居てもいい、じゃない。居たいと思える場所
街外れの丘の上まで走って私は止まった。
「ど、どうした……んだい?何か………呟いたと………思った………ら、急に走り……出して………」
お兄さんが息を切らせながら追いかけてきた。
「お兄さん、わたし、ずっとバザールが出来る所知ってるの。でも、出来るかわからないから、見ててくれないかしら」
私はそう言うと、
『大きな雲さん来て』
そう心の底から思ったわ。だけど、来たのはいつもの小さな雲さんだった。
『やっぱりダメなのかしら』
そう溜息を着いて私は雲にぴょんと乗ったの。
お兄さんはただ、ビックリしているみたいだった。
「ロ、ロティ……君は……」
「私は、不思議なサーカスの出身なの」
「あの有名なサーカスの!?」
「ええ。乗ってみる?乗れるかもしれないわ」
私の言葉にお兄さんが頷いて雲に足をかけて、乗ろうとしたの。
そしたら、雲が少し、お兄さんが乗る分だけ大きくなったの。
私は驚いたわ。誰も乗せたことがなかったから気がつかなかったけれど、この雲大きくなるのね。それなら!
「お兄さん、この雲でならずっとバザールが出来るわ!しかも、世界中のどこででもよ!!」
私の声に熱がこもる。この人の夢を、職人さん達の思いを叶えるお手伝いがしたい。
そう心から思った時、尻尾のリボンがほどけたのがわかった。そして頭に響くのはピエロさんの声
『この声が聞こえるということは居場所を見つけた様ですね。ロティのことですから沢山頑張ったのでしょう。これはささやかではありますがそのご褒美です』
次の瞬間、リボンが私の身体の周りをぐるりと一周して、相棒のピアノの上を滑る様に撫でるとまたリボンに戻って尻尾に付いたの。
「ピアノが……」
それはもうおもちゃのピアノじゃなかった。ミニチュアのだけど本物のピアノだったわ。
「ロティ……今度はどんな魔法を使ったんだい?今の君はまるで絵本の表紙を飾る様な可愛いサーカスの仔馬だ」
私はくるくる回って自分の身体を見てみた。
練習のしすぎで破れていた首輪もリボンも、歩きすぎて土色になってしまった蹄の模様も、体の傷も全部綺麗になっていたの。
嬉しくなった私はお兄さんに言ったの。
「お兄さん、準備をしましょう。私のいたサーカスと同じ位、ううん、それ以上に有名になる移動バザールを作りましょう!」
私の冒険はこれでおしまい。
でも、これから、お兄さんと私のお話が始まるの。
いつか、サーカスのみんなとどこかで会ったら笑顔でお兄さんとバザールを紹介するの。
「これが私の見つけた居場所よ」
って。