更紗語で「泉」を意味する単語
日本語の「泉(いずみ)」は、単純語ではなくて、「出づ + 水」の2単語の複合語である。では更紗語で「泉」を意味する単語はどのようなものになるだろうか。想像地図の地名について考えているとき、怪我の功名的に「泉」を意味する単語がどのようなものであるか、その答えにたどり着いた。
結論から言えば、 ikexi である。
どうやってこの結論にたどり着いたか。
想像地図の人は、「滋賀県の志賀町」や「岩手県の岩手町」みたいなのが想界にあるか、ということを考えていた。もしかしたら、泉川県の生島町は、そうなのではないかということを考えた。「生島(いくしま)」が、更紗語で「生きる島」という意味を日本語に意訳したものではなく、更紗語でイクシマと発音する地名を音訳したものであって、更紗語でイクシマが「泉・川」を意味する地名だとすれば、更紗語で「泉」を意味する語は「イクシ」ということになる。
まず前提だが、更紗語で「川」を意味する単語は mwa [mʷa] である。これは、まあ音訳したらほぼ「マ」になるだろう。「いくしま」は語尾が「ま」だから、その点では矛盾しない。
次に「いくし」の方について考えてみよう。更紗語で「水」は me だし、「出る」は zwore (暫定造語) である。だから日本語の「出・水」という語構成では無いと言うことだ。ところで、更紗語で「し」と発音する単語というと、まあいろいろあるだろうけど、ぱっと思いつくのは xi「口」である。そこで、「いくし」は更紗語で「湧き出る - 口」のような語構成を音訳したものだと考えることにする。
日本語の動詞は、ラテン文字で表記すると語尾が必ず -u になる。更紗語の動詞は、語尾が必ず -e になる。従って、「いくし」の「いく」が動詞であるなら、その語尾は -e に限定される。ただし、更紗語の /e/ の発音は日本語の「え」ではなくて、[ə] すなわち、中国語のピンインの e に近い発音だから「う」に聞こえる。
ike, yike, wike のいずれかであれば、日本語話者には「いく」に聞こえる。
ゆえに、「泉」を意味する更紗語の単語は、 ikexi, yikexi, wikexi の3つのうちいずれかに絞られる。
ここでもう一つ検討する。想界には「森泉」という地名が複数箇所にあって、「もりいずみ」と読むものと、「もりずみ」と読むもの、2種類ある。どちらも意訳地名なのだとすると、更紗語での何らかの音韻上の違いを訳し分けたと考えることができる。
すなわち、母音連続を削除しないものと、母音連続を削除したものの2種類があると。(注釈:更紗語で「森」はyuma)
上記の推論から、更紗語で「泉」を意味する単語は、語頭が母音であることが示唆される。
よって、 ikexi, yikexi, wikexi の3つのうち、語頭が母音なのは ikexi であるから、これが答えである。
「もりいずみ」と「もりずみ」は、2つの形態素が素直に並んだ yumaikexi と、母音連続を削除した yumikexi を訳し分けた結果と解釈できる。