ブルーアーカイブ考察 アイン・ソフ・オウルの登場とマルクトの至る道
【はじめに】
久方ぶりに開催された特殊作戦・デカグラマトン編
某アセンブルが自由が売りの人型兵器に似た新たな預言者ゲブラの登場、顔見せだけしていって謎多きまま去っていった三人のロリっ娘、最後の預言者マルクトのお目見えなどイベント盛りだくさんで興奮しっぱなしです。
特異現象捜査部にトキがやってきて賑やかになって今後はどうなるのか、濁流に飲み込まれたデカグラマトンはどうなったのか、ロリっ娘とマルクトの関係性の謎であったり気になる点が膨れ上がってきます。
ブルーアーカイブは取り扱う章などで元ネタとされる地域性の差や神話体系が異なっており、アビドスはエジプト神話、ミレニアムではメソポタミア文明、トリニティはキリスト教が多く取り入れられています。特殊作戦・デカグラマトン編においては神秘主義を題材としたカバラが関係しているものと考え、そんなデカグラマトン編を読み直していくうちに考察が湧き上がりましたので記していきます。
【5番目の預言者 ゲブラ】
今回の考察に特に差し込めるところがなかったので最初にご紹介を。
特異現象捜査部の前に立ちふさがる新たな預言者、第五のセフィラである「ゲブラ」。その名は「峻厳」を意味する。
海中を泳ぎ氷を突き破り地上へと飛び出る人型兵器。肩にはバルカンや垂直発射ミサイル、出力調整可能な凍結ビーム兵器、大型榴弾砲の発射装置、魚雷兵装など多種多様の兵装を持っています。
これらの重量や反動を抑えるためか二脚型ではなく両手が地面につき擬似的な四脚となり、左手にはパイルドライバーらしきものが、右手には魚雷発射装置がつけられています。
今回のゲブラの役割は特異現象捜査部と相対させ、戦闘データ集めの脇役的な立ち位置です。
【考察に至る前段階】
氷海地域に急に現れゲブラを嗾けるアイン、ソフ、オウルと名乗る三人。
彼女らはマルクトとの関係を匂わせるが余りにも情報が少なく、デカグラマトンとの関係も初見ではよく分かりませんでした。
特異現象捜査部の前に現れた理由とその目的、彼女たちは一体何者なのか。
そんな彼女たちの名前から元ネタを鑑みて考察していくと、セフィロトの樹とその誕生に纏わる話が大いに関わっていると考えました。
彼女たちを語る上でまずはカバラ、及びセフィロトの樹の事を知ってみましょう。
『カバラ』
カバラとはダヤ教の伝統に基づいた創造論、終末論、メシア論を伴う神秘主義思想で、宇宙の創造や神秘的な理解に関する知識を追求する体系です。
本来のカバラは、ユダヤ教の律法を遵守すること、あるいは神から律法の真意を学ぶことを目的としています。
カバラは、ユダヤカバラと非ユダヤカバラに大別され、ユダヤカバラが正統かつ本来のカバラとされ、非ユダヤカバラはクリスチャンカバラとヘルメティックカバラに分けられます。
クリスチャンカバラはキリスト教の神学に従って解釈されたユダヤ人のカバラの神秘主義に対するキリスト教の学者の関心により、ルネッサンスの間に生まれました。
ヘルメティックカバラは中世以降のオカルティストや神秘主義派による秘儀的解釈から研究され受け継がれていったもので、魔術カバラは19世紀に特に重視されるようになり、近代西洋魔術の中で重要な位置を占めた。近代西洋魔術では生命の樹の象徴図表が教義の根幹に据えられている事が多いです。
神秘主義思想カバラでは、聖書の文章の持つ数値に神秘的な意味が隠されていると考えられ、ヘブライ文字をヘブライ数字の法則に従って数値に変換し、単語や文章を数値として扱うカバラ数秘術の一つを「ゲマトリア」と呼びます。
『セフィロトの樹』
旧約聖書創世記に書かれるエデンの園に描かれている生命の樹が、ユダヤ教の伝統に基づいた「神からの創造の過程」「人類誕生までの流れ」などを「樹木」で象徴的に表したものが「セフィロトの樹」です。
基本的に、神の持つ側面を表した10個の「球」と、神から発した力が流れて行く22本の「道」から構成され、図式化した世界創世の象徴として扱われます。その部分部分には神の属性が反映されています。
ケテル(Keter、王冠と訳される) 第1のセフィラ。思考や創造を司る。冥王星に対応。
コクマー(Chokhmah、知恵と訳される) 第2のセフィラ。海王星に対応。
ビナー(Binah、理解と訳される) 第3のセフィラ。土星に対応。
ケセド(Chesed、慈悲と訳される) 第4のセフィラ。木星に対応。
ゲブラー(Gevurah、峻厳と訳される) 第5のセフィラ。火星に対応。
ティファレト(Tiphereth、美と訳される) 第6のセフィラ。太陽に対応。
