見出し画像

【週刊プラグインレビュー】Kiive Audio / MK-609

今回はKiive Audioから発売されたリミッター・コンプレッサー「MK-609」をレビューしていきます。

製品に関してはこちらを

直接の元ネタになっているAudioScapeのMK-609に関してはこちらを(無音)

さらにその元ネタのNEVE33609に関してはこちらをご覧ください。

またしてもKiive Audioです。
もう設計思想がちゃんとしてるし、音も最高だし、レビューせざるを得ないという感じなので、進めていきます。

今回Kiive Audioがモデリングしたのは、NEVE 33609を元にして生まれたAudioScapeのMK-609という商品になります。

プラグインを正しく理解するためにもこの辺りの知識が必要だと思いますので、順を追って解説していきます。


NEVE 33609

NEVE社の33609は、1969年に生まれた2254をベースに1980年代初頭に開発されたリミッター・コンプレッサーです。
2254と同じくリダクション部にはダイオードブリッジ回路を用いています。

2254の開発経緯とダイオードコンプレッサーの動作方式とサウンドに関してはこちらをご覧ください。

3-4週間でこれ思いついて作っちゃうのは流石に化け物だと思う・・・。

IC回路を用いないディスクリート構造で、少し歪みを含んだ独特の力強い音は長年マスターコンプレッサーやバスコンプレッサーとして愛されています。

筆者の出身スタジオであるソニー・ミュージックスタジオには各スタジオに2254と33609が1基ずつ入っており、愛用していました。
入出力段のトランスによってゲインリダクションしない状態でも、通しただけで重心が一段下がったような印象になります。
リダクション部はすこーしだけヌメっとした質感ですが、基本的にはスムース。深くリダクションさせていくと、リリースの遅さとトランスの音色も乗っかって「ドゥボウ!」「ンバシュ!」みたいな一回深く潜り込んだような音になります。

Rupert Neve氏も解説していますが、リミッター部はブリックウォールに近く、かなりズバッとレベルが叩かれます。
ただここもデジタルピークリミッターのようにパツパツに切れるわけではなく、歪みが乗っかって「ジャジャジャ」「ザグ!」みたいなザ行の音になります(概念)

レコーディング時にはピークを叩きつつ明確にキャラを乗せるのに使います。例えばスネアがピークになってしまうドラムのオーバーヘッドで、スネアのヒットの瞬間だけかかるようにするとか、和太鼓や三味線のようなアタックの塊のような楽器にリミッティングするとか。

レベルが止まるだけでなく、歪みの音色が付加されてクリッパーのようなノリで使うことができます。
かけ録り(ADコンバーターを通過する前)であれば、案外歌にもいいです。

余談ですが、同じ動作方式の2254もめっちゃカッコいい音です。
ダイオードブリッジのコンプレッションサウンドを聞いてみたい方は
Analog ObsessionのBritpressorがオススメです。

https://www.patreon.com/posts/britbundle-79798060


AudioScape MK-609

AudioScapeはフロリダ州デイトナビーチの機材制作会社です。
手頃な価格でブティックアナログハードウェアを創り出すことを信念としており、すべての機材が完全ハンドメイドで作成されています。

今回のプラグインのモデリング元であるMK-609をはじめ、
各社の名機材にカスタムを加えて再現したハードウェアやプラグインの開発・販売を行なっています。

↑ スタジオツアー楽しそう・・・

AudioScapeが再現した33609は33609の中でも最も初期のモデルと言われるいわゆるMetal Knobモデルになります。当時のトランジスタや回路設計を徹底的に調べて部品も調達して再現したそうです。すごいこだわり。
現行品はプラスチックノブなのですが、確かに音の張り出し方に違いがあるように感じます。Metalの方が荒々しいけど、前に出るって感じ。

で、AudioScapeはただ33609を再現するだけでなく、ここに現代的なアレンジを加えます。
サイドチェインハイパスフィルターとスーパーファストアタックです。
これによりさらに柔軟なサウンドメイクが可能になっています。

Kiive Audio MK-609

そしてそのMK-609をプラグイン化したのが、今回取り上げるKiive AudioのMK-609です。
名前が同じでややこしいのですが、今後表記されるMK-609は基本的にこちらのプラグインのことを指します。ご了承ください。


PR

ここで一旦PRです。
レコーディングエンジニアやってます。

レコーディング・エディット・ミックス・オンラインレッスン等、
全て6000円 / 時で承っておりますので、メール・DM等でお気軽にご相談ください。
Gmail / Twitter / instagram

