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palabras*2

palabras*2

翌朝は起きれた。起きてしまった。
朝から日差しが強烈で起こされた。
昨日の夜適当にカーテンを引いた自分を恨んだ。

ボサボサの頭をボサボサしながら
スマホを手に取ると
イアンからのメッセージで
『ジムに行ってくる』と。
しかも1時間も前にメッセージは届いている。

あの健康優良児は何でできているのかなと考えながら冷蔵庫から冷えた水のボトルを取り出して飲む。

顔も良くて頭もきれる。
2ヶ国喋れてコミュニケーション能力も高い。
非の打ち所がないな、と思いかけて
お腹が弱いな、と気付いて笑えた。
愛すべきところだ。

9時かぁ。

本音は10時ぐらいまでは寝たかった。
2度寝してもいいけど
ちょっと目が覚めちゃったなぁ。

ソラさんが朝ごはん食べてるかもしれないから下りてみようかな。

Tシャツを脱いで着替えて
デニムをはいて顔を洗って
濡れた手でちょっと髪を直して
また一口水を飲む
昨日の水のより冷たいけれど
昨日の水の方が体に染み込む感じだった。
不思議だ。
ボトルを回して水を見て
それをベッドサイドに置いて
スマホとカードキーを持って部屋を出た。

『朝ごはん食べてくる』
とイアンにメッセージを送ると
『シャワー浴びたらいく』
とすぐに返事が来た。
朝のワークアウトは終わったらしい。

昨日、朝は部屋でいいか、
何て話してたのに
来るつもりなのが笑える。

朝食のレストランに着くと
窓際に座るソラさんがすぐに見つかった。

レストランに入るところで
背中に大男の気配を感じて振り向くと

「おはよう、ジミン。
早かったな。もっと寝るかと思ったよ。」
と爽やかなイアンが爽やかに声をかけてきた。
朝から体を動かしてシャワーも浴びて
フライトに疲れた昨日より一層いい男だ。
ボサボサの自分が恥ずかしくなる。

入口でイアンに
あそこにソラさんがいる、と伝えると
イアンがスタッフに
彼女と同席したい旨を伝える。

スタッフにその場で待つように言われ
ソラさんの元にスタッフが向かう。
スタッフがソラさんに声をかけると
彼女の視線がこちらに動く。
彼女がこちらを見たので
胸の下辺りで小さく手を振る。
隣でイアンも同じようにしていて笑ったw

彼女が少し腰を浮かせて
手のひらでテーブルを示す仕草を
同席の承諾と認識した僕たちは
まだスタッフに何も言われていないのに
彼女のもとへと歩き始めた。

膝に掛けていたであろうナプキンを
お腹の前で持ったまま
立って僕たちを迎えてくれた彼女に

「おはようございます」

「おはようございます、ジミンさん
おはようございます、イアン」
と彼女が言いながら
ふっ、と笑うので

「ん?」と笑いの意味を尋ねると

「いえ、おはよう『ございます』なのに
『イアン』は変な感じだなと思って。
イアンには
Good morning, Ian ですね」
と言ってイアンを見ると

イアンは爽やかに
「Good morning, Sora-san」
と低めのいい声で彼女に微笑む。

ボサボサの僕は
お腹壊せばいいのに、と
心のなかで悪態をついてから
二人の会話に加わった。

今日は市内観光の予定の彼女は
白いTシャツを着ていた。
座っているので見えないけれど
きっと下はデニムか何かのパンツだろう。

左の二の腕の内側、
半袖で隠れるか隠れないかぐらいの位置に
小さな星が見えた。
タトゥーかな。
へぇ、と思った。

二人が奏でるBGMの途中で
イアンが僕に向かって
「ドライバーに聞いてみてくれるって
朝から行く?午後から拾ってもらう?」
と聞いてきた。

スペイン語ができないから
良ければ市内観光に同乗させてもらえないかという提案を彼女が受け入れてくれたらしい。

午前中は国立人類学博物館
そこを存分に楽しんでから
午後から メトロポリタン大聖堂、テオティワカン、歴史地区、フリーダ・カーロ美術館
ドライバーと相談して行ける範囲で。
行けなければ4日目の午後にまたドライバーに頼むつもりだとイアンが教えてくれた。

僕たちにはもともと計画した目的もなく
彼女の計画はしっかり目的があるようだったので
あんまりべったりも
疲れさせちゃうかな、と思って
午後から合流させてもらうことにした。

彼女は「ドライバーに確認してから
また後で連絡するね」と言って(たぶん)

