ピエロさんのひとこと
「ロティさん……でしたか」
ある日、ピエロさんが初めて自分から口を開いたの。
私、ピエロさんは案内の時以外自分から口を開くことはないって思ってたの。私と2人でいても一切喋らないし、喋るのはいつも歌うたいのオウムさんが来た時にオウムさんから話しかけられてだったから。
「は、はい!」
「今の生活は辛いですか?」
単刀直入だった。
「全然!こうやってピアノをみんなの前で演奏できるし、ここにも置いてもらえるんですもん。辛いなんてこと……」
一生懸命強がったけど、そこまでが限界で、涙が一粒零れた。
みんなが私のことをなんて言ってるかも知ってる。
使えない子……
足でまとい……
価値がない……
それでも私は笑ってピアノを弾くしかなかった。
みんなみたいに『特別』じゃないことは私が一番わかっていたわ。でも、それを知っていても、分かっていても私が『特別』になれないことも知ってたから、出来ることを一生懸命やるしかないのよ。
「今だけは強がらなくていいですよ」
ピエロさんの表情は変わらない。
それが逆になんだか安心できて、私は産まれて初めてだれかの前で泣いた。人の目とかそういうことを気にせず泣けるだけ泣いた。
その間、ピエロさんは私の青いタテガミをずっと撫でていてくれた。
何時間泣いただろう。私の涙が枯れてしゃくりあげるようになった頃、ピエロさんは口をまた開いた。
「私は貴方がいろんなことを一生懸命練習しているのを見ていました。ですから、他の仲間のようには思いません。しかし……」
そこで、ピエロさんは口を閉ざし、少しの間があってからもう一度口を開いた。
「ここが辛いならあなたの居場所はここではないのかもしれませんね」