マイリファレンストラック 2022
年末です。
去年の「マイリファレンストラック 2021」に続き、今年リリースされた楽曲の中からリファレンストラックをまとめて紹介したいと思います。
これらの楽曲は音楽的に好きなことはもちろん、サウンドの面でお手本にさせていただいたり、精神的なリファレンスにさせていただいたり、研究対象にさせていただいた楽曲達になります。
去年と同様で、アーティストや楽曲ごとに設定される明確なリファレンス(オマージュ・インスパイアとも言う)とは異なります。
ヘッダーの画像のように気になった楽曲は都度日付をつけたプレイリストにまとめ、マスタートラックにADPTR / MetricABを立ち上げて取り込みつつ、自分の作業する楽曲とAB比較しながらミックス作業を進めていくというのが基本の流れです。
https://www.plugin-alliance.com/en/products/adptr_metricab.html
本当はエンジニアやプロデューサー等に触れていきたいんですが、サブスクやネット上にあまりに情報がないので、わかる部分だけ書いています。
順不同で、並びに意図はありません。
それではいきましょう。
Lizzo / About Damn Time
去年はKiss Me Moreだったけど、今年はAbout Damn Timeがありとあらゆるラジオや媒体で流れてた印象。
Nile Rodgersみが深いカッティングギターが印象的で、シンプルな構成にまとめられているこの楽曲では、ディケイが見える系のリバーブに頼らない奥行きの作り方やバランスの取り方を学んだと思う。
あと全員がジャスト・オングリッドではないっていう気持ちよさとか。
Purple Disco Machine Remixもめっちゃいいよ。
Robert Glasper / Over (feat. Yebba)
前作に引き続きChris Athensの激ヤバマスタリングが光るBlack Radio IIIの中でも一番好きだったのがこの楽曲
まぁとにかく音の気持ち良いこと。
仕事から家に帰ってひと踊りするのに最高。
基本的にはピアノリフのループなんだけど、全然聞き飽きなくてずっと身体が動かされるのは有機的・動的なアプローチがエンジニアリングで施されているからだと思う。
ちょっとボワついているくらい肉感あるこのボーカルサウンド真似してみたいんだけど、まだうまく作品に昇華できていない。
CHAI / ACTION(with Zazen Boys)
しっかり ZAZEN だし、しっかりCHAIっていう見事な融合の具合。
元々のトラックにもあったシンセもしっかりMATSURI STUDIOで鳴らした音をマイクで録ったみたいな質感になっていて、バンドサウンドに溶け込んでいて気持ち良い。
どうやって作ってるんだろう。あと相変わらずのタイトで肉肉しいドラムね。部屋の響きが肝なのかなぁ。
個人的に嬉しいのはMIYAさんのベースプレイがやっと音源で聴けるという点。ZAZENのスタジオアルバム待ち遠しいっすね。
戦慄かなの / Iceblink
イントロのタイトさから一気に湯気のように上下左右に広がる音像がいつ聞いても泣きそうになる。
このベースの質感・量感とか、締めるところは締める音作りが緻密で、自分がこういう音楽をミックスするときは大分参考にさせていただきました。
ローエンドをモノラルにするのかステレオにしていくのかっていう部分が特に。
MVのミックスはリリース版と結構違うので、サブスク版をぜひ聴いてもらいたいかも。
「エジソン」も好きだったし、guのチャンキーニットの楽曲も好きだったし、単純にケンモチヒデフミさんが大好きな可能性はある。
Lee Jin Ah / Rum Pum Pum
自分だったら可憐なボーカルを残したままここまで全てを聞かせるまとめ方はできないと思う。
恐らくもうちょっと声がマッチョになってしまうかなぁ・・・。
混声コーラスやストリングス、フュージョンみのあるギター等めちゃくちゃに素材多いし、展開も多いし、ピアノソロもあるし、その複雑な内容をここまで空気感保ってまとめられてるの本当にすごくて、カット方向の処理と動的な処理が重要なのかなぁと感心しています。
ストーリーテリングが完璧。
ライブバージョンもめっちゃ好き。
The Weekend / Sacrifice
年始に発表された「Dawn FM」コンセプトもサウンドも衝撃的で、1月はとにかく聴きまくった気がする。
その中でも一番好きなのがSacrifice。
おそらくThe Weekendの他の楽曲も担当しているIllangeloが楽曲をまとめてると思うんだけど、ビートのクリッピングとトータルの動的処理がうますぎる。
このアルバムをきっかけにクリッパーやサチュレーションのプラグインを全部見直したのが年始の自分の大きな変化。
意味わからんくて当時食わず嫌いしてたgullfossもIllangeloの影響で見直してみたりもした。
歪みを歪みじゃなくてトランジェントシェイパーとして捉えてるところが肝なのよね。
kep1er / MVSK
ポップスの声のレイヤーやエディットを学ぶなら今年はこの曲。
去年はENHYPENのDrunk-Dazedだった。
ウィスパーの使い方とか、オクターブ重ねるにしても歌うのか生成するのかの判断とか、エディットの強度であえてシンセっぽく声を聞かせたり、とにかく細かいテクニックがうま過ぎる。
声周りのトラック数とオートメーション想像するとやばい。
細かいディレイやリバーブのかかり方も違うので、来年も引き続き研究。
Up!もそうなんだけど、スネアとかバカデカくて良い素材が、ちゃんとバカデカいのも最高なんすよね。
あと韓国語ってやっぱ発音の関係なのか英語との相性めっちゃいいよね。
K-POPの日本語バージョン聞いてもしっくりこないのってそこらへんだと思う。ステムミックスの具合が全然違っちゃってるのもあるけど。
