医療機関外で買い叩かれる医師たち
今年3月から、働く曜日、場所が一切定まっていない「完全フリーランス」となりました。
まず月5日~10日は海外(だいたい韓国)、残りを東京の自宅で過ごす、という生活パターンを完全に定着させました。
医師としては日本国内にいる時のでスポット勤務のみという、非常にナメた働き方にもかかわらず、“お医者さんごっこ”をするたびに「日本にいるときだけでも、ぜひウチで勤務してください」と言われます。
それでも正直、そこまで“お医者さんごっこ”がしたいわけじゃないんだよね。
そっちは「“副”業」扱いで、あくまで本業はブログ運営、当メディア連載原稿作成を筆頭に、医療監修や商品のPR、SNS運用代行やコンサルティングといった、場所も時間も問わないWeb稼業だ!と息巻いております。
そのようなおかしな状況下におきまして、当メディアにて「旅するフリーランス女医・えりおの旅行手引」連載、そしてそれと並行する形で、こちらの連載で医師としてのキャリアとブロガー&毒舌コラムニストとしてのキャリアについて、毒を交えながら展開しているわけです。
最近、「医師は同業者」という自覚がありません。むしろちょっと外から俯瞰して眺めています。なぜなら医療関係者や医療機関より、そうでない業種の方と仕事をする場面の方が、圧倒的に多いから。
そして、こう思うことが多いわけです。
「うわ、医師ってカモられてるなぁ」
と。
医療機関からも、医療機関以外からも、両方です。
医師が医療機関以外の人間と接触する機会を、
こちら側が報酬を支払う場合(例:クリニックがホームページ作成を外部の業者に「委託」するなど)と、
こちら側が報酬をもらう場合(例:医師が「副業」の一環として医療ライティングの業務を請け負うなど)
の2パターンとします。
今回から、後者の話をするわけですが、こちらも交渉力・マーケティング力がものをいいます。
にもかかわらず、交渉力・マーケティング力がないばかりに、こちらが依頼した業者からは報酬をぼったくられ、こちらに依頼してきた業者には報酬を買い叩かれる。最悪、報酬を踏み倒される。開業/起業家・フリーランス界隈で「あるある」なこの現象が、医師の世界においても、日常化してきているのです。
「“副”業」の内容と医師の立ち位置
医師が他業種から請け負う業種として、
医療ライティング
医療監修
といったものがございますが、最近はこれに加えて、
SNS運用代行(クリニックのホームページやブログ、各種SNSアカウントの「中の人」)
をされる方もちらほら、いらっしゃるのだとか。
どれを請け負うにしても、経験・実績を積み重ね、単価が上がるまでに踏むべき、相応のステップ、というものがあるのですが、医師はそれをすっ飛ばして、高い位置から始められることが多かったのです。今までは。
というのも、マーケティングにおいて、顧客から信頼が上がる要素は、
・Expertise(専門性)
・Trustworthiness(信頼性)
・Autoritativeness(権威性)
と言われています。
例えば、「顧客満足度No.1」といったキーワードは権威性の一つを示すパワーワードなのですが、ここに「医師の監修」、つまり専門的知見が加わり、専門性がアップすると、その商品の信頼性が上がるわけです。
こうして、一つの商品はいろんな要素の掛け合わせで強くなっていくのです。知名度の低い商品でも、公的機関や有資格者による証明など信頼できる情報が付帯していれば、消費者は「買っても大丈夫」と思う。つまり、その情報は安心して購入するための判断材料となります。
医師を筆頭とする、社会的に威力のある国家資格持ちというのは、その資格を持っている、というだけで先の3つが全て揃ってしまうわけですよ。
ゆえに、有資格者である医師は、マーケティングに欠かせない人材であり、その一環として医療監修や、医療記事のライティング、といったお仕事が、相場と比べて比較的高い単価で依頼されることが多かったのです。今までは。
ですが、ここに気づいた医師が増えてきています。Webのお仕事の入り口には「クラウド◯ークス」「ラン◯ーズ」といったクラウドソーシングサービスがありますが、最近、登録している医師が結構増えてきていてビックリします。
ともすると需要と供給のバランスが崩れます。発注する側は当然、コストを抑えたいわけですから、担い手が多い、となれば、必然的に単価が低くなってきます。
こうなってくると、先に申し上げた「経験・実績を積み重ね、単価が上がるまで、相応のステップ」を踏んでいないことにより、足元を救われてしまうのです。
完全に「とばっちり」脅威の低単価
この間、とうとう、まだ実績がしっかりしていない業者から「1記事あたりAmazonポイント3,000点」で記事の医療監修依頼がきた時、ビックリしてしまいました。ちょっと前まで、1記事15,000円くらいは取れるのが当然の案件内容で、ですよwww
あまりにビックリして、でも冷静になって聞いてみました。
私:「こういう話を振ってくる、ということは、この話を受ける人間がいるから、ですよね」
業者:「はい、たくさんいらっしゃいます」
「なのになんでお前は引き受けないんだ?」と言わんばかりの、罪のなさそうな顔をした営業担当の若造の顔が、今でも忘れられません(笑)。
ワタクシ、そこまで案件に困っていないのでw と、ガッツリ断って終了しましたが、「とうとうここまできたか」ということです。
実は「経験・実績を積み重ね、単価が上がるまでに踏むべき、相応のステップ」の一つに、「自分の売り出し方=マーケティングの知識」「自分がこの業務を受けることによって何を目指したいかの棚卸し」「周囲との相場感のリサーチ」というものがあります。具体的なことは次回以降の記事で詳しく説明いたしますが、このステップを踏まないから、本当はもっと高い値段で受けられるだろう仕事を、安く受けてしまうのです。
業務委託契約=節税!?