スマホで時間を確認すると
「もうすぐ時間だから」と言って(たぶん)
イアンと番号を交換して席を立った。

下は白のワイドパンツだった。
ストンと落ちるテロテロの生地が
彼女の動きに合わせて揺れて涼しげだった。

彼女の後ろ姿を見送り
まだ僕たちがレストランでコーヒーを飲んでいる頃
お迎えがあったであろう彼女から
タクシーの中から
イアンに電話がかかってきた。

『午後から合流して大丈夫だって。
何時に迎えに行こうか?』
と聞いているとイアンが訳してくれて

イアンと相談して
そんなにお腹も空かなそうだし
お昼はまたここで軽く済ませてから
向かおうということになった。

「1時にお願いします。
お昼はここで食べます。」
と伝えてもらった。

そのあとおそらく料金の確認をして
「お気をつけて」と添えて(たぶん)
イアンは電話を切った。

「国立博物館もうすぐ着くんだってw
すごい近かったみたい。
彼女お昼はどうするのかな?
まぁ今さらいいか。」
と下を向いてスマホを触りながら
後半独り言のようにイアンが呟き

「じゃあお昼までは何する?」
とこちらを向いて聞いてくる。

「俺はプールかな」と言うと
イアンは右手でアゴ先に少し触れて
考えてから
「僕はちょっと街を走ってから
プールに行くわ」と言った。
色々とつっこみたいけど辞めておいた。
代わりに

「お腹大丈夫かよ?」と聞いたら

「うん。今んとこ問題ない」と答えた。

それから一緒に上まで上がって
お互いの部屋の前で

「お昼いくとき教えて」

「了解。あとでな。」

と言って部屋に入った。

ちょっとお腹がふくれたから
また眠くなってきたけど
せっかく早起きしたし
寝るならプールサイドでもいいかと思って
Tシャツを脱ぎ
黒のラッシュガードを着た。
下はまぁいいかと思って
ラッシュガードは履かずに
そのままの脚に海パンを履いた。

脚の出ている部分に
申し訳程度に日焼け止めを塗って
顔は鏡を見ながらしっかりめに塗って
カードキーをポケットに突っ込んで
ベッドサイドの飲みかけの水と
サングラスとキャップを持って
プールに向かった。

午前10時のプールは
まだ人もまばらだった。

人の少ない今のうちに、
と思って歩きながら肩を回し首を回し
ビーチチェアにキャップと水とサングラスを置いて
脚を伸ばしたり曲げたり
あとはその場でぴょんぴょん飛んだり
手足をブラブラして
軽く準備運動をした。

ビーチリゾートではないここのプールは
真面目な長方形のプールだ。

プールに近付き水に触れる。
梯子を使って水に入り
大きく息を吸ってから
重心を低く筋肉の重みを作って
足を曲げて
一旦中に潜り込む。
包み込む水の感触を味わう。
水が作る無音の世界
力を抜いて
肺に残る空気の浮上を利用し
足を伸ばしてゆっくりと水面に頭を出す。