プレイリストはこちらから

ひとつよしなに。
執筆継続のため、noteサポートもお願いします。


コントロール

リミッターセクション

プラグイン左側がリミッターコントロール

Limit In
・リミッターのON / OFFを制御

Limiter Attack(Fast/Slow/Super Fast)

・ピークに対するリミッターの応答時間をコントロールします。

・Fast(約2 ms): 一般的なピークリミッティングに適しています。
Slow(約4 ms): より自然なダイナミックレスポンスを可能にします。
Super Fast(約0.3 ms): 最も速いトランジェントピークを捉え、アグレッシブなリミッティングに最適です。

Limiter Threshold(dBu)

・リミッティングが開始されるオーディオレベルを設定します。スレッショルドを下げると、リミッティングの量が増加します。

Limiter Recovery(ms)

・ピーク後にリミッターが圧縮を停止するまでの時間を決定します。

・Autoモード(a1, a2): 信号のダイナミクスに基づいてリカバリー時間を自動調整します。ピーク時には迅速に、持続的なラウドネスにはゆっくりと応答します。


コンプレッサーセクション

プラグイン右側がコンプレッサーコントロール

Compress In

・コンプレッサーのON / OFFを制御

Compressor Attack(Stock/Fast/Slow)

・音量の増加に対するコンプレッサーの応答速度を調整します。

・Stock(約3 ms): 多くの用途に適したバランスのとれたタイミング。
Fast(約0.8 ms): パーカッシブな音やトランジェントの強い音に対するタイトなコンプレッションに最適です。
Slow(約6 ms): 特に低周波数のコンテンツにおいて、滑らかで徐々に変化するコンプレッションに最適です。

Compressor Threshold(dBu)

・コンプレッションが開始されるレベルを設定します。

低いスレッショルドとハイレシオと組み合わせるとリミッターのような機能を果たします。

Compressor Ratio

・スレッショルドを超えた信号に対して適用されるコンプレッションの量を決定します。1.5:1から6:1まで選択可能で、様々なコンプレッションレベルに対応します。

Compressor Makeup Gain

・コンプレッションによるゲインリダクションを補正するために出力レベルを上げます。

  • 注意: MK-609プラグインでは、コンプレッサーがバイパスされていてもメイクアップゲインが常に効く状態になります。リミッター部でレベルを叩いた場合もコンプレッサー部のゲインを用いてレベルを上げます。

Sidechain High-Pass Filter(SC-HPF)

・サイドチェーンにハイパスフィルターを挿入し、設定したカットオフポイント以下の低周波数にコンプレッサーが反応しないようにします。

・Off: サイドチェーンフィルタリングを無効化します。
・50Hz: 50Hz以下の周波数をフィルタリングします。
・100Hz: 100Hz以下の周波数をフィルタリングします。

Mono/Stereo/Quad Mode

・Monoモード: モノモードでは、2つのオーディオチャンネルが独立して動作し、それぞれが個別のコンプレッションとリミッティングを受けます。

・Stereoモード: 両チャンネルのサイドチェーンがリンクされ、両チャンネルに同じ量のコンプレッションが適用され、ステレオミックスのバランスが保たれます。

・Quadモード: オリジナルのハードウェアでは複数のユニットをリンクするための設定ですが、プラグインでは異なる機能を持ちます。
MK-609プラグインでは「louder wins」ロジックを使用し、より大きなチャンネルが両チャンネルのコンプレッションに影響を与え、複雑なステレオ状況でよりダイナミックなコントロールが可能にします。

※ ステレオモードで使用すると、左右のチャンネルに均等にコンプレッションがかかるので、ステレオイメージが保たれます。
クアッドモードは左右のチャンネルが独立して動きつつ、コンプレッションは音量の大きいチャンネルの動きが優先されます。そのため元の素材のステレオイメージは壊れますが、よりダイナミックな動きのあるサウンドメイクができます。

質感としてはクアッドモードにするとセンター抜けしたような感覚になるものの、レベルに左右差のある素材やパンニングの効いた素材、アルペジエイター的なフレーズだと広がりが出て面白いステレオイメージになります。
一旦ステレオモードでコンプの値をざっくり決めたら、モードを切り替えて、適宜3つのモードから選ぶと良いと思います。


ここから先は

1,725字 / 5画像

¥ 150

期間限定!Amazon Payで支払うと抽選で
Amazonギフトカード5,000円分が当たる

よろしければサポートお願いします。 いただいたサポートはnote運営や音楽機材の購入・研究に充てさせていただきます。