みなさんの中で、雇用契約・業務委託契約というそれぞれの就労形態によって、ある図式ができあがっていませんか?
雇用契約 →給与所得は税金が高い
業務委託契約 →報酬だから経費分を節税できる
こんな感じで。
私も初期の初期はそう考えていた一人でしたが、とんでもない。経験とキャリアを重ねれば重ねるほど、業務委託契約の恐ろしさが身に染みてきています。
業務委託契約、って聞くだけで、なんかものすごいいい契約に聞こえるんでしょ? 甘いです。各業者が医者をカモにしてくるのがそこです。
業務委託契約書を交わすことの怖さを知らなすぎ。
雇用契約って、節税できない悪者扱いされてますけど、実は労働基準法っていう確固たる法律にものすごく守られてる形態なんですよ。この法律に守られているおかげで、みなさん理不尽な思いをせずに、確固たる給料がもらえてるんです。
それを知らずに「青色申告できないから」「節税できないから」と、それだけ考えているのであれば、今すぐにでも考えを改めたほうがいい。
業務委託契約というのは、それを規定する労働基準法のような法律は一切ありません。そんななかで業務を委託する、される場合の関係性というのは、「できるだけ低いコストで、確実な成果を得たい」vs「できるだけ労力少なく高額案件を売りつけたい」といった局面での契約書作成となるわけです。
つまり単なる「節税できる契約」じゃない。こっちがよほど気をつけないと痛い目をみる契約形式なのです。
相手が個人企業の場合、「報酬の支払いは先払い」というのが基本中の基本なのですが、業務委託契約のきちんとした知識や対策がわからず、そこをきちんと押さえなかったばっかりに、働かされて報酬が払われない、なんてことも。
「“副”業」だから――そのスタンスじゃ、確実にカモられます
医師であるという「権威」みたいなものはとりあえずあるので、相手は見た目上、頭を下げてきます。なかには本当に医師という職業をリスペクトして接してくる業者もいるかもしれませんが、自分の感覚ではそれは建前上の話で、具体的なこと、となれば生々しいやり取りになることがほとんどです。
それは何より私が実感しています。
医師の皆さんにとって「サブ」かもしれませんが、こちらはそれが本業、そこに本気なわけですからね。
業務委託契約を結んでいただくクライアントさんという形で私が医師と接する時、仮にその方が医療者としての実績が自分より上の方であったとしても、Webマーケターとしてはこちらが上位。一社会人として、年上の医師相手に、それなりの言葉遣いでやり取りしてますけど、正直、みなさん「脇が甘い」ので、どうとでもお話は持っていけてしまうな、と思います。
私は同じ医師同士ということで、そう感じたことは、クライアントさんに「自分は診療行為がメインだから」というようなスタンスでは、確実にカモられますよ、って、まんま伝えてしまっていますけど、悪どい方だったらそうはいきません。
皆様にとっては「副業」、私にとっては「本業」、ここでの「本業」「副業」は各々の勝手な線引きであって、実際はどちらもお金が発生する業務であることに変わりがないのです。
率直に申し上げて、他業種に業務を委託する、他業種から業務を請け負う、という関係は、医療機関を相手にするよりもシビアです。
そもそも医療機関相手にすら自分を売り込み、好条件を引き出せないのに、他業種からそれができるわけがない、と、私はそのくらいのスタンスで、毎回「本業」に臨んでます。