあ。
 男の子なのか女の子なのかもよくわからないが、幽霊や天使が釣りなんかするものか。幽霊は釣り人を襲うものだし、天使なんてそんな高尚なものが今更私を助けてくれるとも思えない。
 その子は水面に釣り糸を垂れて、バケツを足下に置いていた。

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