2021年オランダ下院選挙 上位6党首民放テレビ公開討論会
勝手に広報のコーフボールママです。今回は、2021年3月15,16,17日に投票となるオランダ下院選挙の選挙活動の一環として行われた民放テレビでの公開討論会について書きたいと思います。2党の党首の討論会や、政策ごとの討論会などもありましたが、私の一番印象に残った討論会について書きたいと思います。
今回のオランダ下院選挙の見どころを説明した記事はこちらです。
2月28日民放テレビRTLでの上位6党首の討論会
どの政党に投票するのかは、色んなサイトで行っている質問に答えて自分の意見と一番近い政党を調べて決める事が多いですが、公開討論会での党首の受け答えも政党を決める材料となります。
今年の上位6党首の公開討論会は2021年2月28日に行われました。民放テレビRTLでの生放送で行われて180万人の国民が視聴しました。最高視聴率は34%です。オランダの人口は約1700万人ですので、ライブで大多数の成人が視聴した事が分かります。公開討論会のハイライトはニュースでも流れ、全国民が各政党がどういった政策を掲げているのか、党首はどういった人物なのか視聴しました。
この公開討論会の参加政党は2017年の下院選挙の上位6党です。
VVD(自由民主党) マルク・ルッテ首相
PVV(自由党) ヘールト・ウィルダース党首
CDA(キリスト教民主アピール) ウォプケ・フックストラ党首
D66 シグリッド・カーグ党首
GROENLINKS(緑の党) イェッセ・クラーファー党首
SP(社会党) リリアン・マレイニセン党首
色んなテーマで各党首が討論をするのはいつもの事なので、党首がよっぽど良い切り替えしをしない限り印象に残らないのですが、今回は前半に各党首の討論、後半に各党首が1国民から一番触れられなくない事柄を厳しく突っ込まれるという形をとっていてかなり新鮮でした。
国民代表との討論は以下です。
1 牧場経営者 対 D66党首 シグリッド・カーグ女史
二酸化炭素削減のためにD66は将来的に牧場数を今の半分以下にすることを政策にしています。最新テクノロジーを使い、自助努力で二酸化炭素を減らしている牧場経営者の方がスタジオに登場しました。
D66の前党首 ロブ・イェッテン氏と話し合いをしたが、全く聞く耳を持ってもらえなかったと主張する牧場主さんからは怒りと苛立ちと不信感が表れていたので、私はドキドキしながら二人のやりとりを見守りました。
自分の牧場のやり方を他の牧場主もすれば、二酸化炭素も減るのでD66が主張するように牧場を半分にする必要はない。という主張です。
カーグ女史は、色んな調査の結果、牧場を半分に減らす必要があると考えていますが、選挙後にあなたの牧場を見学しに行きますので、そこで話し合いをしましょう。と、約束して終了しました。
私は選挙前はカーグ女史の事を元外務大臣で対外交渉に長けている政治家という印象しか無かったのですが、この討論で一気に好感度が上がりました。
2 レストラン経営者 対 CDA ウォプケ・フックストラ氏
フックストラ氏はコロナ危機真っ只中であったにも関わらず、児童手当不正受給問題で今年の1月に内閣総辞職をした時の財務大臣です。2020年3月から閉鎖になり、夏に一瞬だけ開店を許されたレストランですが、2020年の10月14日に再度閉鎖を余儀なくされ、3月17日の現在もテイクアウトのみとなっておりコロナ給付金は出るとは言え、非常に経営が厳しい状態になっています。
レストラン経営者は、自分たちが大変苦しんでいるのに巨額な給付金がKLMに流れるのは納得が出来ない。という主張です。
フックストラ氏は、レストラン経営者の皆様の苦しい状況は理解できるけれど、正直に申し上げて全ての問題を解決する事は不可能です。と伝えた後
テラスだけでも早く再開出来れば良いと希望しています。
と締めくくりました。
私は、この方も出来る事と出来ない事をキチンと伝える信頼の出来る方だな。という良い印象を受けました。
3 児童手当不正受給問題の被害者 対 VVD ルッテ党首
怒りと憎しみを全身で表しながら登場した児童手当不正問題の被害者。彼女は児童手当を正当に受給していたにも関わらず、不正に受給していたと税務署にレッテルを貼られて、税務署への返済のために家計は火の車。何度も間違えだと訴えても聞いてもらえず、ルッテ首相に対して被害届を提出しているほど激怒している被害者。
