落としたネジが見つからない
メガネ屋で働いている人の多くがおそらくは一度は経験することがある。
メガネに使われているネジを落としてしまい、見つからなくなることだ。
ネジくらい見つかるでしょ!
と思うかもしれない。
これが実はなかなか見つからないのである。
メガネに使われているネジというのは実はかなり小さい。
メガネ用のネジにも様々なサイズがあるが、多く使われているのが太さ1.4mmという規格のもの。
この1.4mmがどれくらいの小ささなのかをわかりやすくいうと、テレビやエアコン用リモコンの電池を変えるときに使う家庭用のドライバーでは回すことができないくらいの小ささ。
なのでメガネ店で使われるドライバーの先端もかなり小さい。
リモコン用のネジを回せないくらい小さい。
それくらい小さなネジは、メガネの制作途中や調整途中にポロっと落ちてどこかに行ってしまうことが多々ある。
床に落ちたところまでは目で追えており、なんとなく微かにだが床に落ちた時の微妙な音も聞こえる。
そこからが必ずと言ってもいいほど見つからない。
落ちる瞬間を目で追い、
微かな音を聞き分け、
脳内でネジを落とした位置や角度からネジが転がっていく様子をシミュレーションしてみるが、
それでも見つからない。
そんなに遠くにはいっていないはず。
まるで行方不明となった人を探すときのような推理のもとに捜索をしてみる。
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気分は名探偵だ。ガリレオでもある。脳内に複雑な計算式を幾重も描きながら、事件発生当時の様子や登場人物の会話の内容や室内の状況など様々な条件を重ね合わせて推理を深めていく。
カッ!と目を見開き、メガネをクイッとあげて一言発する。
「さっぱりわからない」
そんなことをしている場合じゃない。
床にしゃがみ込み目視で探すしかない。手探りしかない。アナログな手法しか通用しない世界だ。
それでも見つからないネジ。絶対に見つからないネジ。1.4mmを探すには店内は広すぎる。
代わりのネジを使えばいいじゃん。予備はあるんでしょ。
そう言いたいのはわかる。予備はたくさんある。予備でもサイズだけは合うので部品を固定することはできる。
でも落としたネジはメガネフレームに合わせて塗装してあったりもするのよ。
頭の部分がちょっと形が違ってたり、もともと付いてたのとはサイズは同じでも若干違いがあったりするのよ。
売り物だから、基本的には最初は購入したそのままの姿じゃないとダメ。
だから今日も這いつくばってネジを探すのよ。俺たちは。
そしてとうとう見つける。落ちているネジを。
「こんなところにあったのか」
そう思って安堵のため息を吐きながら拾い上げる。
「違うネジじゃん」
いつのよ。どれのよ。いつから落ちてるのよ。そして探してたネジはどこよ。
メガネ屋に行ったときに、もし床に這いつくばっている店員さんを見かけたら心の中で応援してあげてください。
何してるんだろうと不思議に思うかもしれませんが、実は1.4mmを探して今日も複雑な計算や推測を重ねて頑張っています。