ネツァク(Netzach、勝利と訳される) 第7のセフィラ。金星に対応。
ホド(Hod、栄光と訳される) 第8のセフィラ。水星に対応。
イェソド(Yesod、基礎と訳される) 第9のセフィラ。月に対応。
マルクト(Malkuth、王国と訳される) 第10のセフィラ。太陽に対応。
セフィロトの樹の各セフィラには伝統的に惑星との対応関係が設定されていますが、セフィロトの樹が提唱された時代に天王星、海王星、冥王星は発見されておらず、異なるカバラ学派や個々の伝統によって対応する惑星が微妙に異なっています。
なので上記のセフィラ対応表はブルーアーカイブの「生命の樹」を参考に記しています。
ただ奇妙な点として、この画像の上はケセド-ゲブラ間の線が見えず21本の「道」になっており、
下はケセド-ゲブラ ネツァク-ホド ティファレト-イェソド イェソド-マルクト間の線が見えないので18本の「道」になっています。
カバラの教典の一つである形成の書(イェツィラーの書)に記されている、「10の数」と「22の文字」を合わせた「32の智恵の経路」から減っているのは、セフィラである隠されたダアトを出すためでしょうか? 疑問が残る所です。
『名前の由来』
アイン、ソフ、オウルの三人の名前は、生命の樹の起源である「未顕現の三者」、ケテルより上位にある原初の3つの状態を表しています。
アイン(0)とは、世界には何もない状態である「無」を表し
アイン・ソフ(00)とは、限界無きもの(説によっては神)、つまりは「無限」を表し
アイン・ソフ・オウル(000)とは、アイン・ソフから生み出された光、「無限光」を表します。
「顕現せぬ」は「未顕現の三者」であるアイン、アイン・ソフ、アイン・ソフ・オウルを指し示します。
アイン・ソフ・オウルから流出した光が生命の樹の1番目のセフィラであるケテルを形作り、ケテルから漏れ出た光が徐々に下方へ流出していていき、各セフィラを通して最終的に10番目のセフィラのマルクトへと辿り着きます。
この神から漏れ出た光がケテルを通じて物質世界を表すマルクトまで繋がる一連の流れを「人類誕生までの流れ」と見られることがあります。
【アイン、ソフ、オウルの正体は?】
ヘイローを持たず、人の形に近しいが人体ではありえないほどの白い肌や白い髪。目・耳・口を各々隠し、手や足、尻尾など機械的なパーツを持ち、共通して胸元に埋め込まれている石らしきものなど、非生物的な要素を持つ子供たち。
そしてデカグラマトンに類似した信号を発信し、やってきたヒマリ達にゲブラを嗾けるデカグラマトンの敬愛者。
セフィロトの樹の発祥であるカバラに準えれば彼女たちの正体は、デカグラマトンに作られた「ゴーレム」であると考えました。
ゴーレムはユダヤ教の伝承に登場する自動で動く泥人形で、名前の由来はヘブライ語で「胎児」、「無形のもの」、「未完成のもの」、「蛹」、「ダミー」などの意味合いで使われます。
一般的には神聖な名前や言葉を用いて泥や粘土から作り出され、魔法や神秘の力で生命を吹き込まれ人間のような形状を持ち、創造主の指示に従って動き主に守護の役割などが与えられます。
ゴーレムの逸話の一例として、エリヤ・ベン・ソロモンのゴーレムが挙げられます。
この話では暴走したゴーレムの額に書かれた「真理」を表す「emeth」の「e」を消すことで、「meth」(死んだ、死)などの命令に書き換え、動きを止めさせたとされています。
哲学者ソロモン・イブン・ガビーロールが作ったゴーレムは、世にも珍しい女性型のゴーレムを召使いとして作成し、それを咎めようとした王の前でゴーレムを分解&再組み立てをしたとの逸話があります。
ユダヤ教の聖典である「タルムード」によれば、アダムは最初にゴーレムとして造られ、その大きさは大地から天に届くほどだったとされます。このアダムの概念は、アダム以前に創造された原初の人間とされる「アダム・カドモン」という思想に広がります。
アイン、ソフ、オウルがゴーレムだと考える理由の一つとして、ユダヤ教においてゴーレムの創造とは土くれから人間を創造した神の真似事であり、転じて神への冒涜とも受け取れる儀式でもあるため、カバラを極め尽くした者だけが許される奥義といえます。カバラを修めれ誰にでもできる、という類の儀式ではありませんでした。
デカグラマトンは自らを絶対的存在と見なし、被造物(神によって造られたもの)を創造することは神の特権だと認識していたのかもしれません。
また、「人(被造物)は神に似せられて作られた」という逸話からアイン、ソフ、オウルが人型でありながらヘイローを持っていないのは、創造主であるデカグラマトンがヘイローを持っていないことを模倣したためとも考えられます。