うわ!ルッテ首相はどうやって返事をするんだろう。とまたもやドキドキしながらテレビ画面を見つめました。
ルッテ首相は、まず、あなた方は不正受給者ではない。という事をハッキリとお伝えしたい。と伝え、被害者が「もし1年後にこの問題が解決していない場合は責任を取るのですか?」と詰め寄ると、それに対してはYesともNoとも言わず、「本当に大変な思いをされた事は分かっております。一緒に解決しましょう。」と、説明しました。
いやあ、百戦錬磨の政治家だわ!と、私はまたもや感心しました。「あなたはこの問題の共同責任者だ!あなたは私たちを見捨てたのよ!あなたのせいで、公的弁護士の時間数が削られて、この問題でも私は弁護士を頼めない!」等、次々とルッテ首相を責めるのですが、ルッテ首相は、私は首相として最終責任者ではあるが、共同責任者ではありません。等と落ち着いて答えたり、納得できない点は、その点には同意が出来ません。と伝えたり、一緒に解決しましょう。と私から見ると、自分の責任を認めつつ協力的で信頼出来る対応をしていました。さすが、ルッテ首相です。
4 クスクスレストラン経営者のモロッコ人女性 対 PVV ウィルダース党首
モロッコ人のナディアさんが登場したときに、この方は、お料理番組でモロッコ料理を紹介している料理研究家の方だ。と気づきました。クスクスのレストランも経営されていたんですね。
「オランダ生まれでオランダ育ちの息子に対して、2級国民として虐げられている今の状況をどういう風に説明したらいんですか?」と詰め寄るナディアさんに対してウィルダース氏は「2級国民なんて言ったこともないし、どうしてそういう風に思われているのか分かりませんが、あなたのようなオランダ人を問題視しているわけではありません。モロッコ人犯罪者、特にモロッコ人の犯罪を犯す若者を問題視しているんです。あなたがたの事を2級国民として虐げた事などありません。」ウィルダース氏がナディアさんが伝えたい事を理解する時間がなかったので、「今度またお話ししましょう。クスクスをご馳走しますよ。」と、言われ「クスクスはいりません。でも、お話しはしましょう。」と言って討論は終わりました。
いつも厳しく与党を責めるウィルダース氏が厳しく責められている時にルッテ首相とCDAのフックストラ党首が笑っているのが映し出されて私も笑ってしまいました。
あー、でも、なんでここで「クスクスはいらない」って言っちゃうんだろうー。何を言っても自分の信念以外の意見を理解しようとしない人なのかな?と思いましたが、夫は、「クスクス、いいね!」みたいに言っちゃったら支持者の反感が高まるので、言うわけないじゃないか。と言っていたので、確かにそうですね。でも、ウィルダース氏はモロッコ人を減らそう。という発言をしたり、モロッコ人に対して悪いイメージを持つような自分の発言が善良なモロッコ人まで悪者にされて迷惑を被っている事実を認めないのかな?と思いました。しかし、ウィルダース氏の犯罪を犯す移民はオランダに居場所はない。という主張は良く分かりました。
残念ながらモロッコ系オランダ人の犯罪率が他の国の移民よりも高く、20年前はモロッコ人の強盗が、、、みたいにニュースで言っていたところをモロッコ人の印象がもっと悪くなる。という事で、それから北アフリカ出身の強盗。みたいに名称を変更されるようになりました。
近年では、モロッコ系マフィアの暗殺が続き、しかも検察と司法取引をして重要参考人となったモロッコ人のマフィアに報復するために、彼の素人のお兄さんを暗殺。そして、参考人のオランダ人の弁護士まで自宅前で暗殺してしまいましたから、モロッコ人には素人に手を出してはいけない、等の仁義が通じないんだ。という事が分かりオランダ社会は震撼しています。
善良で真面目に生活しているモロッコ人にしたらいい迷惑です。
モロッコ人だから、オランダ社会ではチャンスがないかと言えばそうではなく、モロッコからの移民であるアブタレブ ロッテルダム市長はロッテルダム市民だけでなく、オランダ国民からも最高のリーダーとして尊敬を集めています。
https://courrier.jp/news/archives/57330/
5 大学生 対 緑の党 クラーバー党首
