【改訂版】もし更紗語に「なつぴなつ」と発音する単語が存在するなら、それはどのような意味か?
※この文章は2022年10月26日に書いた考察の改訂版です。
最近「なつぴなつ」さんという人がTwitterで話題になっている。
さて、わたし、想像地図の人は、この人の名前を見たときにふと思った。
この人の名前って、もの凄く更紗語っぽいと。
というわけで考察してみましょう。
もし更紗語に「なつぴなつ」と発音する単語が存在するなら、それはどのような意味の単語であるか?
そもそも更紗語とは
想像地図の人は、架空の土地の地図を描く「想像地図」という創作活動を2003年から現在までずっと続けている。架空の土地の地図を描くことを趣旨とする創作活動だ。地球ではない架空の星にある「城栄国」という架空の国の地図を描く計画で、2028年までの完成を目指している。
地図を描いていて、ある時ふと気付いた。
これまで、想像地図の世界は異世界であるにもかかわらず日本語が通じると暗黙の内に考えていた。それゆえ、城栄国の地名は、「赤松」や「住岡」や「生方」といった具合に、日本風の漢字の地名がつけられている。
しかし、よく考えてみれば架空の星なのに日本語が通じるのは、どこかおこがましい。しかし、今までに作った何千何万という漢字の地名や駅名をいまさら放棄して全ての地名を作り直すのは現実的ではなかった。そこで、解釈を変更することにした。
すなわち、城栄国では本当は日本語ではない架空の言語が使われているが、想像地図の人が描いている地図は、地名を現地語での意味に基づいて日本語に翻訳したものである、という解釈を導入することにした。
たとえば「赤松」という都市名は、向こうでそれが何と発音されているかは知らないけれど現地語では「赤い松」という意味だから、地図上ではそれを日本語に訳して「赤松」という日本名で呼んでいる、という解釈を導入したのである。
この解釈であれば、地図上の地名が日本語で書かれていたとしても何ら矛盾はないだろう。
それでもやっぱり気になるよね
地名が日本語で書かれている問題に関しては一応解決した。
それでも、やはり日本語とは全く異なる言語が使われているという設定になったわけであり、「じゃあその現地語とやらはどんな発音なのか?」という疑問は尽きなかったのだ。
というわけで、城栄国の公用語として架空の言語も作ることになった。それが「更紗語」である。
更紗語の特徴は、2019年から想像地図研究所のメンバーで集まって検討が重ねられた。このあたりの詳しい話は、今回のnoteに書くと脱線しすぎてしまうので省略するが、更紗語と日本語では音の響きに大きな違いがあり、特筆されるのは、
日本語は母音が [a],[i],[u],[e],[o] の5種類だが、更紗語の母音は [e] がなく、代わりに [ə] があり、 [a],[i],[ə],[u],[o] という5種類の体系 (注釈1)
5種類の母音の内、最も使用頻度が低いのは [o]
日本語よりも高い頻度で拗音、および [p] 音が現れる
一方で日本語と共通することは、
音節末が子音で終わることは少ない(開音節言語)。あっても促音か撥音だけ
5種類の母音の内、最も使用頻度が多いのは [a]
語頭が濁音で始まることは少ない
といったあたりである。
そう。
「なつぴなつ」という発音は、上記の特徴を全て満たしている。
日本語の場合、p音はそれほど多く使われるわけではない。日本語のp音の多くは外来語や漢語か、平成以降になって産まれた新語に分布する。一方で古来からある「やまとことば」でp音が入っている単語は少ない。それゆえ、「なつぴなつ」という音の響きは、「日本語の音らしさ」が低いと言える。
一方で、更紗語ではp音は語頭・語中にかかわらず高頻度で登場する。
「なつぴなつ」という文字列は、開音節のみで構成され、含まれる母音は[a][i][u]の3種類。更紗語には存在しない[e]は入っていないし、更紗語で使用頻度の少ない[o]も入っていない。そしてp音があることが、なおのこと更紗語らしさを高めている。
それでは「なつぴなつ」と発音する単語の意味は何か?
まず確定している事項として、更紗語には [pi] という単語があり、「中央」という意味である。
よって、更紗語で「なつ」と発音する語の意味が確定できれば、この単語の意味を知ることができる。
さて、英語のR音とL音は、日本語話者にはどちらも「ラ行」に聞こえる。それと同じように、日本語話者に「な」と聞こえる音は、2種類ある。
[na] …「瀬」「狭いところ」などの意味
[nʷa] …「田んぼ」「平坦な土地」などの意味
更紗語は円唇化の有無を区別するので、日本語話者にはともに「な」に聞こえる [na] と [nʷa] を区別するのである。
次に、「つ」に聞こえる音は、[tu] がある。[tu] は、[atu]「海原」や [hʲatu]「野原」のように、広い地形を表す単語の語末に使われることが多い音である。(日本語だと、「やま」「しま」「はま」「ぬま」のように、地形を表す語の語末「ま」がついているものが多いが、更紗語で同じ役割を担っているのは [tu] である)
一方、
[na] 瀬/狭いところ + [tu] 地形語尾 + [pi] 中央
という組合せの [natupi] は、「瀬の中央」あるいは「狭い土地の中央」という意味になる。
また、更紗語には [natu] という単語もある。これは「塊」や「区域」という意味である。
前回はこの議論をなおざりにしてしまっていたが、更紗語で「なつぴなつ」と発音する単語があった場合に、1番目の「な」と2番目の「な」が同じ発音だと決めつけてはいけない。両方とも [na] であったり、両方とも [nʷa] という場合の他に、片方が [na] でもう一方が [nʷa] である可能性を考慮しておく必要がある。
※その場合、日本語話者には偶然両方とも同じ「な」に聞こえるけれど、更紗語話者にとっては両者は別の音として感じられるという意味である。
1番目と2番目のそれぞれの「な」について、どちらも [na] [nʷa] の両方の可能性があるので、下記の4通りが「ありうる」
[natupinatu]
[natupinʷatu]
[nʷatupinatu]
[nʷatupinʷatu]
1の場合、「区域の中の区域」「狭い土地の中の区域」という感じの意味。
2の場合、「区域の中の田んぼ」「狭い土地の中の田んぼ」「狭い土地の中の平坦な場所」などといった意味。
3の場合、「田んぼの中の区域」「田んぼの中の狭い土地」などといった意味。
4の場合、「田んぼの中央の田んぼ」「平坦な土地の中央の平坦な土地」といった意味。
いずれも更紗語のコロケーション的に矛盾点はなさそうである。
しかし、「なつぴなつ」が地名や駅名になるとすれば、どれが最もあり得るだろうか。そう考えると、地形的に一番しっくりくるのは「狭い土地の中の田んぼ」や「狭い土地の中の平坦な土地」という「2」の組合せが「ありそう」である。
意訳すると
先程わたしは
と書いた。
もし城栄国に、更紗語で「なつぴなつ」と発音される地名があったら、それも更紗語での意味に基づいて日本語に意訳されて想像地図上に表記されるであろう。
前述した「2」の組合せの内、「狭い土地の中の田んぼ」であれば、日本語にキレイに意訳することができる。それは、
佐中田 (さなかだ)
である。
日本の地名で「狭い野原」という意味の「狭野」という地名は、多くの場合に「佐野」という表記で表されるため、それに倣って「狭中田」ではなく、「佐中田」という表記にしてみた。いかがだろうか。
注釈
注釈1:更紗語には[e]の音がなく、代わりに[ə]の音があるので、ローマ字で表記するときは入力の利便性のために[ə]のことをeの字で表記している。
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