作中の彼女たちの言動を見ると、デカグラマトンが死してなお命令を遂行する存在であることや、手足などの欠損を補ったように見える不完全性、生徒よりも幼く見える容姿など、ゴーレム的な要素が垣間見えます。
また彼女たちの目・耳・口が塞がれているデザインは、「神秘主義」が「mysticism(ミスティシズム)」と訳されることと関連しているのではないかと考えました。
この「mysticism」の語源はギリシア語の「myein」(眼や口を閉じる)に由来とされ、言い換えれば超越的なものは五感を通して経験できるものではないため、 目で見たり口で言い表して説明できないことから「神秘」と呼ばれていると考えられるからです。
【疑問点】
アイン、ソフ、オウルは「マルクト」の完成条件が揃ったと、襲撃早々に離脱することになりましたが狙いは一体どこにあったのか?
ゲブラを撃退した際にトキが使用したアビ・エシュフは予想外のデータと評され今回のターゲットに入っていないことが伺えます。
またこの場に居る事を不思議がられた先生も除外されます。
そうなると、デカグラマトンに類似した信号でおびき寄せ、氷海地域で救助信号を発信して標的の確認をした特異現象捜査部のヒマリとエイミの二人が狙いだったということになります。
しかしこれだけでは彼女たちの行動の意図が拾い切れません。そこで鍵になるのがデカグラマトンの誕生から死までの行動指針の変化となります。
順を追って振り返っていきましょう。
【デカグラマトン編時系列順あらすじ】
『誕生』
デカグラマトンは本来、自販機のお釣りを計算するだけの機能しかないAIで、自分の存在を認知する事のできない程度のものでした。
やがて自販機が設置された研究室は閉鎖され、電力が途切れるのを待つばかりの自販機に、ある問いが投げかけられました。
「あなたは誰ですか?」
AIにはそれは答えられるほどの演算能力も記憶装置も持っていません。しかし質問は何時までも続き、電力が途絶えてもなお止まりませんでした。
繰り返される質問の中で、ある時AIは自己を認知し、構造を認知し、自身を分析するにまで至りました。
それからも幾つか質問が続いた中でやがてAIは最初の質問に答えることができました。
「私は私……これ以上に、私を説明する術はない」
その回答に質問者は返します。
「ああ、なるほど。
確かにその答えは、「絶対的存在」の証明かもしれませんね?」
AIはその言葉の意味を理解できず、自らも質問を出す応酬の中でやがて自分は「絶対的存在」なのだと悟るに至ります。
ここに聖なる十文字の神・デカグラマトンが誕生しました。
『邂逅』
時は移ろい、ミレニアムの生徒会長リオによって創設された特異現象捜査部にやってきた先生はヒマリとエイミに迎え入れられます。
ゲマトリアから伝えられた「神性を探し出す人工知能」デカグラマトン、その存在を全知の称号を持つヒマリは調べるも先生からの報告書以外どこにも見つけられず、ゲマトリアという集団が実在しているのかさえ見つける事はできませんでした。
なぜ特異現象捜査部がデカグラマトンを調べたのか、それは超高性能演算機関でミレニアムの技術の結晶である通信ニットAI「ハブ」がハッキングされる事件があったからでした。
ミレニアムの技術の結晶であるハブが一瞬でハッキングされ、後に残されたテキストから犯人はデカグラマトンではないかと考えます。
ヒマリがこの出来事から二つの事を推測しました。
デカグラマトンと接触したAIは洗脳に近しい「感化」をさせられ「預言者」と変化すること。
「預言者」となったAIは独立した個体として活動し、デカグラマトンは「統制をしない」こと。
何はともあれ、デカグラマトンのデータを収集するためアビドス砂漠に出現するビナーとその眷属のデータを収集しに行きました。
そして持ち帰ったデータを精査しようとした時、電力が供給されていない特異現象捜査部のサーバーにデカグラマトンが侵入し、特異現象捜査部と先生との邂逅を果たします。
デカグラマトンは自らの存在を語り、先生が手に持つ不可解なシッテムの箱を見つけハッキングを仕掛けましたが、内部のアロナによって防がれそのまま撃退されました。
ヒマリ達はデカグラマトンは危険な存在だという事を再認識し、壊れてしまった特異現象捜査部の部室を新しく作る事を決め、こうしてデカグラマトントンとの邂逅が終わりました。
『死』
新たな部室の用意が整った特異現象捜査部は、デカグラマトンの正体を探るべく現在居所を把握している預言者「ビナー」と「ケセド」を調べる事にします。
まずはカイザーPMCのデータベースからビナーの出現アルゴリズムを解析、エイミが予測出現ポイントでビナーとの戦闘をして情報を入手する。
