メイドインアビスの13巻
私の好きな漫画『メイドインアビス』の最新刊である第13巻が発売されたので早速買って読んだ。
ちなみにこの記事は『メイドインアビス』の内容そのものについて深くは言及しない。よってネタバレも含まない。
この作品のジャンルはファンタジーだ。物語の主軸は主人公たちの冒険譚であり、謎の多い世界観のベールが徐々に明かされていくことが、作品の醍醐味となっている。
本来的に私はこの手の作品(ファンタジー)が苦手だ。まずその世界観の「設定」を理解することに興味を持てない。なぜ「ウソ」の話を、まるで原子記号を覚えるみたいに把握しなければならないのか?と思い、そこにある種の義務感を覚え嫌気がさしてしまう(ちなみに私は原子記号も覚えられていないが)。
だが、優れた物語作品というのはジャンルの垣根をこえて人の心を掴んでくるものであり、私にとって『メイドインアビス』はそれだった。
この作品はファンタジー且つキャクターデザインもかなりデフォルメが効いているが、徹底的に構築された世界観により私が苦手とする「フィクション的設定」がもはや"透明化"されている。私たちの生きる「現実世界」に内在する「虚構世界」というより「オルタナティヴな現実世界」としてのリアリティを帯びているのだ。
現実世界において、よく理解できていなくても「なぁなぁ」にスルーして生活できることは多い(たとえば原子記号とか)ように、ここまでの「リアル」を肌感覚として捉えられれば「設定」などと言わず、ただそこにあるものとして物語の要素を受け入れられる(スルーできる)。
そんなわけで私は『メイドインアビス』が好きなのである。
ただ、この作品には現実的な懸念がある。それは「物語が完結まで辿り着けるのか」ということだ。というのも、この作品の連載が開始されたのが2012年であり、すなわち単行本の刊行ペースは1年に約1冊程度なのだ。
そして物語は確実に進みつつはあるものの、まだまだベールに包まれた部分は多い。
最新刊を読んだ私見としては、作者(つくしあきひと氏)も完結まで必ず生きて 描き切ろうという考えはすでに切り捨てているのではないだろうかという感じがする。また、これもあくまで私の推測だが、完結までのプロットは用意してあって、もしもの場合は信頼できる人間に後を任せる手筈がすでに進められているのではないかと思うのだ。
そして、もしそうであったとして私はそれを悲しいことだとは思わない。むしろこの物語のコンセプトと相似した構造でさえある。
この物語のコンセプトのひとつには「いけるところまでいく」という部分がある(そのようなセリフを作中のキャラクターが発言する箇所がある)。
たとえ自分の命が果てようとも、誰かに繋げることはできる。それがこの作品が有する一つのメッセージであると私は思う。
個人主義と競争社会が台頭する現実世界において、この作品はとても眩しく私には感じられるのだ。
(無理やりな締め)