囲まれました

 高校生のころ水泳部に所属していた私は、尾道市で開かれる大会に出場しました。泊まりで2日間開催される試合で、恐怖体験したのを今でも覚えています。

 Y先輩とK先輩、そして私は宿泊施設の周りで肝試しをすることにしました。少し薄暗い道を通ってみて、何かないかと期待していましたが、何も起こりません。ほどなくして25mプールくらいの広さの公園に辿り着きました。街灯もたくさんあったので、ハラハラしていた気分も落ち着いてきました。ところが、「おい、あっ、あれ見ろよ。」Y先輩がK先輩と私にけしかけてきます。ビビらせようとしてるだけですね、その手にはひっかかりませんよ的な感じで周囲を見渡すと、距離20mほどのところに影のシルエットがいくつかあります。よくよく注視してみると、野犬がいます。それも10頭ほどです。『ワシらの土地に入ってくるなら、容赦せんぞ、人間ども』

 「逃げろ」先輩のどちらかが呟きました。私たちは、半ベソかきながら死に物狂いで走り、命からがら逃げ切ることができました。それから、約9年が経ちます。

 朝日が綺麗な海岸沿いの道路を歩いているとき、遠くに黒い犬が見えました。道路のど真ん中にいます。しかも、こっちを見てギャンギャン吠えています。道路には他に2頭ほど見えました。みんなで吠え合戦しています。まてまて、まだまだいます。崖みたいなところに3頭ほどライオンキングの雰囲気で伏せているではありませんか。さらにすぐ近くの小屋からも数頭ほど吠えているのがきこえます。

 私は9年の歳月を経て、強くなったのか、はたまた鈍感になったのかは分かりませんが、心を無にしてその場を通り抜けることができました。一度も犬と目は合わせませんでしたが…。

 ヤンキーに囲まれたことはないですが、野犬には2度囲まれた人生になりました。