作品の価値
尋ねる私に、絵描きさんは溜め息をついて言ったの。
「この絵は売れないよ。いや、確かにこの絵は売れるかもしれない。でも、きっと今日君が稼いだお金よりずっとずっと安く売れるだろう」
「どうして?」
「君はまだ世界をそんなに知らないんだね。職人、特に私の様な絵描きや文章を書いている人、写真家、そんな趣味でも出来ることを生業にしている人たちでそれだけで食べて行けるのは、ほんの一握りなんだよ」
私は自分の稼いだお金と絵を見比べた。
私が稼いだのは2、3日食事が食べられる位だった。それより、この絵が、この絵たちが安く売れるなんておかしいと思ったの。
だって、私は今日、その一瞬みんなを楽しませただけ。この絵はちゃんと保存すれば一生、ううん、もっと長い間楽しめる。それなのに、一生楽しめる作品の方が価値が低いなんておかしいわ。
「君は良い子だね。旅をしているなら、持って世界をみてきてご覧。そこで君は色んな人に出会うだろう…そうだ。出会いやすい様に魔法をかけてあげよう」
絵描きさんはそう言って胸につけていた星のピンバッジを外したの。
「これは、私の師匠からもらった物だ。私に多くの出会いを与えてくれた。きっと君にもいい出会いがあるよ」
そう言っている間にピンバッジがすっと消えたの。
ずっと見ていたのに、確かに一瞬前までそこにあったのに。急に消えてしまったその次の瞬間、左耳に違和感を感じたわ。
「君は耳がいいんだね。お星様はそこが気に入った様だ」
そう言って絵描きさんは鏡で私を写してくれた。
不思議なことに違和感のある所にさっきのピンバッジがついていたの。
「これって……」
「魔法だよ。私は魔王使いの見習いなのさ」
そう言って笑う絵描きさんの言葉は自然と嘘じゃない気がしたわ。
「さあ、もうお行き」
「ありがとう。絵描きの魔法使いさん」
私は絵描きさんに頬ずりをして、歩き出したの。
空には星がたくさんきらめいていて、左耳にも星があって、なんだかそれだけなのに空と仲良く慣れた気がしたの。
「もっと世界を見て回りたいわ」
そう思いながら私は星空の下を歩いて行ったの。