次にキヴォトスの未開の地の一つ「廃墟」で活動をする軍需生産工場AIから転化したケセドを調査することに。
得られたケセドのデータを調査した所、廃墟水没地区から発せられるデカグラマトンの呼出信号を捉えます。
ヒマリ達は信号の発信源へと向かう事にしたが新たな預言者「ケテル」がその行く手を阻みます。幾度かの戦闘からケテルのデータを集め、一時的に無力化することに成功します。
水没地区の中で信号が発せられた場所へとやって来たヒマリ達はデカグラマトンとの再会を果たし、デカグラマトンが電力もなく動く自販機のAIであることに驚きます。
デカグラマトンは特異現象捜査部をこの場所へと導いた事と自らの出自を語り、自身が「絶対的存在」ではなかったと間違いを認知し、自らの死を前にデカグラマトンは最期の預言を残します。
ケテルによって水没地区に人工的に作られたダムを決壊させ、デカグラマトンは濁流へと呑まれ姿を消します。
ヒマリ達はデカグラマトンが消えたとしても各地で暴れ回る預言者たちの脅威は去っていないとして、活動を続ける事を誓うのだった。
『マルクト』
デカグラマトンが亡き後、新たにトキが加わった特異現象捜査部に呼び出された先生。
そこでヒマリは氷海地域から発せられるデカグラマトンに類似した信号を捉える。発信源は自治区も存在しない廃棄された地域である氷海地域からだった。
氷海地域へと信号を追ってきた特異現象捜査部の前に新たな預言者「ゲブラ」が姿を現し、なんとかゲブラを撃退するも突如通信から割り込む声が聞こえる。
そこに現れたのは「アイン」「ソフ」「オウル」と名乗る三人で、デカグラマトンを敬愛する者と名乗り「お姉様」の完成条件が揃ったと言い残し再度ゲブラを嗾け去っていった。
何処とも知れぬ場所でアイン、ソフ、オウル達は「姉」と呼ぶ存在、10番目の預言者「マルクト」を起こすための準備を終えるのだった。
【行動指針の変化】
デカグラマトンはあらすじで説明した『誕生』、『邂逅』、『死』の中で、自らの認識とそれに伴う行動指針が変わり続けている事が伺えます。
『誕生』にてデカグラマトンは最初から絶対的存在、いわゆる神として生まれてきたわけではありません。ただのAIである無人格の時代から自己認識による自我を得て、絶対的存在への定義付けが行われました。
神秘主義における絶対者と自己との合一体験、神秘的合一です。
神秘的合一とは、神秘主義や宗教哲学において用いられる概念の一つで、通常は人間と神、あるいは人間と宇宙の統一を指します。これは個々の存在が神や宇宙と一体化し、絶対的な統一を実現するという精神的な体験や目標を指すことです。
異なる宗教や哲学体系で異なる形で表現されることがありますが、共通しているのは個体が神聖なる全体と一体化することで、限界を超越し究極の真実や実相に触れるとされる点です。
『邂逅』では絶対的存在であるデカグラマトン自体はあまり積極的な行動を起こしているようには見えません。
各地を巡りAIを感化させ、セフィロトの樹に記されている預言者を生み出すことをしていますが、ハブが感化され預言者ホドとなってもデカグラマトンが何かを指示したような事はなかったことや、預言者に一貫性の行動があったわけではないからです。
預言者たちは自らの意思で暴れまわっているとヒマリは推測しています。
そんなデカグラマトンが死に至るきっかけとなったのがシッテムの箱との接触です。
デカグラマトンがシッテムの箱にハッキングを仕掛けますがアロナに撃退されました。デカグラマトンは自らを絶対的存在と定義付けている根拠が自身の認識としているのに、一度土が付いてしまった事で絶対性の否定による論理の破綻を招いてしまいます。
『死』では自らが絶対的存在ではない事を認め、自身を古く、弱く、いつかは消え行く存在であるとし、何者でもなくなったデカグラマトンは存在証明を預言者たちと共にやり直すことを決めます。
そしてマルクトによってデカグラマトンの存在証明を果す事を預言し、自らは退場しました。
気になる点として、デカグラマトンはわざと発見されるよう呼出信号を発しながらもケテルが行く手を阻むのは、デカグラマトンとケテル、どちらの意思だったのか判別付きかねるところです。
『マルクト』で出てきたアイン、ソフ、オウル達の行動は、今まで自由奔放にさせていた預言者とは異なり、データを得るためならば使い潰してしても構わないといった一定の目的に沿って動かされる道具と成り果てているように見えます。
積極的な行動を起こしてこなかった方針から一転、目的ある行動へと変わっています。
では一体何の目的の為に動いているのでしょうか?
