「眠って見る夢」が果たす大きな役割
写真:「悪魔のトリル」(Wikipediaより)
「眠って見る夢」の内容は、じつにさまざまです。なかには、すてきな恋の夢もあるでしょう。たとえば『万葉集』に、こんな歌があります。
摺り衣 着りと夢に見つ 現には いづれの人の 言か繁けむ
「摺り衣」は草木染めのおしゃれ着です。
それを身に着ける──当時「夢で着物を着る」のは、男女がむつまじい関係になる前兆だと考えられていました。この歌は、だから、
「そんな危うい関係になるお相手はどなた?」
という恋の予感を歌い上げたものなのです。
『万葉集』だけではありません。世界の歴史をたずねても、たとえば芸術の領域では、17世紀イタリアの音楽家、ジュゼッペ・タルティーニは、悪魔の引くバイオリンの曲を夢で聴きました。目覚めたのち、それを楽譜に記したのが名曲「悪魔のトリル」になりました。
夢はまた、科学上の発見をもたらしもしました。
19世紀の化学者アウグスト・ケクレは、C6H6という分子式を持つベンゼンの構造式の解明をめざしていました。が、なかなか適切な答が見つかりません。
で、研究に疲れて暖炉のそばで「うたた寝」をしていたところ「ウロボロス」、つまり「しっぽを加えている蛇」の夢を見たのです。
その瞬間、6個の炭素と水素が6角形の「ベンゼン核」の構造式に思いついたのだと言われています。
写真:アウグスト・ケクレ、ウロボロス、ベンゼン核(Wikipediaより)
こんな例は、芸術の世界のほか、科学の新発見などにも、たくさんあります。
目覚めているときに、一所懸命、考えたり感じたりしていることが、眠っているときに見る夢のなかで、一挙に解決されたり、素晴らしい創造に昇華されたりすることは珍しくありません。
夢には、そんな力が備わっているのです。