【週刊プラグインレビュー】ローエンド締め締め委員会
今月は「ローエンド締め締め委員会」と称し、ローエンドのステレオイメージをタイトにしていくプラグインだけを紹介します。
実際の作業の流れと共に、操作やツールの紹介をしたいと思います。
死ぬほど細かい話です。
なぜ締めるのか
さぁいきなり主題ですが、なぜローエンドを引き締めていきたいのか。
考えが複数あるので順に説明していきます。
相対的なステレオ感を演出したいから
音楽を聴いたときの印象は相対的なものです。
ダイナミクスやステレオ幅の印象は、絶対的な大きさではなく、小さい部分と大きい部分の差=レンジによって決定されます。
ドッタンドッタンとパンチの効いたドラムを聞かせたいなら、アタック部分とサステイン部分のレンジを大きくするべき。
特定の重低音を聞かせたいなら、それ以外の素材の重低音は少なめにしたり、ハイエンドの目立つ素材を作り、周波数バランスのレンジを作るべき。
ステレオ幅の広いミックスを作りたいなら、必要な素材以外はモノラルに近づけていき、ステレオ幅のレンジを作るべき。
「全部聞かせたい!」と全ての素材のステレオ幅をLRで振り切ってしまったり、ステレオイメージャーで広げていくと、結果的にぶっといモノラルなミックスが出来上がります。
メーターで見るとしっかりステレオになっているかもしれませんが、聴感上の印象は相対的なものなので、曲単体で聞くと狭く感じてしまいます。
ステレオ感を知覚させたいならモノラルな素材を作り、その差=レンジを相対的に意識させる必要があります。
派手な音源の整理をしたいから
近年MIDI音源のクオリティやサンプル集のクオリティは素晴らしいスピードで向上していますが、同時に派手すぎる音源も増えたなと思います。
「単体での試聴を行う際に、ステレオ幅が派手じゃないとパッと聞きのインパクトに欠けてしまう」ということが理由なのかなぁとも思うのですが、とにかく音源の段階で逆相をぶつけたようなステレオイメージをしていたり、無駄にローエンドまで広がって楽曲を支配してしまう音源が多いと思います。
それらをアンサンブルに組み込んでいくと、前述の通りステレオ感がマシマシになって全体としての音像が崩壊します。
そうなる前に派手すぎる音源をアンサンブル用の音源へと整理してあげる必要があります。
ステレオマイキングのセンターイメージを整理したいから
以下の画像をご覧ください。
本書の意図としては、Aのステレオマイキングをして、ハードパンニング(LRにパンを振り切る)すると真ん中のイメージが伸びきって崩壊する「hole in the middle」現象が起きちゃうからセンターイメージの補完の為にBのようにセンターマイクも置こう。みたいな話です。
レコーディングをこれから行う際は、Bの様にセンターマイクを置くことでステレオイメージを作っていけばいいのですが、既に録音を終えているトラックに関してはそうもいきません。
正しくステレオイメージをキャプチャーするマイキングができていない場合DAW上のパンを狭める、エフェクトで締めるなどしなければ、芯がなく焦点のあっていないような無駄に広い音ができてしまうだけです。
特にドラムのトップマイク・オフマイクではこのような状態が非常に多く見られ、キック・スネアというビートの主軸が見えなくなりがちです。
サンプル系の音源に関してもサンプル収録時の録音状況によってこういった芯のない音になっているケースがあります。
スタジオで聴いたままの音像や、芯のあるセンターイメージを作り出すためにローエンドも含め、ステレオイメージを締めてあげる必要があります。
レコードの音像を再現したいから
これは逆説的な話なんですが、レコードカッティングを行う際のローエンドのモノラル化のサウンドに我々の耳が慣れてしまって、その年代の音像や質感を再現する為にはローエンドをモノラルにしていかざるを得ない、という現象があります。
レコードのカッティングマシーンにはオーバーカットを防ぐためにフィルターやディエッサーが搭載されています。
有名なNEUMANNのカッティングマシーンにはEE66又はEE70という楕円形フィルターが搭載されており、強制的にローエンドをモノラルにします。
元はテクニカルな理由で搭載されたフィルターですが、このフィルターの作る音像がいわゆる「レコードの音」の一因も担うため、その年代の質感・音像を再現する為にはローエンドを締めていく必要があります。
カッティングについて更に詳しく知りたい方はこちらを
言葉にするとこんな感じですが、まぁ単純にグッとくるし、いろんな再生環境での互換性が増すし、他の素材のためのスペースが空いてミックスしやすいし、ヘッドルーム稼げるしーーーとか考えながら締めまくってます。
逆相ぶつけてステレオイメージとか作るプラグインとかあるけど、それってモノラルへの互換性がないし、デジタルで作業している以上ボリュームは0、パンも100が限界なのだから、その中でレンジ作りたいなら、広げるのではなくカット方向の「締める」「減らす」っていう処理が基本になるよねーーー、とか思いながら素材を捏ねるわけです。
作業の流れ
ここからは実際のミックス時の作業の流れを説明します。
客観的な判断・直感的な操作
ミックス用のデータを受け取ったらAir Pods Proでリスニングしながら、まずはDAWのパンを締めます。
レコーディングの段階ではAir Pods Maxでキューボックスの単独や2Mixを聞きながらマイキングで締めます。
Air Podsを使用しているのは、自分が所有しているモニター機材の中で最も位相やステレオイメージにシビアだからです。
一旦ひとつずつソロで聞いていって、本格的なミックスに入る前の素行チェックをしていきます。
歪んでいないか、ノイズはないか、ドライのデータをもらう必要はないか、分けて書き出して欲しいトラックはないか、などを考えながらステレオイメージとローエンドの具合もチェックしていきます。
全てのトラックの下調べが終わった後に、スピーカーやラジカセなど、各種機材でダブルチェックを行います。
ミックスを行う際に監視しているメーターは以下の通りです。
Waves / VU Meter
VU Meterはローエンドに反応しやすいので、量感を探るために監視をする。量はあっても良いけど、ステレオ幅は狭い方が良いのか、それとも量感は少ないんだけど、広くステレオに存在させた方が良いのか、などをリファレンストラックと比較することが多い。iZotope / Insight2
送られてきたトラックがステレオファイルでも中身がモノラルだったり、
モノラル素材をパンニングしているだけだったり、モノラルに分割しても良いくらいステレオ幅がなかったりしないかを確認する。
自分が育ったスタジオではステレオイメージの監視にリサージュを使用しており、その感覚に慣れているのでこの表示を使っているが、別にどの表示でも良いと思う。Voxengo / Correlometer
素材のステレオイメージがフェイクかどうかを判断する。
パッと聞きステレオイメージが広い素材でも実は逆相をぶつけて広げているものがある。帯域別に位相関係を監視して、しっかりモノラル互換の取れた実音のステレオイメージなのか、再生環境によってはぶっ壊れるフェイクのステレオイメージなのかを判断する。
位相が乱れていた場合は後述の位相操作系プラグインを使用して補正を行う。Melda Production / MMultiAnalyzer
無駄に出ている帯域がないかを確認する。
必要のないローエンドはそもそもカットしてしまうことで、他の素材のためのスペースを作ってあげる。
※それぞれの詳細は別途こちらをお読みください。
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