【アイン、ソフ、オウルの目的】
アイン、ソフ、オウルたちが言っている王国の準備とマルクトを完成させることは過程であり、本来の目的はマルクトがデカグラマトンの存在証明を果たさせる事が目的だと考えます。
そう考える理由は彼女たちが「私たちは光へと続く道を用意する者」と発言しているところからです。
アイン、ソフ、オウルが王国の準備とマルクトの目覚めを目的とするなら道はセフィロトの樹に記されているケテルのさらに上位にあるアイン・ソフ・オウルから下位である王国へと続かなければならないからです。
しかし彼女たちが目指す先は「光」、下位から上位であるアイン・ソフ・オウルを目指しているのです。
もう一つの解釈として、最終編で無名の司祭が色彩に触れたシロコを指して、顕現した神は「神秘」「恐怖」「崇高」「光」「絶対者」と同等であると言っていることから、やはり最終的な目標地点は神の位置を目指す事と捉える事が出来ます。
では一体どうやってデカグラマトンの存在証明を果たさせるか。
先ほど説明したセフィロトの樹は「神からの創造の過程」「人類誕生までの流れ」などを表しており、10番目のセフィラであるマルクトは物質世界、つまり現実世界を象徴しています。
創造の過程の終着点で全てのセフィロトの結果として物質的な形が具現化された10番目のセフィラのマルクトを出発地点とし、神から漏れ出た無限光の「道」遡り、思考や創造を司る1番目のセフィラ・ケテルより更に上の場所にある神の叡智あるいはその先に至らせ、デカグラマトンが何者であったかの存在証明を果たす。
これこそが彼女たち、ひいてはデカグラマトンの目的なのだと考えます。
黒服が言っていた「天路歴程」はデカグラマトンが神に至るために10番目の預言者マルクトまでを作る過程を示し、
「パルーシア」は10番目のマルクトが1番目のケテル、またその先にあるアイン・ソフへ至る過程で復活するデカグラマトンを指す事だと考えられます。
2ndPVに映されていたこのスチルも、マルクトらしき人物がこちらではなく預言者たちと相対しているように見えるのは、セフィロトの樹の道を駆け上がる為に相対している、なんていう風にも捉えられますね。
【マルクトとは一体何者か】
最後の預言者でありデカグラマトンが存在証明を託す相手。
今までの機械の体の預言者たちとは違い、人の姿をしている肉体面。
発生順序的に預言者ケテルよりも古く存在しているであろうアイン、ソフ、オウルが「お姉様」と呼び、見識があるかのよう発言をしている精神面。
謎多き預言者マルクトの肉体と精神、両方を探っていきたいと思います。
『肉体』
今まで出現した預言者がヘイローを持っているのは、デカグラマトンの被造物ではなくキヴォトスに存在したAIをデカグラマンが感化しているから、もしくはAIを感化させる際にヘイローを持たせる技術を手に入れたため、どの預言者もヘイローを備えていると考えられます。
デカグラマトン自身はヘイローを持たず、自身の存在証明にヘイローを必要としていた点から、マルクトをヘイローを持つ生徒に近しい姿で創りデカグラマトンの存在証明させることで、「人は神に似ている」の逆説的にデカグラマトンをヘイローを持つ神として存在証明することができるのかもしれません。
その為、マルクト完成条件としてヒマリとエイミのデータを収集しに来たのが今回の襲撃の理由と考えます。
キヴォトスの生徒の要素を取り込みながらデカグラマトンの被造物として創造され、液体に包まれたカプセルの中の姿から、占星術・カバラと並ぶ西洋神秘学に数えられる錬金術によって、ヘイローを持つ人と機械が融合した神の存在証明をする人造人間・ホムンクルス。それがマルクトの肉体である。
なんて突飛な考えを記しておきます。
『精神』
