国道9と3/4号線
1日楽しんだ帰り道。右手には田んぼ。左手には数十メートルおきにある家々と、その向こうに山を見る。
少し遠出をして、といっても車で1時間と少し程度だが、比較的大きな街に出かけた。
住んでいない街を歩くのが好きだ。
いつもとは違う名前のスーパー、知らない飲食店、知らない建築会社の看板、道をあるく学生の制服もまったく違う色をしている。
側から見ると、自分もその街の住人に見えるのだろう。
今の現実から離れ、まったく違う街に住んでいる別人になった気分になれる。
ハリーポッターが、マグルの世界からホグワーツの世界に行ったように、今の僕はこっちの世界の住人なんだ。
少し離れているだけで、いるのは同じ世界なのだが。
隣を歩く彼女もどうやら同じ気持ちになってくれているようで、ずいぶんと楽しそうに歩いてくれる。
ランチをして、デパートへ行き、ペットショップを覗き、それから帰っただけのごく普通のお出かけなのだが、ホグワーツをぐるっと旅したような心地になっている。
しかし時間がくれば、帰らざるを得ない。
きっとハリーポッターも、ホグワーツからマグルへと帰る時には同じような気持ちだったのだろうか。
またあの退屈で窮屈な世界へと、嫌でも帰らないといけない。
国道9と3/4号線を、来た方向とは逆方向に車を走らせる。
行きでは左手に見えていた田んぼが、今度は右手に見える。
ゆっくりと、現実が少しずつ目に入ってくる。
現実に帰った後は、助手席にいる彼女とも一旦別れ、お互いの生活に戻らないといけない。
お互いの生活の中で、またお互いの役割を演じることになる。
キラキラして見えるから目を惹かれているだけだと言われたこともある。
それを完全には否定しきれないかもしれない。
けれど、マグルよりもホグワーツにいる方が、よっぽど自分らしく過ごせているんだ。
どちらが現実なのだろう。
偽っている自分を現実と呼び、本心で過ごす自分を夢と呼ぶのであれば、そんなふざけた世界はないはずだ。
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