数年前に緑の党も合意して学資ローンのシステムが変更されて、多額の学資ローンを組まなくてはいけなくなった大学生のスーゼさん。学生時代には勉学に加えて借金返済のためにアルバイトもし、将来にはこの借金のために家を買う時にローンを組むことも出来ない。と訴えるスーゼさん。「私や他の大学生にどんなインパクトがあったのか、想像できますか?」と詰め寄るスーゼさん。クラーバー氏は、学資ローンを見直して、前のシステムで金銭的に余裕がなくなった大学生に全額ではないけれど、一部の補償を約束しました。クラーバー氏の受け答えもスーゼさんの状況に理解をしつつも彼が約束できる範囲の事を正直に答えていましたので、好意が持てました。
6 会社経営者 対 SP リリアン・マレイニセン 党首
SP(社会党)はフリーランスは正社員と違い、すぐに契約解除されて弱い立場にあるので法律で守るべき人々と考えています。ゲーム制作会社を経営しているダフア氏はフリーランスなしには世界市場で勝てずに会社に将来はなく、SPの政策が通るとフリーランスで働いてもらう事は不可能になります。
と訴えます。
マレイニセン女史は、私たちはフリーランスで働くことに反対しているわけではなく、企業から強制的にフリーランスとして働かせれて搾取されることに異議を唱えているんです。あなたの会社のフリーランスの事を言っているわけではなく、デリバリーのお仕事をする人、清掃員、郵便配達員等を言っているんです。自由意思でフリーランスになる人の事を言っているわけではありません。と、主張しましたがダフア氏が納得する前に時間切れになりました。
ダフア氏の心配も私はよく分かります。労働者の立場を守りたいという気持ちが強すぎて経営者の立場や企業がどのように反応するか。という事をSPはあまり汲み取っていないからです。現在の最高所得税は52%なのですが、SPは高所得者層にもっと高い税負担を訴えています。しかし、実際SPの主張通りにより高い税金を負担させると、オランダ国外に住居を移したり、あの手この手で税金対策をするようになりますので、そんな単純なものではありません。
フリーランスではないのですが、同じように弱い立場であると思われていた一時契約を繰り返していた労働者を守るための法律が逆にその労働者の首を絞めるような結果になっている事例もあります。
今までは一時契約の社員は何年も一時契約の更新が出来たのですが、3年連続で同じ仕事内容で更新した場合はその後は正社員として採用しなくてはいけない。という裁判所の判決が出ました。2020年1月から施行されるようになってから、大多数の企業は一時契約を最長3年とするようになり、一時契約を続けたい人や非常に仕事が出来る一時契約の社員も企業のルールだからという事で一律に3年後には自動的に契約終了となる事が多くなりました。
この裁判にはもちろんSPも応援していましたが、この判決のせいで一時契約社員が3年後に正社員になるわけではなく、やっと働き口を見つけても3年後にまた別の働き口を探すことになり、以前よりも不安定な状況になりました。マレイニセン女史は、弱い立場の労働者を守ろうとしている情熱的な政治だという印象を受けました。
今回の討論会を観た私の感想
政治家同士の討論は政治のプロとして時には感情的に、時には激しく、自分が国のために良いと信じている主張を相手に伝え、そして相手の主張の弱い部分を責めます。
今回のように一国民が、特定の政策や特定の発言によって悪い影響を受け、それを政治家に直接訴えると討論会を私は初めて見て、かなり新鮮でした。
自分の党が取った政策に対して腹を立てていたり、心配をしている国民に対して、「うちの党がした事ではありません。」と言い返すことも出来ず、その受けごたえによっては議席の増減が大きく左右しますので、6人の党首にとっても難かしい討論だったと思います。もちろん、この公開討論会の最中も党首同士の討論もありましたが、私にとってのハイライトはこの6人の国民との討論でした。
この討論会の後の番組で、どの党首が勝者なのか話し合っていましたが、今回は全員甲乙つけがたく、勝者はいませんでしたが、カーグ女史は善戦していた。という感想でした。その後もカーグ女史のお陰でD66は予想議席数を伸ばしています。
本日 17日の夜に市ごとの選挙結果が続々と発表されます。最大政党がVVDになることは確実ですが、第二党がどの党になるのか大注目です。