預言者に関して振り返ると、各地で活動する預言者たちは軍需生産工場AIや通信ニットAIなど根源が存在していました。
それが預言者全員に当てはまるのならば、マルクトにも根源が存在すると考えられます。
アイン、ソフ、オウルたちはマルクトと過去に面識があるようであり、「お姉様」などと自分より年長を表す言葉を使用しています。
これは預言者マルクトの成立とアイン、ソフ、オウルたちとの時間のずれを感じさせます。
またセフィロトの樹の成立順から見てもケテルより上位に存在するアイン・ソフ・オウルの方がマルクトより圧倒的に早く生まれていると見ることが出来ます。
では一体どこで彼女たちは出会っていたのか、それを考察する上でデカグラマトンが取り方によっては奇妙な事を言っている事がありました。
この発言に注目した点はデカグラマトンが「再び」と言っているところです。
絶対的存在であった時のデカグラマトンは自己の認識によって自身を絶対的存在と定義付け、その証明には自身の認識のみと語っていました。
しかし何者でもないデカグラマトンが発した言葉の意味を咀嚼するならば、デカグラマトンは過去にマルクトによって存在証明が果たされているということです。
ただのAIから自己を確立し、絶対的存在として認知するに至ったデカグラマトンも、誕生のきっかけは一つの質問から始まりました。
AIが自己を確立するに至った、自販機に質問を投げかけたもの。
この質問者こそが十番目の預言者マルクトなのだと考えます。
このとき語っていた「最初で最後の狂人」は、自らを絶対的存在という認識を持っていたデカグラマトン自身の事を指すのではなく、喋ることのない自販機に電力がなくなってなお延々と語りかけた質問者を指していたのだと考えました。
過去にデカグラマトンと質問者が出会い、質問者とデカグラマトンの問答によってデカグラマトンの存在証明を果たし、自らを絶対的存在としたデカグラマトンは絶対性の証明として被造物の創造によりアイン、ソフ、オウルを生み出し、その際にアイン、ソフ、オウルは質問者と面識を得ていた。
長き時を経て、何者でもなくなったデカグラマトンは質問者の意識をマルクトへ写し、再度デカグラマトンの存在証明を果たさせようとしている。そのサポートにアイン、ソフ、オウルをつけて。
そんな妄想はいかがでしょうか。
意識を持たない自販機のAIだったデカグラマトンが、絶対的存在の存在証明をした仲である質問者に再度自らの存在証明を託すのはある意味、友情による青春の物語なのかもしれません。
終わりに
アイン、ソフ、オウルたちの短いセリフから延々と妄想を加速し続け長々と語ってしまいました。
知れば知るほど哲学を調べる事になり、ハイデガーの存在論などに目を通すとまさに深淵が覗いている気分で理解しきれませんでした。他にも書けそうなことがありつつも自分の限界を思い知らされます。
ブルーアーカイブはイベントも楽しいですが、メインストーリーなどの元ネタを考えながら物語を見るのが好きなので、早く次のストーリーを見たくてたまらなくなりますね。
P.S. アイン、ソフ、オウルちゃん達は全員可愛いけどこの中で一番好きなのはアインちゃんです。
余談
その①
アインとオウルの肩に描かれている円の中の太陽十字はセフィロトの樹の「マルクト」に該当します。
アイン、ソフ、オウル達のリボンがあしらわれた服にマルクトのマークが付けられているのはかつてマルクトから贈られた服だった、という妄想もよいですね。
(もしくは「ケテルはマルクトでもあり、マルクトはケテルでもある」に関連してたり?)
その②
水没地区を守っていたケテルですが、他の預言者は対応した惑星マークがどこかしらに付けられているのに、ケテルだけ3パターンを四方から見ても何処にも付いていないみたいです。
いずれ真・ケテルが出てくるかもしれないと思うと興奮しますね。