Tae / Hearthrob
正確には2021年リリースなんだけど、今年知ったから許して欲しい。
jaden jeongのプレイリストで知りました。
https://open.spotify.com/playlist/5xWqhW9tGTJf3WfVcG6PHg?si=992f22335ee345f3
オルタナ方面のエフェクト処理を学ぶなら今年はこの曲かなぁ。
リバース、テープストップやピッチベンドなど、細かいボーカルエフェクトも凝ってるし、リズムは打ち込みなんだけど、めっちゃ音像がバンドなのも聴きどころ。
竿ものが生であるってこと以外にも秘訣がありそうで、引き続きこのライブ感を研究したい。
2022年新譜全然出てないけど、SNSは動いているから来年期待したい・・・。
三浦透子 / 私は貴方
女優としても活躍されている三浦透子さんの楽曲。
ODD Foot Worksの有元キイチさん提供の楽曲で、アレンジも音像も超霊的。
最後までビート一切入ってこないしベースもないんだけど、それでも全然満たされてるっていうか。
木管のブレスまで音楽的にまとめてたり、後半のセクションだったり、アレンジや音使いも面白い。
小田朋美さんとのライブも宝石みたいに美しく、素晴らしかったので是非。
Kendrick Lamar , Summer Walker , Ghostface Killah / Purple Hearts
この楽曲は対比の美学って感じ。
声単体で聞けばめっちゃ鈍ってるんだけど、それ以上にオケが鈍ってるから成り立つ音作り。
各素材をソロで聞いてたら絶対に出来上がらないっていうか、2Mixの中の相対的な位置やバランスをコントロールできないとこうはならない。
改めてミックスとは相対的なものであると教えてくれる楽曲でした。
このアコースティックなキックとベースのロー感の作り込みとかも最高よね・・・。
United In Griefもモニターチェック用の楽曲として持ち運んでるんだけど、トランジェントがしっかり見えるスタジオでかけると気持ち良すぎてやばい。
ドラッグってこんな感じなのかもしれない。知らんけど。
これからリファレンスにしたい楽曲
発売日の関係や楽曲の難易度の高さから、2022年に作業をした楽曲には反映できなかったものの、これからどんどんリファレンスにしていきたい楽曲の紹介をおまけでいくつか。
SZA / Kill Bill
年末に発表されたSZAのニューアルバム「SOS」
本当にとんでもないアルバムが出てしまったなと思う・・・。
ちょっと凄すぎて、まだまだ消化に時間がかかりそうです。しばらくは研究。
この声の質感・位置とか全体の空気感とか面で迫ってくる感じどうなってんすかね。アルバム全体のラウドネスもこれまでに比べると低めで、近年のラウドネスノーマライゼーションや再生環境を知り尽くした音像って感じ。
Rosalía / SAOKO
SZAと同じく声の質感・空気感どうなってんねんっていうアルバム「MOTOMAMI」から一曲。
無指向でボーカル録ったりするとこの位置にボーカル置けるのかなぁ。
auto-tuneにリージョンぶつ切りのボーカル処理もかっこ良すぎない?
イントロから続くリフもスピーカーで鳴らしたものをマイクで録り直した感じの質感で、しっかりセンターのスペース開けられてるし、量感も確保してるんだよなぁ。本当にうまい。
2023年からパクりまくりたい名盤。
Wet Leg / Chaise Longue
元来バンドマンなので、こういう楽曲もサウンドも大好きなんだけど、いかんせん自分が最近担当させてもらっている楽曲だとここまでのオルタナ感・ガレージ感は出せないのでチャンスがあったら2023年は真似していきたい。
細かいとこだとChorusの高揚感のためにリズムのシークエンスをちょっとずつ変えてるのがうまいなぁと思う。16分のシェイカーと8分のハットループの音量と定位。
Sam Gendel & Antonia Cytrynowicz / WONDERING, WAITING
聞いた瞬間「あ、なんかこれやばいな。」と思ってプレイリストに入れた。
キモさを見習いたいけど、直接的に何すればいいのかわからん。
メイキングを見る限りヘッドホンなしで作業してるし、傍に見えるテープとかもキモなのかなぁと思うけど、こんな感じの制作チャンスがなかなかない。タイムやピッチを一切いじらなくていいならこんな感じで被りあり気で作っていけるんだけどなぁ。
来年はこんな感じの攻めた制作もしてみたい。
まとめ
2022年も刺激的な音源が多かったです。
ラウドネスノーマライゼーションやドルビーなど、再生環境のフォーマットやルールが多様化してきたので、そこを意識できていたかどうかの差も音源に出てくるようになったなぁと思います。
まだgrammyやPitchforkを全部さらえていないので、年始も引き続きディグっていこうと思います。
https://pitchfork.com/features/lists-and-guides/best-albums-2022/
余談ですけど、クレジットってマジでCD買う以外に確認する方法増ええないんすかね・・・。
これええやんって思って演奏やマスタリング等頼もうにもクレジットわからないから、依頼できないんですよね。
エンジニア別で音源聞きたい時にも困る。
自分もエンジニアとして仕事をしても、紙媒体以外に表に出ないから宣伝効果が著しく低く、結局自分でSNSでシェアするしかないっていうねぇ。
ブックレット作る段階で100%デジタルデータになっているはずなので、その文字情報がそのままサブスクに載る機能とか欲しいっすね。
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担当した音源のプレイリストはこちらから
ひとつよしなに。
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