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障がい開示(オープン)就労のデメリット 認知バイアスの視点から

こんにちは。サイトウです。

障がいを開示して働くこと。いわゆる障がい者雇用ですが、インターネットで様々な記事を見たり、書籍を読んでいるとメリットばかりが強調されているように感じます。

一方で当事者の声からは「仕事が与えられない」「理解してもらえない」などという不満の声も聞かれます。

今回は「障がい開示(オープン)就労のデメリット」と題して、主に認知バイアスの視点から取り上げてみたいと思います。

なお、メリットもあることや障がい非開示(クローズ)就労を推奨しているわけではないのでご留意ください。


それでは、よろしければ最後までご覧ください。



バイアスについて

認知バイアスとは「思考の偏り」のことです。人は、客観的に正しくない情報でも、一瞬の判断で誤った結論を下してしまうことがよくあります。

認知バイアスの代表例を挙げてみましょう。たとえばみなさんがAmazonで買い物をするとします。
☆が5つの商品と、☆が1つの商品があるとして、直感的にどちらを買おうと思うでしょうか。

多くの人は、☆5つの商品が間違いのない買い物だと思うのではないでしょうか。たしかに、多くの人が高評価していれば、その確率はあがるかもしれません。しかし冷静に考えてみると、多くの人の評価と自分自身の好みに差があるかもしれませんし、評価がサクラである可能性も否定できません。

このような認知バイアスを「確証バイアス」と呼びます。また、こうしたバイアスを利用して経済を回す学問を「行動経済学」と呼びます。人間の直感的な行動を利用した経済理論ですね。

ここからは、障がいをオープンにした時に生じやすいバイアスについて紹介します。

内集団、外集団バイアス

池田ら※1 によると、内集団バイアスとは「自分が所属する集団(内集団)のメンバーの方が、それ以外の集団(外集団)のメンバーに比べて人格や能力が優れていると認知し、優遇する現象」のことをいいます。また、外集団を劣っていると認識することを外集団バイアスといいます。スポーツの試合で応援をするとき、自チームの方が強いと感じませんか?

障がい者雇用を初めて行う事業所にとっては「障がい者」というレッテル自体が、この内集団バイアスの影響を受け、マイナスに働く恐れがあります。
ただでさえ新人職員は外集団バイアスに晒されやすいです。自分たちと違う存在と見られることで、こうしたバイアスに晒され、疎外されたり、逆に過度に優遇されたりする恐れがあると思われます。


アンコンシャス・バイアス

アンコンシャス・バイアスとは「無意識の偏見」と訳されます。
「障がい者はかわいそうな存在だ」「障がい者が頑張る姿は健常者が頑張る姿より美しい」などといった、根拠に基づかない言説のことです。

また、それを実際に意図せずとも表出してしまうことを「マイクロアグレッション」といいます。マイクロは100万分の1。そのくらい微少な行為や言動が、意味を持つことがあるのです(詳しくは※2参照)。

障がい者雇用の職場では、障がいに対する正しい理解がなければ、こうしたアンコンシャス・バイアスに基づくマイクロアグレッションが飛び交う可能性がありえます。塵も積もれば山となる。そうした言動が日常的に表れる職場にいると、コップの水が溢れるようにある日出勤できなくなるかもしれません。

ラベリング

障がいや疾患の診断を受けることで、そういった人であると見られることを「ラベリング」といいます。ラベルが一度固定化すると、なかなか取り外すのは難しいです。「うつ病の〇〇さん」というラベリングをされてしまうことで、出来ない部分にフォーカスされることが多くなります。
ラベリングされると、些細なミスでも障がいに起因するとされたり、「自己理解が不足している」「認知が歪んでいる」等といわれたりします。

佐々木(2024)※3 は「他者からラベルを付与されると、見る側はラベルに沿った評価をするようになり、見られる側もラベルに沿った行動をするようになる」と指摘しています。つまり、〇〇障がいというラベルを知った時点で、それに即したテンプレート的な評価がなされ、自分自身もその評価に即した行動を取る可能性があるのです。


おわりに

わたしは、認知バイアスは正しい知識を学ぶこと、自分の発言に意識することで変えられると考えています。

今回、あえてデメリットばかり取り出したのは、それだけ日本の障がい者が困っているということを代弁したかったからです。もちろん障がい者雇用にはメリットもあります。また様々な工夫を凝らしてバイアスを減らし、働く人すべてのウェルビーイング向上を目指している企業も存在します。

駒澤(2019)は「障害を開示することが必ずしも精神障害者の一般就労継続に資するとは限らないこと、就労継続には本人と周囲の人たちとの関係性がより重要な要素であることが示唆された。また、就労に伴い精神障害を開示することにより、新たなスティグマが生起される可能性も確認された。」※4 としています。

「本人と周囲の人たちとの関係性がより重要な要素である」のは障がいの有無に関わらず当たり前のように思いますが、それもある種賭けのようなものなのかもしれません。障がい者が当たり前に働ける社会の実現を目指して、開示してもデメリットを被らない社会の実現が求められていると思います。


最後までお読みいただきありがとうございました。


参考文献

※1 池田まさみ・森津太子・高比良美詠子・宮本康司 (2020). 利用可能性ヒューリスティック 錯思コレクション100.
http://www.jumonji-u.ac.jp/sscs/ikeda/cognitive_bias/cate_d/d_02.html (2025年1月18日アクセス)

※2 ジェシカ・ノーデル著,高橋璃子訳(2023)『無意識のバイアスを克服する: 個人・組織・社会を変えるアプローチ』河出書房新社. https://amzn.to/4amvIR0

※3 佐々木淳(2024)『こころのやまいのとらえかた』ちとせプレス,p108. https://amzn.to/4airgCy

※4 駒澤真由美(2019)「精神障害当事者は「一般就労」をどのように体験しているか―障害と就労のライフストーリー」『立命館生存学研究』vol.2,pp281-291.

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