気持ちがいい。

泳ごう。

そう思い、
プールの壁を両足で思い切り蹴った。

息継ぎは右から
左は苦手で2回に1回のペースで入れる。
端まで行くと水中でターンして
来た道を戻る。

自分の作る水が動く音だけが
耳に届く。
その音に集中する。

何往復かして満足して
ターンの回転のついでに
そのまま力を抜いて浮上し
背中で浮かぶ形になる。

アゴを上げて鼻から大きく息を吸って
全身の力を抜いて浮かぶと
耳にちゃぷちゃぷと水音が遊びにきた。

心地いい。

水の音をずっと聞いていられそうだったけど

このまま寝たら沈むのかな?
と不安になって
足に力を入れて立ち上がった。

プールから出て飲みかけの水を飲み
タオルで頭を拭いてから
それを肩にかけて
ドサッとイスにもたれた。

寝れそぉ…

辛うじてサングラスだけして

頭の中でさっきの水音を思い出す。

ちゃぷちゃぷ…

はぁ…

幸せ…zzz

どれぐらい眠っていたかわからないけど
全身からポタポタ水を垂らしている
イアンに濡れた手で体を揺すられた。

犬みたいにブルブルっと頭を振る。
飛んでくる水に顔をしかめる。

「おはよ!ジミン。
気持ち良さそうに寝てるとこ悪いけど
もう12時だから。
行くならシャワー浴びて
ごはん食べた方が良さそう。」

「あ?もう12時?」

「うん。
観光行かないなら、そう伝えるけど?」

んーーーーー
と腕を上げて伸びをして
腕を上げたまま考える。

どーしよっかなーー

腕の力を抜いて
パタ、と下ろして

行こ。

体を起こす。

頭の後を触ると
まだちょっと濡れていた。

「行く。」

イアンはタオルで体を拭きながら
僕の動きを目で追っている。

「行けそ?」
と言われて

「ん。」
と言って立ち上がり
ちょっと伸びたり
首をコキコキしたり
肩のタオルを直したりしながら
のそのそと部屋に向かう。

隣の大男の歩幅は大きくて
颯爽としていた。

部屋に戻ってシャワーを浴びて
タオルでガシガシ頭をふいて
Tシャツとデニムに着替えると
思いの外頭がスッキリしていた。
体も軽くて気分がいい。

サングラスをTシャツの首のとこに引っかけて
キャップはちょっと濡れちゃってるから
別のやつ。

脱いだ水着をジャーと水で流して
全身の力を込めて絞って
バスルームに干しといた。

一応財布の入ったボディバッグ
スマホはポケットに入れかけて
危ないかな、と思ってバッグに入れた。

窓の外の景色に目をやって

暑そうだな

と思っていたら

コンコン、とドアを叩く音がした。
イアンだ。

「ジミン、行けそう?」

ドアの向こうから声がする。

「今行く」
と答えて
カードキーを持って
ポケットにつっこみかけて止めて
それもバッグに入れた。

イアンと下まで下りてレストランに入る。
ビールを注文しかけて
せっかく体が軽いから、
と思ってやめた。
イアンはもともと昼間は飲まない。

昼は軽めにサンドイッチ
もうちょっと食べたいかな、
と思ったけど
体が軽い、この気分を体に留めたくて
追加はやめておいた。

アイスコーヒーをすする。

朝ソラさんがいた窓の方から
角度の違う光が差し込んでいた。

エントランスまで行ったら
ソラさんとタクシードライバーが
車から下りて待っていた。

僕たちに気付くと
ソラさんが右手を挙げて知らせてくれる。

ソラさんがドライバーを紹介してくれて
イアンがあいさつして握手して
僕を紹介してくれて
ドライバーが僕にも手を差しのべてくれたので
イアンに倣って僕もドライバーと握手をした。
大きな肉厚の手だった。

走り出してすぐに彼女がイアンに話しかけ「『建築物と古代遺産とどっちがいいかな?』て聞いてる」
とイアンが聞いてくるので

「どっちが近いですか?」
と聞いたら
「『テオティワカン遺跡は1時間ぐらいかかるみたい。スペイン植民地時代の建築物のある
歴史地区は30分ぐらい』僕はどっちでもいいよ」とイアンが言うので
「彼女の希望は?聞いてみて」
とイアンに言って聞いてもらう。
「『行かない方に明後日行くからどっちでもいい』って。」

んーーー。
と考えて予備知識ないけど
「テオティワカン!」と答えた。

「OK」
とドライバーが返事して車線を変えた。

「博物館はどうでしたか?」イアンが聞くと(たぶん)
「『すごかった。時間が足りなかったから
もう途中から明後日また来ようって
思いながら見てた。』らしいよ」とイアンが教えてくれる。

「なにが、良かったですか?」
と僕が聞いたら
考えながらゆっくりと
「広くて、いろいろもう…」
と言ったところで時が止まったように
しばらく考えて

「すごくて…」

と力が抜けたようになり

それは相手の強さに降参するときのように
称賛を存分に含んだ言い方で

アゴに人差し指だけ軽く触れながら
また無言で何か考えて
一旦目を閉じて決心したかのように
運転席の後ろの僕の方を体ごと見て

「知りたいなら、行くべきだわ」

もうそうとしか言いようがないという風に
きっぱりと
きりっと強めに日本語で発した。

「ぷっ」
と横で何故かイアンが吹き出していた。

「お昼は博物館で?」とイアンが聞くと(たぶん)
「あ!」と言ってドライバーを見て
短い言葉で彼に何かを伝えた。
ドライバーは問題ないよ、とでも言うように顔の前で手を振った。
そして2言、3言交わしてから

「『ごめんなさい、お昼食べるの忘れてて。彼も食べてないからちょっと買って車で食べてもいいかな?』だってw』」
これには僕の返事を待つまでもなく
イアンがすぐに「もちろん、どうぞ」と答えていた。

ドライバーの判断で近場にある彼の好きな
タコス屋に寄って行くことになった。

「食べますか?」
と彼女に聞かれて
「んーーーーーーー。 食べます❤️」
と答えた。
隣のイアンにもおそらく同じ質問をして
イアンはうーんとかあーとか唸っていたけど
結局食べると答えていた。

ホテルのタコスも本場のだけど
屋台のタコスはまた違う味で
これはこれで
やっぱり食べて良かった。
みんなでおいしい、おいしいと言って
ニコニコしながら食べた。
ドライバーが何度もミラーで後ろの僕らを確認して本当に嬉しそうに笑っていた。

初めて聞くソラさんの スペイン語は
歌っているみたいだった。

#BTSで妄想
#palabras

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