リュックの持ち主
「私、入らない」
お化け屋敷の前で、私は立ち止まり、首を横に振った。
友人たち3・4人で来た遊園地。子供が楽しそうに走って行ったのをなんとなく追いかけて見つけたお化け屋敷。
友人たちは首をかしげながら、
「何で?行こうよ。あんた怖いの駄目だっけ?」
等と言って嫌がる私を半ば強引に私を巻き込んで友人たちはお化け屋敷へと入った。
子供だましの仕掛けが怖い訳じゃなかったけど、私は最後尾でずっと目をぎゅっと瞑り、前を歩く友人のリュックのひもを掴んでいた。
「そんなに怯えなくてもいいのに。目をあけないとつまづくよ」
リュックの持ち主はそう苦笑したが、私は何も言わなかった。
いや、言えなかった。今声を出したらいけないと本能が言っている。それが何か分からないのが余計に怖くて仕方なかった。
扉の開く音がして、辺りが明るくなったのを瞼越しに確認した私は、周りを見回した。
誰もいない。先に出たはずの友人が誰もいないのだ。
私は何か嫌な感じがして半ば本能的に走ってその場を離れた。
結局他の友人は遊園地内にもおらず、それぞれの家族から捜索願いが出された。
唯一の状況を知っている私に事情を聴きに来た警官の第一声は、
「何で閉鎖された地域に入ったりしたんですか?」
私は全て納得した。
お化け屋敷の周りに人が誰もいなかったことも、お化け屋敷から嫌な感じがしていたのも、私が掴んでいたリュックの持ち主も。何もかも。
そして、家に帰ると仏壇に手を合わせた。
「おじいちゃん、ありがとう」
そこには登山用のリュックを背負った祖父の笑顔が写真となって飾ってあった。
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夏なのでホラーっぽい物を書いてみました。
自分は諸事情からホラーが駄目なのでそちらには明るくないのですが、夏になると怪談話が流行る現象を何とかしていただきたいです。
本当にホラーですとか心霊的な何かは駄目なのです。